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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica54俺が選ぶ道~Occurrence in a Time limit~

†††Sideルシリオン†††

「ただいま!」

数ヵ月ぶりの八神邸に、俺は声を高らかに帰宅したことを示す挨拶を上げた。そして俺の座る車椅子を押してくれているアイリも「たっだいまー!」と挨拶した。しかし残念ながら家には誰も居ない。学院より帰るフォルセティを独りにしないために嘱託魔導師として登録しているが、現在局は多忙ということもあって、アインスも今日は出勤している。

(大隊の壊滅と騎士団の管理局法への再加入によって、犯罪発生件数がグッと多くなったからな)

そういうこともあって世論は、騎士団の管理局法再脱退を望んでいるようだ。犯罪者への問答無用な対応は、被害者や遺族にとって心の晴れる思いなのだそうだ。脱退が叶わないのなら、大隊のような法外部隊を作ってほしいという要望が多く寄せられていると、見舞いに来てくれていたシャルがそんなの無理じゃん、と何度も愚痴を漏らしていた。

「おかえりなさい、ルシル君、アイリちゃん」

俺とアイリを八神邸まで送ってくれたシャマルが挨拶を返してくれた。シャマルが玄関ドアを開けてくれて、アイリが車椅子を押してくれることで俺は家の中へと入ることが出来た。久しぶりの八神邸の匂いに、帰ってきた、という実感できた。

「んじゃホイールカバー外すね~」

「ああ、頼む」

外出用の車椅子のホイールカバーをアイリが外してくれるのを待ち、「外したよ~」の言葉に「ありがとう」と返し、ハンドリムを握って漕ぎ出す。アイリに続いて靴を脱いで上がったシャマルが「ルシル君の部屋は1階に移したからね」と案内してくれた場所は、元はなのは達が泊まりに来た際に使ってもらう客室の1つだ。

「わざわざすまない」

「気にしないで。家族でしょ♪」

魔力が回復しても、俺の膝下から先が動くことはなかった。この1週間で自分なりに原因を調べた結果、“神意の玉座”に座するオリジナル・ルシリオンに問題が発生していた。すでに限界を迎えていると言うのに、よもや別の契約へ他のルシリオンが召喚されているなんて思いもしなかった。

(他の界律の守護神(テスタメント)とは違い、俺はオリジナルとは創世結界でも繋がっている。魔力の消費速度が笑えないレベルで早くなってしまった)

もう1人のルシリオン(おれ)の契約先はどうやら激しい戦火に満ちた世界ではないようだが、それでも魔力を消費していることには変わりない。本体に負担が掛かる仕様がここまで俺を追い詰めるとは。本当に最悪なんだが・・・。思っていた以上に俺に残された時間は少ないようだ。

「でもアイリとのユニゾン中で足が自由になるというのは、アイリとしては嬉しいんだけどね」

「そこが不思議なのよね。リインちゃんやアギトちゃんとのユニゾンだと変わらないのに、アイリちゃんとのユニゾンだけは効果が有るのよね~」

そうなのだ。入院中にいろいろ試した結果、まず魔力を開放して魔導師化すれば自力で立ち、歩け、走ることが出来た。おそらく魔術師化でも可能だろう。そして今後の“堕天使エグリゴリ”との闘いに備え、アイリからの提案でユニゾンも試すことになったわけだが・・・。

「ふっふ~ん♪ まるでアイリが、ルシルのために生まれたみたいだよね~♥」

「本当にそう思えるほどの相性抜群だものね~。オーディンさんとの相性も良かったし」

それは俺自身も驚く話だ。だからイリュリア終戦当時、完全に破壊されていた“エグリゴリ”のデータとは違って無事だった融合騎の開発データを漁ってみたが、アイリは特に変わった経緯で生み出されたわけじゃなかった。それにしてはアイリは、俺と共に戦ってくれるために生み出されたような性能を有している。偶然と片付けるにはあまりにも・・・。

「えっへへ♪ やっぱりアイリとルシルは、赤い糸で結ばれてるんだよ!」

シャマルから俺の着替えなどが入ったスポーツバッグを受け取ったアイリが俺の背中に覆い被さるようにハグしてきて、さらに俺の頬に頬ずり。

「それじゃあアイリ、お茶の用意するから、ルシルは先にリビングで待ってて」

「私は洗濯してから行くわ」

アイリはキッチンへ、シャマルはバッグから俺の着替えや洗濯物を取り出し始めた。

「ありがとう。お言葉に甘えてリビングで待たせてもらうよ」

手伝おうにもかえって邪魔になると判っているため、車椅子を旋回させてリビングへ向かう。歩き慣れた廊下だが、目線が低くなると結構雰囲気が変わるな、と思いながらリビングに入り、「よっと」ソファへと移る。

