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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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ANSUR Ⅴ其は苛烈なる疾風の化身なる者~Fjortseng~

 
前書き
風獄の堕天使フィヨルツェン戦イメージBGM

ACE COMBAT 7:SKIES UNKNOWN『Archange』
https://youtu.be/D9l4NRfYGH4 

 
†††Sideルシリオン†††

今回の事件の中核であろうキュンナとグレゴールの逮捕まであと1歩というところで、“堕天使エグリゴリ”のフィヨルツェンが姿を現した。

「邪魔をするのか? フィヨルツェン」

「わたくしも最後の大隊の幹部ですので。王と大隊長を守護するのも役目の1つゆえ」

グレゴールの不死性は消失させたため、実力は削れなくても撃破可能にはなった。なら、俺は両手を上げて手を出さないことを示し、フィヨルツェンは天弓“ハガウル”の先端で、キュンナとグレゴールを拘束していた俺のバインドを裂き、2人を解放した。

「同志ヴィスタ。計画通りに頼みましたぞ」

「承知しています」

グレゴールはキュンナを伴ってトレーニングルームから出て行ったため、ステガノグラフィアに『誰でもいい。転送装置を完全に停止させろ』と指示を出す。この場では見逃すが、この施設から逃がしはしない。

「さぁ、始めようか。これだけ広い場所なら十分だろ?」

『マイスター! 頑張って! アイリも頑張るから、遠慮せずに魔術を使ってね!』

『ありがとう、アイリ。頼りにしている!』

アイリの言葉に応え、2つある“エヴェストルム”のシリンダーよりカートリッジを2発ずつ、計4発とロード。柄に埋め込まれた魔力増幅の魔石はまだ使わない。フィヨルツェンによって討たれたステアの神器と真技のために残しておかなければ。

「いいえ。わたくしと貴方の闘いの場はここではありません」

フィヨルツェンはベストのポケットから1枚のカードを取り出し、「転送魔法のカードです。場所を変えましょう」と、俺の足元へと向けて投げ捨てた。

『マイスター! フィヨルツェンの得意なフィールドに移動させられちゃうかも!』

フィヨルツェンは正面からの真っ向勝負より、身を隠せる場所からの遠距離狙撃を得意とする機体だ。このような隠れる場所がない、だだっ広いフィールドではあの子の持ち味は活きない。

(アイリの言うように、俺にとって有利な場所を選ばせて貰う!)

カードが足元に到達する前に魔力弾で弾こうとしたが、足を退けたフィヨルツェンの足元にはすでに別のカードが置かれていて、カードを中心にミッド魔法陣が広がったのが見えた。

(ここでフィヨルツェンと離れるのはまずい・・・!)

瞬時にカードの迎撃をやめ、俺の足元に飛ばされて来て、キンッと刺さったカードを見下ろす。直後、魔法陣が展開されて転移魔法が発動する。すでに転移魔法の光に飲まれていたフィヨルツェンが「では、わたくしのフィールドでお待ちしております」と言い、その姿を消した。

『マイスター・・・』

『大丈夫だ。俺とアイリのコンビにならフィヨルツェンに遅れを取りはしない』

フィヨルツェンも他の“エグリゴリ”のように何かしらの強化をしているかもしれないが、それすらも跳ね除けてやる。
そして俺も転移魔法の効果で、大隊の拠点からどことも知らぬ場所へと転送されてきたんだが・・・。そこはどこかの廃墟と化した街で、廃棄されてからもう永い年月が経過したような風化具合。

「ミッドじゃないな・・・。またどこかの管理世界か・・・?」

ミッドは今は夜だが、こちらは曇天で太陽が一切に見えないが真っ暗と言う程でもない。というか「フィヨルツェン・・・?」はどこに行ったんだ。

(一先ず戦闘を始める前に、カメラを放っておくか)

フィヨルツェンを始めとした“エグリゴリ”を殺害したという件で、あの子たちは人間ではなく兵器であり、殺人ではなく破壊という事実を、俺は内務調査部に示さないといけない。そのためにリアルタイムでフィヨルツェンとの闘いを流さなければ・・・。

「ルシリオンです。これより最後の大隊メンバー、ヴィスタもといエグリゴリのフィヨルツェンの討伐を開始します」

カメラを放ち、内務調査部へと報告を終え、周囲を警戒しつつボロボロな石畳の街路を歩いていると、『マイスター、ここ、見覚えある・・・』アイリが信じられないといった風に漏らした。

『どうしたアイリ?』

『そんなまさか・・・! だってここは・・・! マイスターも知ってるはずだよ!』

『ふむ。・・・っ! いやまさか、しかし・・・!』

記憶の中から引っ張り出してきた景色と、目の前に広がる景色に一致するところが多々あり、それでここがどこなのかが判った。

「お待たせしました。どうです、驚いたでしょうか? ここは亡失世界ベルカはアウストラシア、ザンクト・オルフェンです。見えますか? あの数々の聖騎殿が。ここはかつて、対イリュリア連合が生まれた場所ですよ」

