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ソードアート・オンライン 幻想の果て

作者:真朝
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五話 その日の始まり

 
前書き
また更新遅くなってしまいましたが……読んでくださっている方、評価を入れてくださっている方、本当にありがとうございます。
 

 
攻略組を目指すコミュニティに参加するプレイヤー達の集会所になっている酒場。グループのまとめ役でもあるエルキンが経営するそのプレイヤーショップは主に彼が調理、ストックしたドリンク、カクテルの類を嗜む場であるがエルキン本人がフィールドに出ず店にいる時間は簡単な軽食も注文することが出来た。

その日、朝から店を開けていたエルキンの酒場で、カウンターの丸椅子(スツール)に腰掛けたシュウとアルバの二人がいた。二人がコミュニティに参加して二ヶ月近く、壁際のその席は彼らが好んで座る定位置となっている。

「珍しいなこんな時間に」

頬杖をついて瞳を閉じているシュウ、アイテムウィンドウを開き楽しそうに所持品の整理をするアルバの背にそんな声を掛けたのは額にサークレットを装備した少年、トールだった。

「おっ、トールじゃん、もう戻ってこれたのか」

「なんとか急ぎの用件は一日で済んだよ。パーティーを空けてしまってすまない」

先日の呼び出しから下層に下りたトールは翌日帰って来れなかった。一日の間パーティーから離脱していたことを詫びる彼にアルバは目前のウィンドウを閉じながら笑って応じる。

「気にすんなよ、一日ぐらい。こっちも丁度消化したいクエストがあったしな。ん?」

言いながら身をよじってトールの方を向いたアルバがその背後に人の姿を認めて首をかしげる。隣席のシュウも向き直るとトールに連れられているような立ち位置にいたその二人の人物をちらりと見る。

「どちら様?」

「ああ丁度良い、二人にも紹介しよう。五十層のアルゲードで会ったんだけど、ここのコミュニティに参加希望してくれたカインズさんと、ヨルコさんだ」

横に身をずらしたトールに紹介された二人が丁寧に頭を下げ礼をとる。カインズと呼ばれた男性はフルプレートアーマーに身を包む典型的な重装型の剣士プレイヤーだった。体格は良く、身長も高めだが柔和そうな顔つきで威圧感の無い温厚そうな人物に見える。

一方軽装のヨルコは珍しい、特に剣士クラスでは稀少な女性のプレイヤーだった。深い紺色の緩くウェーブがかかったセミロング、純朴そうな丸みを帯びる大きな瞳には落ち着きが湛えられており、見た目のわりに大人びた印象を受ける少女だ。

「初めまして、カインズという者です」

「ヨルコといいます、私達普段は二人で組んでいるんですが、アルゲードでトール君からこちらのお話しを聞きまして、参加のお願いに来ました」

礼儀正しく挨拶する二人にシュウとアルバも一瞬だけ顔を見合わせると、椅子を回して体を向き合わせ、自己紹介を返す。

「んっと、俺はアルバート、大剣使いやってます。よろしく」

「初めまして、俺はシュウ。武器は突撃槍(ランス)で、メインタンカーをやってます、どうぞよろしく」

普段からすれば丁寧な口調で自己紹介を終えた二人にトールは頷くと、一旦カウンター奥に視線を巡らせ問いかけた。

「エルキンさんは留守か?」

「いや、今俺らで注文を入れたところだから厨房だよ、すぐに戻ってくると思うぜ」

アルバの言葉が終わらないうちに奥の厨房施設に繋がる通路から白黒のバーテンダー風衣装に身を包んだ店主、両手に小さな皿を持ったエルキンが姿を現した。シュウらと話すトールに気づくとにこやかな笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

