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雲外鏡

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第三章

「江戸時代からあるから」
「それで蔵ですか」
「そう、それでそこにね」
「入ってですね」
「見て欲しいの」
「そうですか」
「古い家だと蔵はあるよ」
 裕貴は蔵と言われても昔のものとしか思えない美和子に話した。
「今もね」
「そうなんですね」
「物置だから」
 それになるというのだ、蔵は。
「そんなに難しく考える必要もないし」
「今もですね」
「あるから。じゃあね」
「これからですね」
「うん、その蔵の中に入って」
 そうしてというのだ。
「見させてもらおうね」
「わかりました」
 美和子は裕貴の言葉に頷いてだ、そうしてだった。
 亜弓そして蔵の前にいたすらりとした長身でやや面長で落ち着いた背広の若い人にも挨拶をされた。彼が挨拶をする前にだった。
 亜弓が笑ってだ、裕貴達に話した。
「こちらの方がわたくしの許嫁の板橋優斗様よ」
「あの、様付けは」
 その彼は亜弓に困った笑顔で応えた。
「それは」
「この船場の古い米問屋の方で」
 亜弓は彼の言葉をよそに裕貴達にさらに話した。
「八条大学経済学部を今年卒業されて家業を継がれるべく頑張っておられるのよ」
「全部自分で喋ったね」
 裕貴はその亜弓に突っ込みを入れた。
「ご本人が話される感じだったのね」
「あっ、すいません」
 亜弓は裕貴に言われて優斗に身体を向けて頭を下げた。
「ないがしろにするつもりは」
「わかってるから。とにかくね」
 優斗は亜弓のそうした性格のことを受け入れたうえで話した。
「これからね」
「はい、蔵に入りまして」
「この人達に鏡を見てもらうんだね」
「あの鏡を」
「そうだね、じゃあね」
「今から蔵開けますね」
 亜弓は自分から言ってだった、フランス人の母親何でも梅田の方のレストランの娘の彼女譲りのブロンドの髪の毛をたなびかせてだった。
 蔵の扉に向かって鍵を出して開けた。そのうえで他の三人を蔵の中に入れてだった。
 そうして丸く大きな鏡を紫のビロードの覆いを取って見せた、するとその鏡には。 
 妖しい顔が出ていた、男か女かわからないし年齢もわからない。だがそれは確かに顔で。
 裕貴達を見て笑っていた、亜弓はその鏡を持ちつつ裕貴に言った。
「これがなのよ」
「僕達に見て欲しいもので」
「ええ、何かわかるのなら」 
 それならというのだ。
「教えてくれるかしら」
「災いとか起こすなら」
 優斗も困った顔で裕貴に言ってきた。
「困るしね」
「これ何なの?」
 亜弓はどうかという顔で裕貴に尋ねた。
「私達の学校妖怪のお話多いから妖怪だってのはわかるわ」
「付喪神かな」 
 優斗も八条大学つまり亜弓達の学園に通っていたので妖怪には理解があった、この学園は世界屈指の心霊及び妖怪スポットでもあるのだ。
「これは」
「はい、これ付喪神です」
 すぐにだ、裕貴は答えた。 
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