(メール確認でもしておくか)

入院中、はやて達チーム海鳴だけでなくユーノやクロノにリンディさん、内務調査部の面々、そしてティアナ、さらにわざわざナカジマ家やエリオとキャロまで見舞いに来てくれた。俺が車椅子生活になってしまったことにかなりショックを受けていたな。

『『ルシルさん! 退院おめでとうございます!』』

エリオとキャロからの動画付きメールを開くと、もう俺の身長を追い越したエリオと、機動六課時代からさほど成長していないキャロから祝いの言葉を頂いた。2人は自然保護隊所属で、ミッドからかなり遠く離れていて、フェイトやアリシアとも長く顔を合わせていないにも関わらず、以前の見舞いのときはフェイト達と逢うより俺を優先してくれた。

『またお休みが出来たら、顔を出しますね!』

『それまでお元気で!』

2人のビデオメールに返信メールを打ち終えたところで、「こんにちはー!」外から元気な挨拶が。車椅子に移って出迎えようとしたんだが、「はぁ~い!」シャマルが先に出てくれたようだ。

「あら、いらっしゃい! 上がってちょうだい!」

「「お邪魔しま~す!」」「お邪魔します」

聞き憶えるのある声が3人分。スリッパの足音を立ててリビングに入って来た、「いらっしゃい、ギンガ、スバル、トーマ」を笑顔で招いた。3人がチラッと俺の脚と車椅子を見て、「こんにちは!」元気のいい挨拶をくれた。

「ああ、こんにちは、3人とも」

「ルシル君。ギンガ達からフルーツの詰め合わせを貰ったわ♪」

シャマルが胸に抱えるバスケットに入ったフルーツを見せてくれた。だから見舞い品を持って来てくれたギンガ達に「ありがとう、家族で頂くよ」礼を言う。

「いえ。いろいろと迷ったんですけど、やっぱりフルーツの詰め合わせしか考えられず」

「ルシルさん、飽きてない? 入院中にも貰ってたでしょ?」

「そんなことないさ、スバル。果物には種類によってはミネラル、食物繊維、カロテン、ビタミンC、ビタミンB群、ビタミンE、カリウム、カルシウム、鉄などなど、野菜と同じくらいに栄養がある。それに美味いし、飽きもしないし。素直に嬉しいよ」

うそ偽りなくそう答えると、目に見えてギンガとスバルがホッとしたのが見て取れた。確かに入院中に何度か詰め合わせを貰ったが、俺は飽きなかったし、ヴィータやアイリ、リインにアギトも俺以上に食べたし、だから俺としては足りないという感じだった。

「アイリ、ギンガ達の分のお茶も追加だ」

「ヤー!」

「えっと、お茶菓子あったかしら」

シャマルもキッチンへと向かう。そんなシャマルにギンガが「お構いなくです、シャマル先生」と言うが、シャマルはテキパキと手際よく茶菓子の用意を整えつつ「お客様へのもてなしは全力で♪」と、八神家家訓の1つを笑顔で言った。それでギンガももてなしを受け入れた。

「それにしてもトーマ、久しぶりだな。また背が伸びたんじゃないか?」

「はい! 順調に成長期っす! ルシルさんの背を追い越すのも時間の問題っすよ! あーでも体の節々が痛いっす」

トーマは、フッケバインと自称する犯罪者集団の手によって、生まれ故郷どころか家族、町の住民を皆殺しにされた経緯を持つ。ただ、フッケバインのこれまでの手口やら事後状況とは違いがいくつか出ているんだよな。
フッケバインは基本的に管理外世界でしか活動せず、そしてひと度襲撃を掛ければ、1人も生き残りを出さない。だがトーマの一件では、トーマは生き残っているし、ヴァイゼンという管理世界で起きたものだ。

(その辺りはギンガやチンクも調べている。まぁどの道フッケバインであろうがなかろうが、トーマの人生を狂わせたことには変わりなく、実際に何十件と殺人を犯している。処理する必要があるだろう)