フィヨルツェンが教会跡からゆっくりと歩み出てきた。そんなあの子に「フィヨルツェン。ベルカの地を戦場に選んだ理由は何だ?」と尋ねる。

「はて、グレゴールかキュンナからか聞きませんでしたか? ベルカの再生ですよ。膨大な魔力を使ってテラフォーミングをするのです。およそXXランクの魔力で、ここを中心として約41万平方kmの大地を再生できることが出来るのです」

アイリの代わりに尋ねてみればそんな答えが返ってきた。41万ということは、日本よりさらに大きい範囲になる。魔力でテラフォーミングをするなんて考えたことはなかったが、魔力の全てを治癒系に変化すれば可能とは思う。

『でもなんで、アウストラシア? 大隊の目的からしてイリュリアがいいんじゃない?』

「確かに」

アイリの疑問はもっともだったが、フィヨルツェンは「イリュリアでしょうがアウストラシアでしょうが、再生すればいいんです」と言った。グレゴール達がそれに納得しているとは思えないが、俺には関係のない話だ。スルーの方向でいこう。

「まあいい。ベルカの大地を蘇らせるための魔力源にするために、俺をここで殺そうとしている。それがお前たちの計画なんだな?」

「ええ。それが、ベルカ再誕計画の要です。わたくしが身を置く最後の組織。役目を全うして見せましょう!」

“ハガウル”にアップルグリーン色の魔力弦を張り、同色の魔力矢を番えた。

「エヴェストルム。ゲブラー、イドフォルム」

二剣一対形態ゲブラーフォルムに変形させた“エヴェストルム”。そして両方の穂に刻まれたルーン文字に神秘の含まれた魔力を流して神器化イドフォルムへと昇華させる。

VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は善性より堕とされし風獄の堕天使フィヨルツェン
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS

「お往きなさい!」

――掃討猟蛇(ミュート・スレイヤー)――

「喰い散らかせ!」

――食い散らせ汝の嵐顎(コード・ルヒエル)――

射られた矢は9匹の風の蛇と化し、あらゆる方向から俺に襲い掛かってきた。俺は瞬時に後退し、前面に展開した円3枚より竜巻の龍を9頭と放った。蛇を噛み砕くべく雄叫びを上げて口を開ける龍。

「一気に畳み掛ける!」

『ヤヴォール!』

――力神の化身(コード・マグニ)――

上級自己強化術式を発動し、さらに雷撃系装備術式の「崇高神の威厳(コード・フィムブルチュール)!」を発動する。“エヴェストルム”ごと肩まで覆う魔力刃付き篭手、竜の脚状の脚甲、胴鎧の背部から妖精羽6枚を展開した。

――女神の疾翔(コード・グナー)――

「うおおおおおおおおお!」

空戦形態ヘルモーズ、閃光系装備術式フィムブルチュール、風嵐系装備術式アトリーズ、雷撃系装備術式スルーズ、この4つのどれかの形態時でのみ発動できる突進技グナーで、新たに矢を番えようとしているフィヨルツェンへと突っ込む。

「やはり接近戦を挑んできますか。わたくしのスペックからすれば正しい判断です」

“エヴェストルム”を持つ右腕を引き絞り、突きの構えを取る。フィヨルツェンは魔力矢を番えることなく逆手持ちして、刺突として繰り出した右の“エヴェストルム”の先端に打ち付けた。俺とフィヨルツェンの間で強烈な衝撃波が発生して、互いに「っく・・・!」後退させられた。

輝き流れる閃星(サピタル)!」

俺とフィヨルツェンの周囲に下級魔力弾2千発を展開し、空へと上がると同時に「ジャッジメント!」一斉にあの子へと発射。サファイアブルーの魔力爆発が連続で起こり、その衝撃と閃光に思わず目を細めた。

――嵐槍百花(クライシス・エア)――

そんな時に飛来するのは、ドリル状の風矢8本。それは別にいいとして『あんな場所から!?』と驚くアイリの言うように、先ほどまでフィヨルツェンが居た場所とはおよそ1kmと離れた側防塔からの狙撃だった。

『フィヨルツェンって、あんなに早く移動できる魔術とか技とかあるの?』

『・・・フィヨルツェンを始めとした風嵐系機体は、シュヴァリエルを除いて高機動タイプばかりだが、あの距離を瞬時に移動できるような術は持っていなかった』

フィヨルツェンもまた独自の進化をしていると考えた方がいいな。

「とにかく、フィヨルツェン相手には接近戦を挑むのが1番だ。回避に全力を注ぎつつ突っ込むぞ」

宙を蹴り、数ある聖騎殿を囲っている城壁の要所に建てられている側防塔、その天辺に立つフィヨルツェンへと突撃する。

――連翔せし荒鷲(チェインズ・ガスト)――

そんな俺を迎撃するべく放たれてきた風矢。バレルロールで躱して視認できた矢は、鎖のように何十本と連なっていた。ここで回避したことが正解だと判る。防御していたら2本目からの連続追撃を許していたからな。

