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奴隷は嫌だ

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第一章

      奴隷は嫌だ
 ナポリで生まれた船乗りアマロ=ギンガーザは船乗りとして働いていた、彼はこの時ナポリの港からアテネまで向かう船に乗り込んでいたが運悪くイスラムの海賊船に捕まってしまった。それも船一隻丸ごとだ。
 イスラムの海賊達は夜急に船に襲い掛かりギンガーザ達を瞬く間に襲い掛かった時に切った者以外は縛り上げた、そのうえで彼等に対してナポリの言葉であるイタリア語、アラビア語訛りのそれで言うのだった。
「安心しろ、殺しはしない」
「船の積み荷は全部貰ったしな」
「お前達の命は助けてやる」
「このことは安心しろ」
 こう言うのだった、だが。
 ギンガーザは他の船乗り達に転がされた船の甲板の上で小声で言われた。
「絶対に奴隷として売られるぞ」
「だから俺達は生かされているんだ」
「サラセンの連中はそうするらしい」
 サラセンとはイスラム教徒達のことだ、欧州では彼等をこう呼んでいるのだ。
「捕まえた奴等は殺さない」
「殺さず奴隷として売り飛ばすんだ」
「そうしてそっちでも儲けるんだ」
「そうしてくるぞ」
「奴隷だって、何てことだ」
 ギンガーザは奴隷と言われて瞬時に嫌な顔になった、欧州にも奴隷はいるが彼等の扱いは実に酷いものだ。
 それでだ、彼は自分のこれからのことを思って落胆した。黒い目に顎が割れた逞しい顔立ちと濃い眉、黒く縮れた髪の毛がナポリの男らしい。身体つきも海の男に相応しく逞しく胸毛も服の間から見えている。腕の毛も中々のものだ。
「あんなのになる位ならな」
「死んだ方がましだな」
「全くだ」
「サラセンの奴等にどうこき使われるか」
「そう思うとな」
「本当に死んだ方がましだ」
「俺達は皆お先真っ暗だぜ」
 皆奴隷にされると聞いて暗澹となった、それである者は海賊達に悪態をつきある者は諦めて何も言わなくなりある者は泣いた。ギンガーザは黙ってしまった。
 そうしてアレクサンドリアにまで連れて行かれ港から降ろされるとだった、海賊船の船長はギンガーザ達に対して笑いながら言った。
「これからお前達を奴隷市場に連れて行くからな」
「やっぱりそうか」
「俺達と奴隷にするつもりか」
「そのつもりか」
「そうだ、奴隷は高く売れる」 
 そうなるというのだ、見れば船長の後ろにいるイスラム教徒の者達も楽しそうに笑っていてギンガーザ達には悪意に満ちた笑みに見えていた。
「これは楽しみだ」
「糞っ、勝手にしろ」
「精々高く売りやがれ」
「そうなってやる」
「俺達は一生奴隷か」
「神は何で俺達にこんな試練を与えるんだ」
「神?俺達の神はアッラーだ」
 船長は嘆くギンガーザに今度はこう言った。
「お前等の神と違う、大体お前等キリスト教徒はキリスト教徒でも奴隷にするな」
「そうだが」
「それがどうかしたのか」
「一体何が言いたいんだ」
「イスラムでは奴隷になるのは異教徒だけだ」
 船長はこのことを言うのだった。
「ムスリムは奴隷にならない」
「何っ、そうなのか」
「サラセンではそうなのか」
「イスラムを信じると奴隷にならないのか」
「そうなのか」
「アッラーの下に全てのムスリムは同じなのだ」
 例え貧富や立場の違いはあるがだ。 
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