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大阪のうわん

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第二章

「場を出たらね」
「皆笑っていたのね」
「それでお店に行って」
 お通夜の後でというのだ。
「大祝賀会だったそうだよ」
「本当に嫌われていたのね」
「間違いなくね」
「私も今も嫌いだけれど」
「そこまで嫌われているとかね」
「悲しいことね」
「そうだよね、僕もそれを聞いて」
 お通夜の後でその死を皆で喜ばれていたことはというのだ。
「そんな一生はね」
「送りたくないわ」
「そうだね」
 二人で話してだ、それでだった。
 朝美は晃と共にお葬式の場所に向かっていた、その途中で二人は古い教会の横を通ったがここでだった。
 いきなりだ、教会の方からそう叫ばれた。
「うわん!」
「うわん?」
「うわんって?」
 二人はその声に驚いて言った、
「何?」
「これは」
 二人は驚いたが返事はなかった、そしてだった。
 二人は今は教会の横を通ってそれから葬式に出たがその葬式の後もだった。晃が言った通りだった。
「いやあ、よかったよかった」
「嫌な奴がくたばってな」
「迷惑な奴だったよ」
「暴力的で下品でな」
「仕事は全然出来なかったし」
「酒癖女癖は最悪で」
「ギャンブルも大好きでな」
 とにかくいいところがなかったというのだ、朝美の最初の夫である徳光和博という男はそうだったというのだ。
「最低な奴だったよ」
「何かしても責任取らなくて」
「セクハラパワハラいつもでな」
「本当にな」
「最悪の屑だったな」
「死んでよかったぜ」
「もっと早く死ぬべきだったんだよ」
 誰もが笑って言っていた、見ればその死を喜ぶ為に来ている者達ばかりで親戚もこうしたことを言っていた。
 それでだ、朝美は葬式が終わってから晃に言った。
「いや、本当にね」
「嫌われていたんだね」
「親戚の人達からも」
「お葬式は死んでよかったことを実感する」
「そんな人達ばかり来ていて」
「お通夜もそうだったんだろうね」
「そうよね、私は」
 朝美は少し俯いて言った、ここまで来た道を通りながら。
「確かに酷い目に遭わされたけれど」
「それでもだよね」
「知らない人じゃなかったから」
「冥福を祈りに来たね」
「そうだったけれど」
「他の人は違ったね」
「嫌われるにもね」 
 あそこまではと言うのだった。
「ないわね」
「そうだよね、僕もね」
「あそこまで嫌われていると」
「人生どうかと思うよ」
 幾ら嫌な奴でもというのだ。
「人は出来る限り嫌われない」
「そうしないとね」
「かえって自分が苦しくなって」
「死んでもね」
「ああなるよ」
 その死を喜ばれるというのだ、惜しまれたり悼まれるのではなく。このことを心から悲しんでそうしてだった。 
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