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ある晴れた日に

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81部分:優しい魂よその十六


優しい魂よその十六

「気のせいならいいけれどよ」
「あっ、そういえばそうだよな」
「言われてみればな」
 皆この言葉に頷く。言われてみればそうだった。
「それも随分とな」
「べたべたしてるしな」
「レズとかじゃねえよな」
 自然とそんな話になった。
「まさかとは思うけれどよ」
「幾ら何でもそれはねえだろ」
 野茂がそれを否定した。
「中森彼氏いるだろ」
「いねえらしいぞ」
「そうだったか?」
「いるのは柳本と伊藤だろ」
 咲と春華である。
「確かよ」
「あいつ等だよ」
「ああ、あいつ等だったっけ」
 この辺りは男組はまだ充分に把握しているとは言えなかった。
「あの二人だけか?」
「そうだろ?柳本があの和菓子屋の大学生で」
「伊藤は掃除の時に言ってた明石ってのだろ」
「そうだったか」
「じゃあ北乃も中森もいねえんだな」
「それ考えたらな」 
 皆さらに言う。その間に正道はゆっくりとテントを出ようとしている。
「あの二人結構やばい雰囲気かもな」
「っていうか北乃もな」
 明日夢についてはかなり重点的に話される。
「彼氏いねえみたいだしな」
「そのうえ安橋ともいつも一緒だしな」
「ああ、あいつとは入学の時からずっとだよな」
 恵美のことだ。
「何かあるといつも一緒にいてるしな」
「マジレズじゃねえのか?」
「それな。怪しいらしいぜ」
 またクラスの中の一人が言ってきた。
「それもかなりな」
「そんなにかよ」
「E組にあいつ等と同じ中学の奴いるけれどな」
「ああ、東ドイツか」
 明日夢達は東ドイツ、咲達は西ドイツと呼ばれている。それはそれぞれ八条東、八条西の中学校の出身である。だからである。
「東ドイツの奴いたのか」
「そうさ。何でも中学でもあの二人怪しかったそうだぜ」
「おいおい、マジレズか?」
「北乃ってよ」
「少なくとも何故か似合う感じだよな」
「そうだな」
 そしてこうした結論が出て来ていた。
「あいつ小さいしな」
「確かに男に見える時あるし」
「それで外見はいいしな」
 そうした理由からだ。だから明日夢はこう言われるのである。
「レズっぽいんだよな」
「どうしてもな」
「じゃあな」
 そんな話をしているうちに正道はテントを出た。出入り口の覆いを上にやるとそこから月の明かりが入る。穏やかな白銀の光だった。
「少し行って来るな」
「ああ、じゃあな」
「頑張れよ」
「何頑張るんだよ」
「夜這いは今回はハイリスクだからな」
 皆笑って彼をからかってきた。
「だからだよ。気をつけな」
「見つかったら停学じゃ済まねえぜ」
「誰がそんなことするか」
 少し憮然として皆に言葉を返すのだった。
「夜這いなんてな。そんなのはな」
「しないのかよ」
「何だ、面白くないな」
「面白い面白くないでそんなことするか」
 また憮然とした言葉だった。
「夜這いなんてな」
「へっ、面白くない奴だぜ」
「男は夜這いだろうが」
 正道に言い返されてもまだ煽り続けるのだった。
「一気にな」
「それで相手を完全に自分のな」
「それやったら犯罪だ」
 それでも正道はその煽りを受けようとはしなかった。
「大体俺にはそんな趣味はない」
「強引にってのはねえのかよ」
「そうだよ。誰がそんなことするか」
 真剣な言葉だった。
「俺はな。そんなことはしない」
「しねえのか」
「そうだ。まあとにかくだ」
「本当に便所に行くんだな」
「少ししたら帰る」
 こう言って完全にテントを出た。そうしてそのままトイレに向かい用を済ます。その帰る道は白銀の月光に照らされかなり明るかった。ぼんやりとした光で世界が照らされている。
 
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