「トーマ。ほら、先に渡して置かないと」

「え、あーうん。ルシルさん、コレ・・・」

トーマが足元に隣に置いていたリュックを漁りだし、ビニール袋の口にリボンが結ばれている物を取り出した。中身は「クッキー?」のようで、10枚以上入っている。

「俺が世話になってる養護施設で、子供たちと一緒に焼いてみたんす。あんま豪華なお土産は買えないって思って・・・。ので、良かったらどうぞ!」

「俺のためにわざわざ? いやありがとう、嬉しいよ! シャマル。俺の茶菓子は要らないから用意しないでくれ」

「はーい♪」

「なんかごめんなさい。手作りなんて・・・」

何故かそんな理由で謝るトーマ。だから「俺のための作ってくれたんだろ? ならそれは、どんな高価な物より価値があり、嬉しいものだよ」と、トーマの頭をわしゃわしゃ撫でてやる。すると不安そうだった顔が晴れやかになり、「は、はい!」嬉しそうに笑ってくれた。

「良かったね、トーマ♪」

「ね? ルシルさんは好い人なんだから、手作りでも喜んでくれるって言ったでしょ?」

「うん!」

「友人からの贈り物は嬉しいよ」

出来は確かに不恰好だが、それ以上に心に来る嬉しさ。それが数少ない男友達からというのがさらに嬉しい。そういうわけで“友人”と称したんだが、トーマが「友人? 俺と、ルシルさんがですか?」不思議そうに呆けた。

「いやか?」

「いえそんな! 逆に俺でいいんですか!? 俺、ルシルさんに何も出来ませんよ?」

「待て待て。友人ってそんな打算的なものじゃないだろ。それこそ年の差だって関係ない」

男友達と言ったらユーノとクロノを筆頭に、指で数えるくらいしかいない。あとは知り合いとか同僚とか。ドクターが生きていれば、おそらく友人になれたかもしれないな。

「なになに? なんの話してるの?」

シャマルにお茶の用意を任せたアイリがソファの背もたれを飛び越え、俺の左隣にドサッと座った。俺は「はしたない。見えてたぞ」アイリの頭を軽く小突く。ミニスカートだったため、ピンク色の下着が見えていて、トーマが真っ赤にした顔を背けている。

「ごめーん。トーマも、お見苦しいもの見せちゃったね~」

「気にしてないから! あっ、見てません! 見えてません!」

「あはは! トーマ必死すぎ♪」

トーマのリアクションにスバルは笑顔、ギンガは苦笑、アイリはいたずらっ子のように含み笑い。女の子に挟まれてからかわれるトーマには親近感が湧く。そんなトーマと俺は友人だ、という話をしていたとアイリに伝えると、「良かったね♪ ルシル、男の友達少ないから」と言って笑った。事実なだけに文句は言えない。

「えっと、俺うれしいっす。ルシルさんみたいなすごい人と友達になれるなんて」

「じゃあさ、連絡先の交換とかしておけば? トーマ、ナカジマ家の養子になるって話だし。ギンガ、チンク、ディエチ、スバル、ノーヴェ、ウェンディの女だらけ姉妹の中で唯一の男の子、長男になるんでしょ?」

「あ、それは・・・」

ナカジマ三佐やクイントさんからも、トーマを養子として迎え入れたいって話を伺っている。しかしトーマは少し悩んでいるようだ。ギンガとスバルも若干困惑顔だ。

「スゥちゃん達と出逢えて、そしてナカジマ家の子供にならないかって誘われたとき、俺、すごく嬉しかったんです。でも・・・幸せすぎて忘れちゃうんじゃないかって不安になるんです」

トーマは故郷の事件を過去にするのが怖いのだと言った。亡くなった家族は、自分の幸せを願っているとは思うが、自分がそれを享受できないと。だから自分が納得できるまでは時間が欲しい、ということだった。

「トーマの人生だもの。トーマの意思を尊重する。父さんも母さんもそう言ってくれるはず」

「ギン姉」

「うん。急がなくていいから。たとえナカジマの一員になれなくても。トーマは変わらず大切な家族のような子だからね」

「スゥちゃん・・・。うん、ありがとう」

ギンガ達が笑顔を向け合っている中、シャマルが「お待たせ~♪」俺を除く人数分のケーキ、そしてミルクティが載せられたトレイを持ってきた。アイリがトレイから取ったケーキとティーカップをそれぞれの目の前に置いていき、トーマが「おお!」歓声を上げた。

「いいんですか? こんな高そうなケーキを頂いて・・・」

「気にしないでギンガ。コレ、私が作ったものだから♪」

「ええ!? シャマル先生の手作りなんですか!?」

「ふふ、そうよ。なかなかの自信作だから、きっと気に入ってくれると思うわ。どうぞ召し上がれ♪」

シャマルもソファに座り、みんなで「いただきます!」をしてから、俺はクッキーを、シャマル達はケーキを頂く。袋を開け、クッキーを1枚手に取って口に運んだ。そんな俺の様子をチラッと見ていたトーマに「うん。美味い。上出来だよ」と感想を伝える。