「やあトール君、今戻ったのかい?」

「はい、用事自体はわりと早く片付きましたから。それで少し五十層に寄る必要があったんですが、こちらの二人と会いまして」

そう言ってシュウ達にしたようにヨルコ、カインズの二人を紹介すると、エルキンも表情を引き締め、二人に体を向ける。

「コミュニティの方針は理解してもらえてるのかな?」

「ええ、俺に出来る説明はしてあります、レベルも五十は超えているようですから条件はクリアしているかと思います」

「よし……おっとすまない、アルバ君とシュウ君に注文の品がまだだったね」

エルキンは手に持っていた小皿をシュウとアルバの前に置くと店内の空席を確認し、空いている隅の一角をヨルコらに示してみせた。

「ではまず集まりでの活動内容や決まりごとなどを私から説明しましょう、お二方あちらの席によろしいですか?」

「ええ、よろしくお願いします」

そうして案内され二人は店の奥のテーブル席に向かう、コミュニティに参加する上での最低限のルール説明がこれからエルキンによりなされるのだろう。基本的にコミュニティへの参加条件は一定のレベルに達していることぐらいだが、あからさまにマナーを守らない、倫理道徳に欠ける輩は加入を認めないことになっている。

ヨルコ、カインズの両氏はその点について問題は無さそうであったが、面談のようなこのやり取りは参加希望のプレイヤー全てに行われている。一般プレイヤーの善意による支援を回復アイテム支給などの元手にしているだけあり、参加者が真に攻略へ貢献する意識があるかどうか吟味することはおろそかにできないとの意向らしい。

「新規の参加者は最近では珍しいな」

「雑貨屋で装備素材探してるらしかったところで話し込んでな、偶然ここの話を出したら乗ってくれたんだ」

「いいんじゃないか?女性プレイヤーの参加なんて野郎共は喜ぶと思うぜ。つーかシュウさっきの挨拶、いつもよりやけに丁寧じゃなかったか?」

目をいやらしそうに細めてアルバが言うがシュウは気にしたふうもなく頬杖を下ろして配膳された小皿を引き寄せながら言葉を返す。

「初対面の淑女(レディー)は丁重に扱え、なんて子供の頃から親父に仕込まれててな、他意はない。それよりアルバ、さっさとあれを出せ」

「どんなキャラだよお前の親父さんは……ほいっと」

呆れながらアルバは既にオブジェクト化されていたアイテム、小さな手のひらサイズの樽を取り出し、カウンター上に置いた。そこでトールは先程エルキンが持ってきた彼らが注文していたらしいものの存在に気づく。

格子状に凹凸が並ぶ狐色の小さな焼き菓子。現実世界でいうワッフルのようなそれのみが皿に乗っている。朝食というには遅く昼食には早すぎる時間帯にそんな料理を注文していることに疑問を持ったトールが二人に顔を向けると、そこではアルバが得意気な顔をして今しがた取り出した樽に指で触れ、ポップアップウィンドウを浮かび上がらせた。

そのままウィンドウから《使用》の項目が選択されると触れていたアルバの指先が(ほの)かな紫色に光り出す。特定のアイテムでのみ可能な対象指定モードと名のつくそのエフェクトをアルバが焼き菓子の表面にジグザグに走らせるとその軌跡に、鮮やかな金に色づきながらも透明度の高い、とろりとした液体が塗られていく。

「これは……」

「アンバー・ハートっていう蜂蜜系のアイテムさ。四十七層の大分外れにある村で受けられるクエストでゲットできた」

それだけ答えると黄金色の蜜で彩られた焼き菓子にかぶりつく。一口で半分を頬張ったそれを咀嚼すること数秒、きつく目を閉じ辛抱堪らないといったリアクションを見せながらアルバが悶える。

「くーーーーっ、凄ぇ甘さだなこれ!ぜんっぜんくどくねぇし、なのに濃厚ってか……」

「ああ、これならあんな目にあったのも報われるな」

同様の操作で焼き菓子にトッピングをしていたシュウも同意し舌鼓を打っている。余程満足のいく味わいが得られたらしく、その頬が僅かに笑みの形へと持ち上がっていた。

「そんなに美味いのかそれ」

「おう!しかもこれな、一回分でHPの上限値が八〇〇プラスされる効果もあるんだよ」

「なっ、ステータスアップアイテムか!?」

一人その感覚を共有していなかったトールが発した問いへの返事に驚愕する。SAOにおけるキャラクター固有のステータスとしては実質HP、筋力値、敏捷値の三つしか存在しないのだがこれまでにそれらのパラメータを上昇させるアイテムが存在することが確認されていた。

上昇値はいずれも微々たるものだが通常レベルアップすることでしか強化できないそれらを増強できるアイテムは当然の事ながらプレイヤーの間で超のつくレアアイテムとして重宝されている。

