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ある晴れた日に

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51部分:妙なる調和その十二


妙なる調和その十二

「結婚ってな。俺達まだ」
「彼氏を作ることはできるわよ」
「まあそれはな」
 このことは頷くことができる正道だった。
「わかるけれどな」
「だから。それが発展すれば」
「自然にか」
「咲は少し自然じゃないけれどね」
 ふと気になることを口にする未晴だった。
「彼氏は婚約者でもあるし」
「許婚ってやつか?」
「そうなの。子供の頃に親同士が決めた」
「まだそんなものあったのかよ」
 正道はそれを聞いて顔を顰めさせる。
「許婚なんてものがな」
「あるわよ。咲のお家は八条百貨店のお偉いさんよね」
「ああ」
 このことはもう知っている正道だった。
「そうらしいな」
「代々八条家にお仕えする家の一つでそれなりに色々あるらしいの」
「あいつも結構ややこしいんだな」
「それで彼氏の加藤さんは和菓子屋さんの息子」
「嫁入りってやつか?」
「そういうこと。加藤さん長男さんだからね」
「じゃああいつはあれか」
 ここで事情を全部理解した正道だった。
「将来は和菓子屋さんのおかみさんか」
「そうなの。そのお店山月堂って八条百貨店にもお店出してるから」
「つながりあるんだな」
「家同士が決めたことだけれどね。それでも咲は加藤さんに夢中なの」
「それで甘いものか」
「ええ。そうなの」
「成程な。しかしな」
 ふとした感じで苦い顔を作る正道だった。
「カレーも甘口か?やっぱり」
「咲は何でも甘いのが好きだから」
「別にいいけれどよ。ただカレーはな」
「カレーは?」
「中辛が一番いいな」
 こう主張する正道だった。
「やっぱりな。それが一番だよ」
「中辛ね」
「俺はそう思うぜ」 
 未晴に顔を向けて言う。
「カレーはな。甘口も辛口も好きだけれどな」
「どれでもいけるの」
「カレー、好きなんだよ」
 さりげなくこのことも未晴に話す。
「酒に合わないのが困りものだけれどな」
「それはね」
 正道の今の言葉に微かに笑みを浮かべる未晴だった。
「仕方ないわね。カレーはそういう味だから」
「それが困りものなんだよ」
 困った顔になって未晴に話す。
「まあ今は酒ないからいいけれどよ」
「学校の行事に持って来るわけにはいかないからね」
「全くだよ」
 流石に学校の行事で飲むわけにはいかなかった。殆ど誰も何も言わないが彼等は未成年である。未成年が酒を飲んでいいかどうかは言うまでもないことだ。
「帰ってから飲むか」
「そうするのね」
「ああ、今は止めとくさ」
 今度は憮然とした顔になる正道だった。
「今はな」
「それじゃあ音橋君」
 未晴はその憮然とした顔になった正道に微笑んで声をかけてきた。
「お茶はどう?」
「お茶!?」
「そう、紅茶」
 ここでも微笑んでいる。
「よかったらお茶淹れるけれど」
「紅茶か」
「インドっていえばお茶じゃない」
「ああ」
 インドだけではないがやはりインドといえばそれである。イギリスの植民地時代からこうしたイメージが出来上がっていると言っても過言ではない。
「カレーはやっぱりインドだし」
「そうだよな」
「だから。どうかしら」
 正道の顔を見て問うてきた。
「合うわよ、これが凄く」
「今から淹れるんだよな」
「ええ。皆の分もね」
「いいんじゃないのか?」
 未晴のこの提案に乗る正道だった。
「お茶嫌いな奴もそうそういないだろうしな」
「じゃあ。淹れておくわね」
「いいと思うぜ」
 賛成の言葉が一段レベルアップした。
「それでな」
「わかったわ。それじゃあ」
「お茶も頼むな」
「ええ」
 最後にまた静かに微笑む。正道もその未晴に笑顔を返す。今は二人で微笑み合うことができた。それが変わる時が来ることはまだ想像もしなかった。


妙なる調和   完


                   2008・10・9
 
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