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

さらに超高速の矢が矢継ぎ早に射られてきたが紙一重で回避。目の前にまで側防塔が近付いたところで、攻撃がピタリと止んだ。と思った直後に、頭上から迫る風切り音が微かに聞こえた。

――スタウロス――

「っく・・・!」

頭上から飛来したのは風矢ではなく、白銀に輝く「杭・・・!?」のような物・・・に見えた。目で追おうにもアイリから『マイスター、次来る!』という警告に、俺はその場から離れることに注力する。

――スタウロス――

白銀の杭からは魔力を感じないが、それを別として神秘を感じる。何かしらの神器かもしれないと判断し、防御や迎撃ではなく回避を最優先することにした。

「ええい、鬱陶しい!」

――舞い降るは汝の煌閃(コード・マカティエル)――

乱れ撃ちされてくる杭を回避しつつ、上空のフィヨルツェンへ向けて「ジャッジメント!」の号令の下、2千本の光槍を射出する。光槍はあの子に着弾しなかったようで、魔力爆発が起きることなく空を覆う雲を穿ち、無数の穴を空けた。

『空、やっぱり汚いままだね。禁忌兵器の影響で・・・。ん? ちょっ、マイスター! なんかヤバイ!』

「ん?・・・んな!?」

目を疑った。上空に居るはずのフィヨルツェンだが、先ほどの側防塔や、至る所で朽ちている聖騎殿の屋根にあの子が居た。その数4機。上空のと合わせると5機だ。

『え、なに!? 分身の術!?』

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

「くそ!!」

4方向からの超高速風矢。しかも乱れ撃ちということもあって、忙しなく回避行動に入った直後、最後の1機からはあの杭による攻撃。タイミングがバッチリ過ぎて思わず「チッ!」舌打ち。回避も防御も手遅れな直撃コースということもあり、咄嗟に動いていた右の篭手で弾き逸らそうとしたんだが・・・。

「づっ!? っぐぅぅ・・・!」

『マイスター!? 痛覚遮断! コード・エイルをスタンバイ!』

杭は篭手を貫通し、俺の右前腕を貫いた。魔術として展開している篭手を貫ける物など1つしかない。やはりこの杭は「神器・・・!」ということになる。が、神器王としての俺の知識には存在しない。

――粉砕せし風爆(マーシレス・フラワー)――

「とりあえず身を隠すぞ!」

『ヤヴォール!』

アイリのおかげで痛みは無いが、治療するにはまず抜かなければならない。そのための時間が要る。俺へと射られた矢は、俺の周囲に展開されたアースガルド魔法陣に着弾し、俺を包囲するように爆風を発生させた。

「ぐあああああああ!」『きゃううううう!』

まるで重力の如き風圧で全身を押し潰されそうになるが、「装甲解除(パージ)!」フィムブルチュールの装甲を外方向へと向けて炸裂させて解除。それで暴風の檻を無理やり吹き飛ばし、地上まで一気に降下。

――連翔せし荒鷲(チェインズ・ガスト)――

――スタウロス――

空から降り注いでくる何十本という風矢と数本の杭。着弾時に暴風として炸裂する風矢に煽られ、杭は掠め、それでも俺は何とか逃げ切ることに成功した。今なお右前腕を貫いている杭の処置のため、廃屋に身を隠す。

「くそっ。いったい何なんだ、この杭は・・・!」

杭に触れて、複製スキルを以ってその正体を探る。そして「おいおい、嘘だろ・・・!」杭がどういった物かが判った俺は、自身の複製スキルに疑いを持つほど驚愕した。

『マイスター?』

「スタウロス。・・・コイツは、スマウグ竜の爪を加工した物だ」

『・・・え、スマウグ!? リンドヴルム首領だったあの・・・!』

魔界最下層にてあらゆる宝物を抱く火炎竜スマウグ。その圧倒的な神秘と力強さに、奴を倒すべく集まった俺たちは敗れた。結果、リアンシェルトが単独で斃すという光景を見ることになってしまった。

「道理で俺の魔術を貫通するわけだ。加工品とはいえスマウグの爪、神秘では圧倒的に上だ」

死に難い体とはいえ心臓や脳を穿たれるとさすがにまずい。ったく、こんな兵装を用意してくるなんて卑怯すぎる。とにかく今は治療だ。連結させた“エヴェストルム”を床に突き立て、空いた左手で杭を握り締め、「すぅ・・・はぁ・・・すぅ、ふっ!」深呼吸のあとに一気に引き抜く。痛覚遮断のおかげで痛みは無いが、刺さった異物を抜く感触はあるため、妙な気持ち悪さが生まれる。