「一回性のクエストだったからな、おそらく一人のプレイヤーにつき一個限定。NPCの話からして開始条件はおそらく一定のレベルとドロップする森林ダンジョンのマッピングだろう」

「寄った街のNPCには全部話しかけるようにしてるからさ、初めて四十七層回ったとき怪しいと思ってたんだよなーあの猟師。ただこのクエストやるんなら注意一つ」

アルバは神妙な面持ちで人差し指をぴんと立て、興味深そうに聞き入っていたトールに告げる。

「クエスト受注してる間だけ見えるらしいオブジェクトからこいつを手に入れたら妙な――何ていうか、見えないトンネルをくぐらされたような感覚がしてさ、嫌な予感して確かめたらダンジョンが結晶無効化エリアになってた」

「無効化……そんなクエストがあるのか」

結晶とは魔法という要素がほぼ存在しないこのSAOにおける唯一のマジックアイテムである。使用者を任意の街やホームへ転移させる転移結晶、対象のHPを瞬時に全快させる回復結晶など、使い捨ての消耗品にしては高価な品だったがいずれも緊急時の回避手段として中層以上のプレイヤーには必携のアイテムとなっていた。

「クエスト情報も更新されててさ、採取して脱出するまでがイベントとしての流れなんだろうけど、こっからが本題だ」

そこまで言うと嫌なことでも思い出したかのようにアルバが眉根を寄せ、それをまぎらわすように残っていた半分の焼き菓子を口の中へ放り込んだ。そのままもごもごとしながら続きを語ろうとしたところに、いつの間にか注文していたらしい紅茶系とおぼしき香りを放つドリンクが注がれたカップを置いてシュウが口を挟む。

「食べながら喋らなくていい。それで、採取した帰りだがダンジョン自体は四十七層だからな、湧くモンスターはレベル的に軽く狩れる程度のやつばかりだが、帰り道にどうしても通らないといけないエリアに……クエストモンスターなんだろう、普段見ないやつが湧いてたんだ」

説明を引き継いだシュウもそこで言葉を切り、思考を整理するようにカップから紅茶を一口飲んで間を空けてから再び語りだす。

「ハニー・イーターっていう、また分かりやすい名前のモンスターだったんだがな。……三メートルぐらいはあるんじゃないかって熊で、何の冗談か知らないがHPバーが三本あった」

「な……っ、三!?」

先程から驚かされてばかりいるトールだが丸くしている目と口から、その度合いが本日最高のものだと窺い知れた。SAOのモンスターで複数のHPバーを持ちうるのはエリアボス、フロアボスといった普通なら複数人のプレイヤーでパーティーを組み挑むのが前提とされる強敵の証明である。そんなモンスターにたった二人で遭遇したと聞かされ平静でいられなかったらしい。

「大丈夫だったのかお前達!?」

「だったからここにいるんだろ……」

「思いつきでやったことだが、俺の方で採取したアンバー・ハートをオブジェクト化させて放ったら食いついていってな。そっちに気をとられてる間に脱出できたんだ。……おかげで俺はクエスト失敗になったが」

そこまで聞き終えるとトールは乗り出していた身を落ち着け、スツールに腰を落とすと大きく安堵の息をついた。

「心臓に悪いなまったく、俺のいないところでそんな無茶しないでくれよ」

「いや確かにびびったけど、倒せない相手じゃなかったと思うぜ?わりに合わねえと思ったから逃げてきたけどさ。多分俺達三人なら余裕で狩れるんじゃねえかなアレ」

飄々とそんなことを言ってのけるアルバ。ボスクラスのモンスターを指して、自信過剰にも聞こえそうな台詞だったが続いたシュウの言葉もそれを否定するものではなかった。

「ああ、少しはやり合ったが飛びぬけた攻撃力やスキルを持ってるわけでもなさそうだった、次に戦う機会があれば凌いでみせるさ。なんだったらトール、これから受けに行ってみるか?MAPデータなら俺達から渡せるぞ」

