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燠火

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第一章

               燠火
 おきびと読む、私は薪が燃えて赤くなったものはそう呼ぶと子供の頃祖母に教えてもらった。
 その時は何も思わなかった、けれど大人になってだ。
 私は高校に入学してから街の鰻屋でアルバイトをする様になってお店のご主人にこんなことを言われた。
「時間がかかるけれど炭火がな」
「鰻にはですね」
「一番いいんだよ」
 こう私に話した。
「これ焼き肉でもなんだよ」
「炭火で焼くとですか」
「一番美味いんだよ」
「だからうちのお店はですね」
「ああ、炭火を使ってな」
 それをというのだ。
「焼いてるんだよ」
「時間をかけて」
「本当に時間はかかるさ」
 ご主人は私にこのことをまた話した。
「実際な、けれどな」
「それでもですか」
「それだけの価値はあるからな」
「時間をかけるだけの価値が」
「ああ、だから炭火でいくからな」
「私達はですね」
「そっちの処理も頼むぜ」
 使った炭のそれをというのだ、つまり火はしっかりと消しておけということだ。それで私もだった。
 炭火の処理もした、使った後の炭にはしっかりとお水をかけて完全に消した。それで一緒に働いている大学生の奇麗な人にも話した。
「若し消し忘れたり消しても不十分なら」
「それが火種になってね」
 それでとだ、その人も私に話してくれた。
「大変なことになるわよ」
「火事ですね」
「それの元だから」
 それでというのだ。
「絶対によ」
「しっかり消さないと駄目ですね」
「お店が火事になったら」
 その時はというのだ。
「もう終わりでしょ」
「はい、お店自体が」
「だからね」
 それでというのだ。
「しっかりとよ」
「消しておかないと駄目ですね」
「絶対にね」
「そういうことですね」
「ええ、じゃあね」
「これからもしっかりと消していきます」
 私は先輩の言葉にも頷いてだ、それでお店の火をしっかりと消しておいた。そうしたことを続けていてだった。
 ある日ご主人が私にこんなことも言ってきた。
「うちは吸う奴いないからいいな」
「煙草ですか」
「ああ、それを吸う奴がいないからな」 
 だからだと言うのだった。
「よかったよ」
「若しですね」
「煙草吸う奴がいたらな」
「火の気ですよね」
「炭もだけれどな」
 それに加えてというのだ。
「そっちもあるからな」
「だからですね」
「ああ、煙草吸わない奴がいてな」
 それでというのだ。
「そのこともよかったよ」
「煙草の火もですね」
「炭の火と同じでな」
「火事の元ですね」
「火の用心だよ」
 何といってもというのだ。
「煙草もな、それで炭もな」
「そっちもですね」
「これからもしっかり消しておいてくれよ」
「わかりました」
 私はお店のご主人の言葉にも頷いてだった、そうして。 
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