「『女神の祝福(コード・エイル)』」

杭を引き抜いたことで激しくなる出血を止めるために急いでコード・エイルを発動。アイリのサポートのおかげで素早く傷を癒すことが出来た。

「ありがとう、アイリ」

『どういたしまして! で、どうするマイスター? スタウロスに複数のフィヨルツェン。どれも想定外だよ』

ちゃんと傷が完治したか確認するために手の平の開閉を行いつつ、不安そうなアイリに「問題ないさ」と答える。フィヨルツェンが討ったのは、ステア・ヴィエルジェ・ムスペルへイム。大戦末期においては最強の炎熱系魔術師だった。アイツの真技や創世結界を使えば、必ず勝てる。そのためにリンカーコア狩りをしたのだからな。

――舞い降る落葉(リーフ・サーチャー)――

「『っ!』」

ここ廃屋の付近一帯に魔力反応が一気に増えた。廃屋の隙間から外を覗き見れば、「隠れようとしても無駄です」というフィヨルツェンの拡声による宣告。それを示すようにアップルグリーン色の葉っぱが無数に舞っていた。

『何アレ・・・!?』

「ある種の広域攻撃だ。1枚1枚が攻撃用であり探査用だ。触れたらダメージを負うし、捜索対象に近付くと一斉に殺到して、居場所をフィヨルツェンに知らせる」

『厄介だね・・・』

「ま、対処は難しくないからいいんだがな。アイリ、ちょっと無茶をさせる」

『お? なんにも心配しないでマイスター! 真技にだってちゃんとサポートして見せるんだから!』

アイリの意気込みに改めて感謝し、「汝は導き、光の寵愛を受けし者。その御名の下、其に刃突き立てし者へ輝ける聖裁を与えよ」詠唱を開始。

『あ、マイスター! 見つかったぽい!』

魔力葉の向きが一斉にこちらに向いたのが見えた。そしてこの場に最も近い数百枚が一気に飛来してくる。

「アイリ! 迎撃か防御に移ってくれ!」

『ヤ、ヤヴォール!』

――竜氷旋――

俺を覆うようにして発生するのは、とぐろを巻く冷気。アイリの攻防一体の魔法で、魔術師化している俺とユニゾン中であれば、この子の魔法も魔術となる。

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

剣翼12枚、薄く長いひし形状の蒼翼10枚、計22枚の魔力翼を展開。迫り来る魔力葉の襲撃から逃げるため、そしてこれから発動する魔術で自滅しないため、廃屋の屋根を突き破って一気に空へと上がる。

『来た来た、来たよー!』

「哀れな者らは泣き叫ぶだろう。しかし許しは乞わぬだろう。自らの罪と過ちを認めることを赦さず恥とするゆえに。汝よ。迷うことなかれ、憐れむことなかれ、悔やむことなかれ。汝は希望を司り、光に愛されし王。厳粛たれ、堂々たれ、そして公平たれ」

――スタウロス――

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

全方位から迫る杭や風矢の乱れ撃ち。魔力葉を全力で回避しつつ、詠唱によって空に生成された巨大な魔力スフィアを見る。天球儀のようにスフィアを中心に3つの円環が回り、魔力の集束率が上がれば上がるほど回転が速くなる。

「汝は左手に希望を携え、右手には閃光を携える。全ての者に、その御名を轟かせ!」

詠唱を終るとスフィアが一際強く発光した。臨界点に到達したことを知らせるものだ。

光神の調停(コード・バルドル)!!」

術式名を唱えると同時、スフィアから全方位へ向けて集束砲撃が断続的に発射された。何かに着弾すると巨大な魔力爆発を起こし、付近一帯を吹っ飛ばす。全方位無差別多弾砲バルドル。この辺りは有形文化財クラスだろうが、こっちも命が懸かっている。恨むならここを戦場に選んだフィヨルツェンにしてほしい。

『葉っぱ、一気に減ったね!』

「フィヨルツェン達は健在で、スタウロスもあと何本あるかも判らないがな」

――スタウロス――

言った矢先から杭が砲撃を穿って消滅させて、そのまま俺へと向かってきた。しっかりと軌道を見据え、右手でバシッと掴み取る。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

オリジナルのフィヨルツェン、偽フィヨルツェン4機の違いはある程度察することが出来た。偽フィヨルツェンからも神秘を感じるが、オリジナルに比べて弱い。おそらくミミルが造りだしたんだろう。ルルスとフラメルという新“エグリゴリ”を生み出せるような技術力だ。不可能じゃないはず。

(フィヨルツェンの魔力炉(システム)のコピーを基にしたんだろうな。俺のからフォルセティを生み出したように・・・)

現代で“エグリゴリ”を造り出せるミミルも、秘密裏に暗殺した方がいいかもしれないな。

「スタウロス!」

複製した杭・“スタウロス”を12本と展開し、射出と加速を行う環状魔法陣で待機させる。標的は偽フィヨルツェン4機。バルドルの効果ももってあと数発。オリジナルと偽者も回避行動を緩やかにし・・・

