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ある晴れた日に

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251部分:その吹く風その八


その吹く風その八

「暫く学校に来れなくなるまで傷ついてもな。許してくれたんだ」
「いい娘だったのね」
「ああ。けれど俺はそいつを傷つけた」
 また言うのだった。
「その優しかったあいつをな」
「そのことをずっと覚えているのね」
「忘れる筈がないさ」
 こうも言った。
「絶対にな。何があってもな」
「ずっと覚えてるのね」
「これからもな。もうあんなことは絶対にしない」
 言葉が強いものになっていた。
「何があってもな。それは誓えるさ」
「それでその娘はどうなったの?」
 未晴は今度はその娘のことを尋ねてきた。
「その娘は」
「また学校に来るようになって」
「そう」
「それで足もなおってな」
 彼はこのことも話したがそれを聞いた未晴は表情を少し変えた。目をしばたかせていた。
「足、なおったの」
「手術受けてなおったんだよ。満足に歩けるようになって杖もいらなくなって」
 どうやらその女の子は杖を使って歩いていたらしい。未晴は話を聞いて彼女がどういった状況だったのかおぼろげながら想像することができた。
「左足だったんだけれどな。よくなってな」
「よかったわね、そのことも」
「今どうしてるんだろうな」
 ここまで話してふと上を見上げた。上にはこれから赤くなろうとしているまだ青い空があった。赤くなっていく寸前の青い空だった。
「あいつも」
「どうしてるかわからないの」
「小学校を卒業した時に転校したんだよ」
 こう未晴に語った。
「それでそれ以来な」
「そうなの。会ってないのね」
「元気だったらいいな。本当にな」
「そうね。元気だったらね」
「悪いな。こんな話してな」
 ここまで話して顔を前に戻して言ったのだった。
「こんな下らない話な」
「いえ、下らなくなんかなかったわ」
 しかし未晴はこう返して牧村の今の言葉を否定した。
「そんな。とても」
「そうか」
「悪いことをしてそれでわかったのね」
 その話をこのように表現したのだった。
「音橋君は」
「そうだな。人を傷付けることの痛さがな」
「傷付けたことに気付いた時に痛いけれど傷付けられた方はもっと痛い」
「その時に気付いたさ」
 彼はまた言った。
「その時にな」
「そうね。そうなるわよね」
 未晴も頷いて応える。
「ナイフは。人を傷付けるものだから」
「それまでわからなかった」
 忌々しげな今の正道の声だった。
「俺は馬鹿だった」
「けれど今はそれをわかってるのよね」
「そうだな」
 未晴の今の言葉には頷くことができた。
「自分がやってやっとな。気付いた」
「皆。多分そうよ」
 未晴はぽつりとだがまた彼に言ってきた。
「皆ね。それは同じよ」
「何かをやってそれでか」
「それか何かをやられて」
 こうも言うのだった。
「それで気付くのよ。皆ね」
「そういうものか。俺も」
「ええ」
 また正道に対して頷いたのだった。
「それで気付いたのよね」
「気付いたさ。痛い思いしてな」
「それがわかっているのといないのとで人って違うのだと思うわ」
 未晴はここではこんなことを言葉に出したのだった。
 
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