「……いや、興味はあるけど今日は別件で出かけなくちゃいけないんだ」

「別件?」

「ああ、また私用で悪いんだがまずミドウさんに会っていかないといけない」

「――それは丁度良かったな」

その言葉の意図が理解できず首を傾げたトールの後ろにある席に、先程のヨルコのような女性以上に珍しいといえるかもしれない高齢のプレイヤーが腰掛ける。顔立ちには重ねた年齢を感じさせる皺が幾重に刻まれているが、引き締まった表情には衰えなど感じさせない力強さが滲み出ている。

老爺は少年たちの会話に間が生じると、ちらと視線を彼らのほうへ傾け声を発した。

「無事にやっているようだな」

その声にハッと振り向くトール、今気づいたというように眉端を上げるアルバ、老爺が現れた方に顔を向けていたため特に反応も見せないシュウと、三様の反応で少年たちが見た老人はSAOにて職人プレイヤーとして活動している彼らにとっても馴染み深い人物だった。

「ミドウさん!」

今話にも上がったばかりのこのミドウという名の人物。鍛冶スキルを習得しておりシュウ達が扱う武器、金属製防具の製作者であり、コミュニティの活動を支援するプレイヤーの一人でもあった。

このSAOにおいて職人スキルによるアイテム生成行為にはスキルレベル、使用道具を除き出来具合に干渉できる要素は存在しないのだがこの老人は寄せられたオーダーメイドの依頼を

『今日は日が悪い』

などと偏屈な職人のように言い捨て拒否することがある変わり者だった。しかしそれだけのこだわりあってか、彼の製作する武器はランダムパラメータにより品質が変動しやすい中、高水準のものが多く常連客も少なくないらしい。

「エルキン氏に会いに来たのだが、応対中のようだな」

「新しくコミュニティに参加される方達なんですよ、しかし丁度良か――」

奥のテーブルで話すエルキンを見て呟いたミドウにトールが何事か言い出そうとしたところに、アルバが身を乗り出して割り込んだ。

「よっす爺さん!前行った時から良い武器出来た?両手剣で俺のみたいなやつさ」

「あのタイプの武器はそう滅多に出ん」

「駄目か……、そろそろ武器もアップグレードしたいんだけどな」

肩を落としながらアルバは自分の背に掛けた、やや特殊な形状をした両手剣を見る。柄から切っ先にかけて徐々に幅を増す両刃の刀身、更に先端部分は鉤型に変形しており重心が大幅に先へ寄った形となっている。

「いっそインゴットに戻して素材にしたらどうだ、それだと似た型が出やすいらしいぞ。――気持ち程度にはな」

「ほとんどギャンブルだしよそれ、あんまり試したくないんだよなー」

シュウの提案に渋い顔をするアルバの悩みは剣士クラスの人間ならば誰もが重要視するであろう武器の問題だった。剣の名を冠するだけありこの世界における武器の種類は途方も無く多い。特に一定以上のランクのプレイヤーメイド品に至っては同じ名の武器が出ることすらほとんど無いのだ。

そんな中でアルバが武器を切り替えるのに二の足を踏んでいる理由が彼の両手剣が持つ特異性にあった。プレイヤーメイドの武器の中でも稀に彼の《ファルタートロイメン》のように両手剣の枠組みの中にあって特殊な形状で生成されるものがある。

先端に重心が寄った、いわゆるトップヘビー型の両手剣であるその剣には一撃の重さが増すことにより普遍的な形状の両手剣と比べ設定上の攻撃値のわりに有利なダメージ判定が得られるという特徴があった。同時にそれは取り回しの悪化、再攻撃までの時間延長というデメリットも生んでいたが身軽さを生かした一撃離脱型のダメージディーラーであるアルバにはこの上なく相性の良い武器となっていた。

シュウの突撃槍(ランス)、シュルツェンリッターもまた武器カテゴリこそ違えど境遇を同じくするものだった。槍身、というより手を守る覆い(バンプレート)の拳側に当たる部分がサーベルが持つような護拳をかたどっており武器防御判定が得られるようになっている。それを扱えるよう槍身は相応に短くなっており、重量の低下からアルバとは逆に一撃の威力を減じさせる仕様になってしまっていたが、それは取り回しと重心の安定、それによる攻撃精度(アキュラシー)の向上に繋がっていた。

それら風変わりな出来(オッドクオリティ)の品々は使い手を選ぶが、使いこなせば同グレードの武器を遥かに凌ぐ有用性を示すが、生成できることが稀ということだけあり、今のアルバのように使い手は武器の代替えに苦心することとなる。