「よかった~。何度も作り直した甲斐があったっす。さすがに焦げ焦げを、お見舞い品として出すわけにかいかないんで」

「形は確かに拙いが、それがまた手作り感を出して愛らしい」

それから俺たちは世間話に興じ、そろそろフォルセティが学院から戻ってくるとなったところで、「そういえばルシルさんはどうするんですか?」おかわりのケーキを頬張りながらスバルが聞いてきた。

「どう、とは?」

「ルシルさんの足がその・・・だから、局を辞めちゃうのかなって・・・」

「ああ、うん。魔導師化やアイリとのユニゾンという、特定の条件化でなら足の機能も回復することが判っているからな。これまでのように派手な戦闘には参加しないが、特騎隊では後衛でサポートに回ればいいし、調査部はあまり魔力を使用しないから、今のところは局を辞めるつもりはないよ」

そう答えると、シャマルが不安そうな表情を浮かべて俺を見た。

・―・―・回想だ・―・―・

意識が無かった3日間を合わせて9日目の今日。毎日朝と夕の検査を行っているわけだが、日に日に主治医となってくれているシャマルの表情が曇っていくことは察していた。

「あ、シャマル。ルシルの検査の話?」

「待たせてしまったな、すまない」

トイレを済ませて戻ってきたら、白衣姿のシャマルが病室のソファに腰掛けていた。車椅子に乗る俺とアイリが戻ってきたことで立ち上がり、「ううん。今来たところだから」首を横に振った。そんなシャマルの前を通り過ぎて「ちょっと待ってくれ」一言断って、ベッドに移るためにベッドに手を付く。

「大丈夫・・・?」

アイリが心配そうに声を掛けてきたから、「ああ、これくらい・・・」ひとりで出来ないと今後苦労するため、そう返す。腕力だけで車椅子から尻を浮かしたその時・・・

「ぅぐ・・・!?」

強烈な頭痛と胸痛が襲ってきた。これはあれだ、記憶消失の際に起こる・・・。直後に去来する言いようのない喪失感。痛みと喪失感という、ここで起こるなんて予想だにしないものにバランスを崩した俺は、床に倒れこんでしまった。

「マイスター!?」「ルシル君!?」

咄嗟のことだったからかアイリが俺をマイスターと呼んだ。アイリは俺を抱き起こしてくれて、シャマルも「どこか怪我してない?」診てくれた。痛みの所為で転倒時に頭を庇えなかったこともあり、頭を打ってしまった。

「ちょっと赤くなってるわね。この程度なら・・・」

シャマルの手がそっと俺の頭に触れ、「癒しの風よ」治癒魔法を掛けてくれた。よし、と頷くシャマルに「ありがとう」礼を言っていると、シャマルとアイリが「え・・・?」目を見開いた。視線を追えば俺の右手であることは判るため、俺も右手を見たんだが別に変わったことはなかった。

「どうしたんだ2人とも。顔を蒼くして・・・」

「今、マイス――ルシルの右手、透けてた・・・」

「え、ええ。確かに手の甲が薄っすらと透けていて、向こう側が見えていたわ」

「っ!」

改めて右手を見るがやはり透けてはいないようだが、2人が同時に見たと言うのだから気のせいというわけにはいかないだろう。

「ルシル君。ちょっといい? 話があるのだけど・・・。以前あなたは私たちに、自分やオーディンさん、それに歴代のセインテストは、初代のクローンであると話してくれたわよね」

随分と懐かしい話だが、守護騎士がはやての誕生日に起動したその日、俺が語った偽りの経歴の内容だ。ガーデンベルグの撃破=セインテストの死という普通の人間ではありえない話を、ベルカ時代に語っていたからな。その辻褄合わせに吐いた嘘だ。

「(あぁシャマルが何を聞きたいのか判った)・・・体が透けたっていう話だが、俺がクローンであることにも関係あるかもな。クローンと言っても、その実は守護騎士に近い。魔力で構築されているんだよ。だから魔力を消費し過ぎると、体を維持できなくなる。だから創世結界に保管してあるものを消費して、体を維持している」