――貫砕せし飄風(ディクライン・ブラスト)――

――嵐槍百花(クライシス・エア)――

ドリル状と突撃槍状の竜巻を十数発と射た。こちらも射出体勢のフィヨルツェン達へと「往け!」“スタウロス”を発射する。加速効果も有している環状魔法陣からの一撃は、フィヨルツェンが射た時より速く、偽フィヨルツェン4機すべての腹部を貫いた。

『よぉーっし!』

「オリジナルの方は掠っただけか・・・」

俺の“スタウロス”を“ハガウル”でギリギリで弾き逸らしたフィヨルツェンだったが、僅かに反応が遅れたことで脇腹を掠る程度だがダメージを負った。

「やはり貴方の複製スキルは厄介極まりないです! しかし、これでわたくしの真技の1つの条件が整いました! さぁ、見せて差し上げましょう! わたくしの新たな真技を!」

『新たな・・・』

「真技、だと・・・!?」

俺の知るフィヨルツェンの真技は、何万発の爆撃という広域殲滅術式だ。それとはまた別となると想像も付かない。

「アイリ。こちらも決めに掛かるぞ。創世結界の準備だ」

『ヤヴォール! マイスターの魔力炉(システム)への負荷を最小限になるよう深層同調開始!』

ステアの創世結界を発動するべく準備を始めようとした時、それは起こった。“スタウロス”に貫かれたままの偽フィヨルツェン4機から爆発的な魔力が膨れ上がり、思わずそちらに目をやった。

「真技。創世結界・天覆う風靡の蓋・地茂る吸血の森(ルーイナス・ブラッディフォレスト)

耳を疑った、目を疑った。フィヨルツェンが上空から地面へ向かって射た長い魔力矢が着弾とすると同時、偽フィヨルツェン達が魔力に分解されて、ソレら全てが地面を覆い、ドーム状に爆ぜた。その速度に逃げることも出来ずに飲まれた俺が次に目が開けた時、そこはもう異世界だった。

『森・・・!? ていうか、なんか森全体が血管みたいで気持ち悪い・・・!』

縦横無尽にそびえたつ木々はすべて数kmの高さを誇り、天辺が見えない。胴回りも100m以上あり、水分通導の役割を持つ道管が幹の表面にまで光って浮かび上がり、ドクドクと上に下にと何かを流している。

「む・・・?」

『マイスター?』

この創世結界に入ってからというもの、魔力が少しずつ消費しているのに気付いた。

「気付きましたか? この結界の効果の1つに、結界内に居る生命の魔力や生命力を吸収する、というものがあります。さらに言えば・・・」

『マイスター! 枝とかツタが伸びてきた!』

アイリの言うように木々の枝やツタが、俺を捕らえようと勢いよく伸びてきた。ただでさえ居るだけで魔力を吸収されているんだ。捕まったら根こそぎ一気に吸収されるだろう。

炎熱最強術式(スルト)で消し飛ばしてやりたいが、PT事件の際にテスタメントの姿で使っているんだよな・・・)

そこから俺とテスタメントが同一人物だと気付かれてはこれまでの苦労が水の泡。ならさっき考えたとおり「アイツの術式を使うだけだ」と、俺は“エヴェストルム”の柄に埋め込まれている魔石に魔力を流す。

「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想」

数倍となって戻ってきた魔力を即使用。“アンスール”メンバーの魔術や神器などを行使するための呪文の詠唱を終え、三つ又の穂を有する黄金の槍、「劫火顕槍シンマラ!」を“神々の宝庫ブレイザブリク”から取り出した。

「さぁ行きますよ!」

フィヨルツェンが遥か上空へ向けて何十本という風矢を射た。真技発動の前準備に違いない。

――熱波震断刃(アセッソ・グーミ)――

迫り来る枝やツタを排除するべく、ムスペルへイム式の魔術を発動。“シンマラ”の三つ又を数千度の高熱で熱して、攻撃力を上げる。そして迫り来る枝などを「ふん!」“シンマラ”の一薙ぎで焼き払った。

「真技! 荒々しく無慈悲な暴雨の如く(クリアランス・ディザスター)!!」

フィヨルツェンが真技名を口にした直後、遥か空から様々な種類の風矢が何百、何千、何万と降り注いできた。

炎熱波神断刃(リベラサオン・プレーザ)!」

三つ又に白焔を纏わせた“シンマラ”を頭上へ向けて振るい、強大な火炎刃を複数放って迎撃する。その間にも『マイスター!』新たな枝やツタが伸びてくる。迎撃や回避をしている間にも魔力を吸われ続けるわけで・・・。

