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ある晴れた日に

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70部分:優しい魂よその五


優しい魂よその五

「横浜もいるし」
「はい」
 明日夢が右手を挙げてきた。
「ヤクルトも西武も日本ハムもソフトバンクもいるしな」
「まあ巨人以外ならいいさ」
 野本ははっきりと言い切った。
「俺は虎だけれどな」
「中日は一人だけ?」
 咲が少し首を左に傾げて呟いた。
「未晴だけかしら」
「それがね。ちょっとね」
 未晴は今の咲の言葉に少し寂しげな微笑みになった。
「関西って。どうしても中日少ないのよね」
「それは仕方ないわよ」
「中日って名古屋じゃない」
 同じく関西では少数派の恵美と茜が彼女に言った。
「だからどうしてもね」
「そうなるわよ」
「わかっているつもりよ」
 それは言う未晴だった。
「けれどそれでも」
「少数派なのがってわけね」
「ええ。そういうこと」
「そういやよ」
 野本がここで顔を顰めさせた。
「前パチンコしてたらよ」
「どうしたんだ?」
「すげえむかつく婆がいたんだよ、一匹な」
 顔を歪ませかなり汚い言葉で皆に話す。
「阪神は巨人の引き立て役、巨人はやっぱり強いってな」
「バカババだな」
「生きてる資格ねえな」
「ぼけてんじゃねえのか?」
「今時ヒロポンが頭にきてんじゃないの?」
 皆野本のその言葉を聞いて口々に忌まわしげに話した。
「っていうか関西でそれ言うかね」
「どんな馬鹿なのよ」
「まああれだね」
 桐生も不機嫌そのものの顔で述べた。
「パチンコ屋での話だよね」
「ああ」
 野本は彼の問いに頷いて応えた。
「そうだけれどよ」
「そんなの気にしていたら駄目だよ」 
 こう野本に言うのだった。
「それはね」
「いいのかよ」
「パチンコ屋だよ」
 桐生が言うのはここに重点があった。
「そもそも質のよくない人もよく来るしね」
「まあそれはな」
 野本もそれは否定しない。
「その婆も家族どころか一族全員からすげえ嫌われてるらしいしな」
「その程度の人間ってことだよ」
 温和な顔をしているが言うことは実に厳しい桐生だった。
「結局はね」
「そういうものかね」
「そうだよ。それで桐生」
「何だ?」
 ここで話が変わってきた。桐生は話をしながら鼠花火を取り出してきていた。その先に火を点け放り投げる。すると鼠花火は早速勢いよく跳ね回りだした。
「それ何時の話?」
「中学の時だけれどよ」
「今じゃないんだ」
「ああ」
 鼠花火を見ながら答える。
「それがむかついてな。もうその店には行ってねえんだよ」
「それならいいけれどね」
「いいって何がだよ」
「だからさ。パチンコ」
 彼が言うのはこのことだった。
「パチンコ。今はしてないよね」
「高校入学してからはな」
 何も考えずにまた答えた。
「行ってねえぜ。もうギャンブル自体もしてねえな」
「だといいけれどね」
「けれど何でいいんだ?」
 まだわかっていない野本だった。
「それがよ。どうしてなんだよ」
「説明して欲しいかしら」
 いぶかしむ野本のところに江夏先生がやって来て声をかけてきた。
「それがどうしていいのか」
「あっ、先生」
「君、高校生なのにギャンブルが好きなの」
「嫌いじゃないですけれど」
 先生に対してもそれを正直に答える。
「それが何か?」
「なあ、こいつってやっぱり」
「そうだよな」
 その後ろで皆が囁き合っていた。怪訝な顔で彼を横で見つつ。
 
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