「じゃあ、あなたの成長が止まってしまったのも、やっぱり魔力の消費によるもの・・・?」

「まぁそうだな。体が大きければ大きいほど構築する魔力量が増え、維持するのも大変になる。俺一代でエグリゴリを全滅させようと言うんだ。少しずつ命を削っていたとしてもおかしくない」

ほとんどが嘘だが、守護騎士と同じような擬似生命体であり、記憶(いのち)を削っていっているのは事実だ。

「どうしましょう。ルシル君、あなた、3日ごとに平均魔力数値が毎日0.05%ずつ減ってきてるの。今はまだ足の不自由だけで済んでいるけれど、あなたの話が本当なら命に関わる状況よ・・・!」

僅かに涙を浮かべているシャマル、そして「ルシル・・・」と俺の名を震えた声で呼ぶアイリ。アイリはすでに俺の真実を知っているが、やはり俺の消滅の期限が迫っているという現実に、ショックを受けているようだ。改めてベッドの上に移り、背上げ機能で背もたれを上げて、座り体勢になる。

「それがセインテストの宿命だよ、シャマル」

「でもそんなの・・・本当にエグリゴリを斃すためだけの兵器みたいじゃない・・・」

――俺は対エグリゴリ用の生体戦闘兵器なんだ。生まれからして特別。生まれつき圧倒的な魔力を有し、様々な戦闘技術を持ち、幾多もの魔法を覚え、特殊な能力を与えられた。ちなみに歴代セインテスト、もちろんオーディンも自分と同じ、対エグリゴリ用の兵器だよ――

かつてシャマル達にそう言ったのを思い返す。人間だった頃も両親から大戦を終結させるための兵器として育てられた。兵器。それがルシリオン・セインテスト・アースガルドの運命なんだろう。

「まぁ仕方ないさ。俺は受け入れてるよ、このセインテストの悲願を」

「ルシル・・・。アイリ、アイリは・・・」

アイリが俺にしな垂れ掛かり、心臓付近に頭を置いた。そんなアイリの真っ白な長い髪を撫でていると、「あなたを愛する家族の1人として、本局医務官として・・・進言するわ」シャマルがそう言って、小さく深呼吸。

「・・・ルシル君。長く生きたかったらもうこれ以上戦っちゃダメ。だから・・・配置換えなんて温い話じゃない。管理局を辞めて隠居なさい」

「シャマル・・・」

「何か対策が生まれないのなら、私は今の提案を挙げ続けるわ。もっと長く一緒にいたいもの。八神家のみんなで、チーム海鳴のみんなで、出来るだけ長く・・・」

「・・・対策はなんとしても立てるよ。それに、リアンシェルトだって総部長という肩書きの所為で、後任への引継ぎなどを終えない限り局を辞められないだろう。それまでに潰れるわけにはいかないからな」

だが、おそらく・・・3年は保たないだろうが。それでもアイリやシャマル、はやて達を泣かせないため、もう少し頑張って生きないとな。

・―・―・終わりだ・―・―・

「それじゃあ私たちはそろそろお暇します。シャマル先生。ケーキとミルクティ、ごちそうさまでした」

「「ごちそうさまでした!」」

「はい、お粗末さま♪」

ギンガ達がそろそろ帰るということで、俺たちは玄関まで見送りに来た。車椅子でなければ外まで出て、最後まで見送るんだが。そんな考えが顔に出ていたのか、「ルシルさん。ご無理はなさらないでください。ここで大丈夫ですよ」ギンガは気遣ってくれた。

「すまないな。ギンガ、スバル、それにトーマ。気を付けて帰ってくれ」

「「「はいっ!」」」

「じゃあ私がお見送りしてくるから、ルシル君はこのまま中で、アイリちゃんはルシル君をお願いね」

「「「お邪魔しました!」」」

ギンガ達が玄関ドアを潜って、最後にシャマルが潜ってからドアを閉めた。4人の姿が見えなくなり、アイリが車椅子のグリップを握って、「じゃあリビングに戻ろうか」車椅子を180度旋回させた。

「・・・ねえマイスター。はやて達には伝えるの? ガーデンベルグの撃破はマイスターの消滅に繋がっていて、嘘だけどクローンであり、寿命も残り僅かだって・・・」

「そうだな・・・。黙ったまま勝手に逝くのは、彼女たちへの裏切りだと思う。だから伝えるよ」

「・・・そっか。・・・泣かせちゃうね、きっと・・・」

「それもまた、俺の宿命だろうさ」

何度も、何人もの涙を見てきた俺だ。最後の最後で目を背けるわけにはいかない。全ての十字架を背負って、俺は逝こう。
 
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