『アイリ。創世結界、開くぞ』

『ヤヴォール!』

大隊の拠点で狩りまくったリンカーコアで生成した、ドーピング用の魔力結晶を魔力炉(システム)とリンクさせて、足りない分の魔力を補填させる。

「さらに強化した2発目、行きますよ!」

――真技・荒々しく無慈悲な暴雨の如く(クリアランス・ディザスター)――

今なお続いている風矢の雨。さらに威力、速度、大きさ、そのどれもが強化された第2波が降り注いできた。

『マイスター! 魔力の消費率が大きくなってる! 気を付けて!』

「『ああ!』・・・我が内に在るは原初より途絶えぬ紅蓮の劫火、天地焼き払いし神性の浄火!」

創世結界を発動するための呪文の詠唱を開始。その途端、ドクン!と心臓が跳ね、ざわざわと胸の内が騒ぐ。度の超えた魔力使用や魔力枯渇が原因で起きる記憶消失現象。それが起きる理由は、その2つの原因によって俺の体が消滅することにある。魔力で出来ているこの体の消滅を防ぐため、創世結界に存在する複製品を構築する魔力を消費して、俺の体の維持させようというフェイルセーフ。しかし、複製物は言わば記憶でもある。

界律の守護神(テスタメント)時代で得た経験は、本体の脳の海馬に記憶として残るのではなく、複製物の使用者のコピーであるエインヘリヤルが保存媒体として、俺に記憶を残してくれている)

だから“エインヘリヤル”を消費すると、その契約で複製したものは当然、出会った人たちとの思い出も全て消滅する。アイリとの深層同調という、さらなるユニゾン段階のおかげで、記憶消失の頻度を少なく出来るようになった。だが、ソレで完璧に記憶消失から逃れられたわけじゃない。

『マイスター!? ごめん、アイリだとこれ以上は・・・!』

“シンマラ”で迫る枝を焼き払い、風矢を回避している中で、アイリは涙声でそう謝ってきた。さすがに真技や創世結界という最高位の魔術となれば、記憶消失の代償からは逃れられないものだ。

「『大丈夫、大丈夫だから。このまま行くぞ!』・・・現世を侵すは、燃え盛りし炎神の息吹、響き渡るは炎魔の咆哮。其の心に刻み込め、我が心は、全てを焼き尽くし燃え滾らせる火炎の楽園!」

詠唱を無事に終え、迫る枝やツタ、降り注ぐ風矢の雨に掠りながらも回避。

劫火が支配せし煉界(ムスペルヘイム)!」

創世結界の術式名を告げると同時、フィヨルツェンの創世結界を上書きするように新たな世界が創り出される。そして「ぐぅぅ!」俺の創世結界から、どれだけか判らないが複製物が消失し、それと同時に記憶も失った。だが、どの記憶や複製物を失ったのか判らない。残るは喪失感だけだ。

『マイスター! しっかり! 高度落ちてる!』

意識が一瞬飛んでいた。慌てて高度を保ち、現況を確認する。ムスペルへイムは、空全体が炎の川で覆われ、地面は数少ない岩の足場以外は全て溶岩であり、至る所から噴き上がる炎柱は空にまで届き、空の炎の川に合流している、という世界だ。

「フィヨルツェンの結界は・・・」

6割ほどがムスペルへイムに侵食され、ムスペルへイムから流れてくる熱波や火の粉によって、木々も燃え始めていた。こうなっては維持も出来ず、完全にムスペルへイムの炎に飲み込まれてしまうだろう。

「フィヨルツェン! これ以上の戦闘は無意味だ! 俺に、お前を救わせてくれ!」

記憶喪失が起きる前兆の頭痛と胸痛の痛みは続くため、魔力結晶で記憶消失が起きる前に魔力を補充する。結晶が尽きるより早く、フィヨルツェンとの闘いを終えなければ・・・。

――瞬神の風矢(ソニック・エア)――

どこからともなく飛来する超高速の風矢1本。すぐ側にそびえ立つ炎柱に“シンマラ”を突っ込んで、大きく振るって炎柱から炎をかき出し、風矢と俺を隔てる壁とする。

「無意味? 無意味となんですか? わたくしはエグリゴリのフィヨルツェン。セインテスト最後の王である貴方を討伐することこそ、わたくし達の宿命。すでに敗れたバンヘルド、グランフェリア、シュヴァリエル、レーゼフェア、彼らの為にもわたくしが、貴方を討つ!」

――群れ成し追従する竜牙(ドラゴン・チェイサー)――

1度の射出で鏃だけの風矢が何百発と放たれた。地を覆う溶岩や天を流れる炎の川を利用して、炎の雨や溶岩弾を発射。フィヨルツェンの攻撃を全て遮断する。

『アイリ。これで最後だ』

『ヤヴォール!』

24個目の結晶を魔力炉(システム)と同調させ、枯渇寸前の魔力を回復させる。

「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想」

ステアの真技をスタンバイ。ただ、アイツの真技は近接距離で発動できるものだ。もう1度フィヨルツェンに接近しないといけない。

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

(ステアの創世結界は、この世界全ての炎を自在に扱えることが出来る反面、それだけで魔力消費が大きい。ま、それに見合うだけのことが出来るわけだが)

宙に立つフィヨルツェンの足元に広がる溶岩を操り、噴水の如く噴き上げさせてあの子を攻撃するも、風嵐系機体として通常機能である短距離高速移動を用いて溶岩の噴水の効果範囲から離脱した。

(さぁ行こうか、ステア!)

