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内緒の父親

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第二章

「だからお部屋も」
「これ位は世話をさせてくれ、お前はわしの娘の一人なんだ」
 竜太郎は眉を曇らせて言う娘に頼む様に言った。
「他の兄弟姉妹とは年齢もずっと下だし母親も違うが」
「所謂愛人の子供でも」
「そうだ、わしの子供なんだからな」
「気を使わなくてもいいのに」
「そういう訳にもいかない、お前の母さんにも苦労をかけたしな」
 愛人として、というのだ。その自覚があるからこそ言うのだ。
「だからな」
「私もお母さんも困ってないわよ、今入院してるけれど毎日お見舞いに来ているのよね」
「心配だからな」
「盲腸だから。心配いらないわよ」
「そう言うがな」
「だから。気持ちは嬉しいけれど」
 父親としてのそれはというのだ、娘としては。
「けれどね」
「わしは気にし過ぎか」
「愛人でも愛人の子供でも何よ。兄さん達も姉さん達も私達のこと悪く言ってないでしょ」
「それはな」
「お母さんの親戚の人もだし。変な人にいわれたことはあっても」
 それでもとだ、美穂子は言うのだった。
「私は私、お母さんもそうだしお友達も多いから」
「いいか」
「心配無用よ、私は大丈夫だしお母さんもね」
「ならいいがな」
 竜太郎は娘のそうした言葉にほっとしそれと共にそうした言葉を聞いても後ろめたさを感じずにはいられなかった、それでだった。
 帰る時に玄関で見送る娘の方を振り向いてこう言った。
「また来るし何かあったらお父さんに言うんだぞ」
「だから大丈夫よ。私だって子供じゃないのよ」
「わしの娘だ」
「もう子供じゃないってことよ」
 あくまで自分を心配し申し訳なさも見せる父に言って送り出した、その後は自分で料理を作ってそれを食べて入浴をして風呂場も奇麗にしてから寝た。そして翌朝は元気に出社した。ごく普通のOLとして。


内緒の父娘   完


                 2019・9・4 
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