「自分で金属なり採ってきて依頼することだな、こちらも仕事だ、両手剣ばかりを造っているわけにもいかん。それで、トールが何か言いかけていたな」

「はい、折り入ってお頼みしたいことが」

割り込まれた話が終わり水を向けられたトールはかしこまったようにしてミドウへ向き直った。

「金属製防具を八セット、レベル四十代ぐらいのプレイヤー用に造って頂きたいんです」

「へ?」「……」

その依頼にトール以外の三者が目を瞠る。僅かな沈黙の間を置いて、ミドウが口を開く。

「八セットともなればそのレベル帯とはいえ相当な価格になる。示しがつかんからな、いくらお前でもあまりまけてやることは出来んぞ」

「構いません、ですが金属は自前で調達してきたいと考えています、どれくらいの量が必要になるでしょうか?」

「ふむ、インゴットにして二ダース分はかかるだろうな。原料の金属鉱石から集めるならその三倍にはなる」

返答に淡々と頷きを返していくトール。金属製武具の製造に必須となるインゴットアイテムの入手方法はモンスタードロップやトレジャーボックスからの入手の他に、山岳地形ダンジョンなどに存在する鉱石オブジェクトから採取した金属鉱石を鍛冶屋NPCやプレイヤーに精製加工してもらいう方法がある。

鍛冶スキルを持つプレイヤーによる加工はNPCのそれよりも大分効率の良いものとなっているが、それにしても三十六という数字は採取するのに多大な根気が入用だ。更にオーダーにかかる代金は個人の負担としては並々ならない額のはずである。

「……支援してるプレイヤー達にか?」

「ああ、すごいやる気になってくれててな、有望そうなグループが二つあるんだ」

「で、パワーレベリングしたいわけか……大丈夫なのか?」

「やるのは初めてじゃない、それに狩りのセオリーはもう身についた人達だから大丈夫だよ」

トールが行っている低レベルプレイヤーの支援、この依頼はその一環として必要なものらしい。プレイヤーのレベルに対して安全に狩れるとは言いがたい高レベルのモンスターは狩ることさえ出来れば多大な経験値が得られる。高レベルのプレイヤーが付き添いモンスターの攻撃を受ける、逸らすなどして狩り続ければ適性圏の狩場よりも効率の良いレベル稼ぎ、いわゆるパワーレベリングと呼ばれる行為が可能になる。

そしてそういった場面に潜む危険が些細なミス、予期せぬモンスター湧出(ポップ)、ターゲットの跳ねなどによるHP全損、MMO的にいうなら事故死だ。なにせ相手は安全圏を逸脱した高位のモンスターである、当然攻撃力もプレイヤーの防御力不相応に高い連中ばかりだ。従来のMMOならば笑い話で済むそれもデスゲームであるSAOでは冗談にならない。少しでもその危険性を遠ざけようとトールは支援対象のプレイヤー達が装備し得る最高品質の防具を揃えようとしているのだろう。

「ーったく、お前は、お人よし過ぎるぜ」

「すまないな……でも、どうしても危険は避けたいんだ」

「しょうがねえな、どうせすぐ出るんだろ?先に準備して転移門にいってるぜ」

「――え?」

同行を前提としたその台詞を予期していなかったらしくトールが少年の顔を見上げる。アルバはその視線こそが予想外だと言わんばかりに顔をしかめ、次いでにやりと笑って見せながら言葉を継いだ。

「一人より三人でやったほうが早く片付くだろ?それと――レアな鉱石が掘れたら譲ってくれよな」

そうして足取りも軽やかに店を出て行くアルバの背中を呆然と見送るトールに、ドリンクを嗜んでいたシュウもカップを置き事も無げに声をかける。

「そういうわけだ、面倒事だからって遠慮するな。パーティメンバーなんだ、それぐらい付き合うさ」

自身の益にもならないようなことを手伝わせまいと一人で鉱石採取を済ませるつもりだったのだろう少年は、そんな仲間の行動に感極まったように目をふせると、ぽつりと、その場では一言だけ口にした。

「……ありがとうな」 
 

 
後書き
戦闘シーンを書きたいのに展開が進まないぃ……次からは、次からはモチベが上がるはず
 
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