――よぉーっし! 最大火力で、最大全速で、フィヨルツェンを救ってあげようじゃん!――

――轟煉甲冑(アルマメント・ヴウカオン)――

炎の川から滴り落ちてくる炎塊を捕まえて、膜状にして俺を覆わせる。そして宙を蹴り、フィヨルツェンと真っ向から対峙する。

「おのれ!!」

――結断する鴉刃(ディスアセンブル・フェザー)――

“ハガウル”から鳥の羽根をした魔力矢が同時に6発と射られた。アレは対魔力攻撃で、魔力を分断する効果を有している。今発動している炎の防御膜も、意味を成さずに貫通されるだろうが・・・。

(回避している時間が勿体無い)

すでにムスペルへイムの端の方が揺らぎ始め、ベルカの大地が見え隠れしている。完全に解除されたら、身を隠しての狙撃をしてくるだろう。さすがに持久戦に持ち込まれたら負ける。

『アイリ。ダメージ覚悟で突っ込む。エイルを準備していてくれ』

『ヤヴォール!』

1発目が炎膜に着弾。膜に拒まれたのは一瞬で、矢は俺の右頬を浅く裂いて行った。さらに全身を掠ったり、グサッと太ももや肩や胴体と突き刺さったりとダメージを負うが、それに構わず突っ込む。命に関わる頭部や胸部に当たりそうになった時は、空いている右腕を盾として使って防御。

「っ!!」

「おおおおおおおおおおおおッ!!」

“シンマラ”の攻撃範囲にフィヨルツェンを収め、右肩から左わき腹の軌道で振るう。

瞬神の風矢(ソニック・エア)!」

俺のそんな一撃を急速後退することで躱し、指に挟み込まれていた風矢4本を射た。至近距離ということもあって、空戦形態の機動力を以ってしても2本の直撃を許した。腹と左太もも。痛覚は今もなお遮断されているため、なりふり構わず逃げたフィヨルツェンを追撃。

「真技!」

ステアの真技を発動し、龍の腕のような形状の白焔で“シンマラ”全体を覆う。フィヨルツェンが高速で後退しつつ、「お往きなさい!」蛇状の風矢、ミュート・スレイヤー12発を射た。直線での移動であれば、空戦形態の俺の方が速い。蛇矢に噛み付かれる前に間をスルー。

「少し痛むが許してくれ」

新たな風矢を番えられる前に、“ハガウル”を握っているフィヨルツェンの左指に右拳を打ち込む。ボキボキと骨が折れる音が耳に届き、「い゛っ・・・!」フィヨルツェンが“ハガウル”を手放した。これであの子の攻撃の術は無くなった。

咬み殺す(ドラガオン)・・・!」

「くっ・・・う゛っ」

“シンマラ”を斜めに振り下ろし、白焔の爪でフィヨルツェンに3つの引っ掻き傷を付ける。傷口からは白焔、そして黒煙が上がるが、あの子はそれでも右手の指に風矢を4本と生成した。

粉砕せし風爆(マーシレス・フラワー)!!」

風矢を指に挟んだまま殴りかかってきた。トドメのために白焔の爪から龍の口へと変化した“シンマラ”を持つ左腕を後方に引いていたことで、空いている右手に炎を渦巻かせての掌底で迎撃。風矢4本と炎が激突し、お互いを消し飛ばした。

「あ・・・!」

フィヨルツェンの右拳をそっと掴み取り、俺は「すまない」と謝り・・・

神焔(プルガトーリオ)!!」

“シンマラ”をあの子の腹に目掛けて突き出した。三つ又の中央がフィヨルツェンの腹に突き刺さると同時、大きく開いていた白焔の龍の口があの子を飲み込んだ。白焔の龍はフィヨルツェンを飲み込んだまま砲撃と化し、溶岩から廃れたベルカへと戻っていた大地に着弾、クレーターが出来るほどの爆発が起きた。

(フィヨルツェン・・・)

・―・―・回想だ・―・―・

中遠距離用狙撃の実験機1号であるフィヨルツェンと、その完成機である第五世代ヘルフィヨトル隊の隊長、レンマーツォ。チョコレートブラウンのショートヘア、シルバーグレーの瞳は少女のようにマルっとしていて、白の長衣に黒のハーフパンツという、体格から見ても子供のような可愛らしさを持つ男子だ。

「自主練習とはとてもいい考えです。わたしもご一緒しますね」

フィヨルツェンとレンマーツォの自主練の監督を請け負った私の元にカノンがやって来た。私の射砲撃の技術を叩き込んだ弟子だ。11歳という若さながらも創世結界を扱え、砲撃に関しては最早私より精度が高い。

