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ある晴れた日に

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95部分:小さな橋の上でその十一


小さな橋の上でその十一

「学校の勉強ができるとかどうとかいうのじゃなくてな」
「そうなのよ。そっちもできるけれど」
「だよな。クラスで二番か?」
「一番はあんたの親戚よね」
 明日夢がさらっと野本に突っ込みを入れてきた。
「確か」
「おうよ。俺はまあよ」
「あんた勉強したら?」
 奈々瀬もまた彼に突っ込みを入れた。
「本当にさ。ちょっとは」
「勉強できなくても人間死にはしねえよ」
 こう言って開き直る野本だった。
「そんなのよ。だからダブらなけりゃいいんだよ」
「っていうか今の時点で留年って言われてるじゃない」
「それってどうなのよ」
「安心しな。ちゃんと出席もしてるしよ」
 こんな調子で本人には全く自覚がなかった。
「まあな。それでだよ」
「ああ。あいつだよな」
「そうだよ、安橋」
 話が恵美の方に戻る。
「あいついつも落ち着いてるしな。それがまたな」
「だからなのよ。いざっている時は本当に頼りになるのよ」
 明日夢がここでまた言うのだった。
「気がついてくれてね」
「それも凄いわよね」
「恵美大好きよ」
 本人がいなくても言う明日夢だった。
「茜も。ずっと三人でいたいわ」
「そうなの。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「どうしたの?未晴」
 未晴が皆に声をかけてきたのである。それで明日夢と奈々瀬は彼女に顔を向けたのである。
「気をつけて」
「気をつけて?」
「何かあるの?」
「ほら、ここ」
 前を指差してまた二人に言って来た。
「橋だけれど」
「うわっ、この橋はまた」
「何なのよ」
 二人はその橋を見て思わず声をあげた。前には小川がありその上に橋がかけられている。問題はその橋でただ太い丸太の上を切って普通に歩けるようにしただけだったのだ。少し見ただけで完全にアスレチックで使う橋だということがわかるものであった。
「そういやここってアスレチックもあったよな」
「ああ、そうだったな」
 正道の言葉に野本が応える。
「それでか。この橋」
「どっちにしろここ通らないと駄目みたいだぜ」
「そうだよな。じゃあ行くか」
「そうだな」
「そうね。覚悟を決めてね」
「そういうことね」
 明日夢と奈々瀬は最初の騒ぎと比べるとかなりあっさりとしたものだった。現実をすんなりと受け入れているのがわかる。
「じゃあ慎重にね」
「行くわね」
「まあ御前等はどうでもいいんだよ」
 正道はその二人に対して言った。
「正直なところな」
「どうでもいい!?何よそれ」
「私達が川に落ちてもいいの」
「御前等泳げるだろ」
 やはりどうでもいいといった口調だった。
「正直なところ」
「まあ一応はね」
「泳げるけれど」
「それにあの橋位渡れる運動神経あるだろ」
 次に言った言葉はこうであった。
「だから大丈夫だろ」
「それはその通りだけれど」
「何でこんなにむかつくのよ」
 二人が引っ掛かっているのはこのことだった。
「あんたのその言い方」
「そんなんだといい死に方しないわよ」
「俺の人生はいつもハッピーエンドなんだよ」
 こう返して悪びれるところのない正道だった。
 
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