「では、ここから5km離れたヒューガルの森の中に的を用意したから、ここから狙撃してくれ。ちなみに的も動くからそのつもりでな」

ここヴァルハラ宮殿の裏庭から臨むウルザー川、その向こう岸に広がるヒューガルの森。木々を傷付けずに標的だけを狙撃する練習は、俺もカノンもやった。

「かしこまりました。ハガウル」

フィヨルツェンが神器、“天弓ハガウル”を携えた。

「負けませんよ、フィヨル姉さん! 冥弓シルカルデ!」

レンマーツォは両腕に装着した篭手と一体化している小型のクロスボウ型神器、“シルカルデ”を携えた。

「この練習も久しぶりですね、ルシル様」

私が作成してプレゼントした、“星填銃オルトリンデ”と“星填銃グリムゲルテ”と“星填砲シュベルトラウテ”の内、2mほどの大砲“シュベルトラウテ”を、カノンは脇に抱えるようにして構えた。

瞬神の風矢(ソニック・エア)!」

最果て穿つ一矢(スナイプアロー)!」

フィヨルツェンは最速の風矢を射て、レンマーツォは自動装填される魔力矢を両腕の“シルカルデ”より射出。

疾光砲弾(シュネル・アングリフ)狙撃せし者(シャルフシュッツェ)!」

カノンは発射シークエンスが早い上に砲速も速く、さらに出力をそのままに光線状に細めた砲撃を発射。彼女たちは5kmと離れた標的を狙って撃っているのだが、生憎と私の肉眼では標的が見えない。

「どれどれ」

視力を魔力で強化して、「おお、百発百中だな~」と感心する。フィヨルツェンとレンマーツォは、私とシェフィの2人で生み出した完全自律稼動人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”であり、狙撃を主体とする戦術を担う機体であるため、戦場の環境にもよるが最大で15km圏内を狙撃できる。それでも小さく動き続ける標的を、狙い外すことなく撃ち抜ける技量は2体の技術だ。

「カノンも、人の身でよくあそこまで確実に狙い撃てるな」

「それもこれもルシル様のおかげですから♪」

射砲撃の才能がずば抜けていたカノン。スポンジの如く教えた技術を瞬く間に吸収したため、教えている私の方が嬉しく、そして楽しかった。そんな彼女たちの自主練(最後の方は互いの狙撃を迎撃する、という危なっかしい練習になっていた)を見守り終えた頃・・・。

「お父様。実験機であるわたくしの・・・弓兵としての技術は、やはり劣っているのでしょうか? 」

フィヨルツェンが私の側に来て、重ねた両手を自身の胸に添えて聞いてきた。成績で言えばフィヨルツェンは最下位だった。1位はカノン、次いでレンマーツォ、そしてフィヨルツェン。最下位とは言っても1発も外さなかった。ただ、当たりはしたがど真ん中ではなかった、という話だ。

「1発も外さなかったじゃないか。大事なのはそこだぞ、フィヨルツェン」

「それは承知していますけど・・・。仮にも狙撃を主体とする機体の長子ですから、完成機とはいえ弟であるレンマーツォに負けるのは悔しいといいますか悲しいといいますか・・・」

「う~ん、実験機と完成機と言っても、魔力量が違うだけで性能的にはさほど差はないんだ。お前もレンマーツォも、それだけでなくヴァルキリーみんな、日々アップロードして強化しているんだ。また後日、レンマーツォと競ってみろ。今日とは違う結果になるだろう」

フィヨルツェンの実戦経験を反映して生み出した後の狙撃主体機。その経験をフィヨルツェンに返してさらに強化。それを繰り返して“ヴァルキリー”は強くなる。

「本当ですか?」

「本当だとも。私とシェフィの自慢の娘であるお前に、嘘を吐くわけないだろ?」

でもカノンには負けそうだよな。あの子は別格だからな。

「あ、はい! よーし! 次は負けません!」

グッと握り拳を握って意気込むフィヨルツェンの頭をそっと撫で、私は「えいえい、おー!」と拳を振り上げるこの子を微笑ましく眺めた。

・―・―・終わりだ・―・―・

『白焔の花嫁ステアの全術式を解除! マイスター! 体の方は!? 大丈夫!?』

『ああ、大丈夫、問題ないよ』

創世結界ムスペルへイムと神器・“シンマラ”の具現化を解除したことで、頭痛と胸痛も治まった。ふぅ、と一息吐いて、クレーターの底に降りる。そこにはフィヨルツェンが仰向けに倒れていた。

「・・・おやすみ、フィヨルツェン」

フィヨルツェンの側に寄って、内務調査部に観られているのにも構わず俺は片膝立ちして、虚ろな瞳を俺へ向けているあの子の頭を撫でてやる。すると俺との思い出なんて残っていないだろうにフィヨルツェンは安心した子供のように安らかな顔を浮かべ、そしてその体を構築している魔力を一気に爆ぜさせた。

「ぅく・・・(これが、テラ・・・フォーミング・・・)」

ベルカの地を覆っていくフィヨルツェンの膨大な魔力。フィヨルツェンは死してベルカの地を再生させるのだろう・・・。 
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