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ある晴れた日に

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244部分:そよ吹く風その一


そよ吹く風その一

                 そよ吹く風
 梅雨が終わろうとしていたある日。明日夢はいつものように登校してきた。しかし彼女を出迎えたのはいつものような皆の明るい挨拶ではなかった。
 クラスに入るといきなり皆の集中的な視線を受けた。それはいつもの明るいものでも暖かいものでもなく何か異質なものを見るような、そんな視線だった。彼女はその視線を受けてまず言った。
「どうしたの?皆」
「どうしたもこうしたのじゃねえよ」
「おい北乃」
 野元坂上が最初に彼に声をかけてきた。
「御前何時の間に宗派替えしたんだ?」
「しかもあんなところによ」
「宗派替え!?」
 明日夢は二人の言葉を聞いてまず首を捻った。
「何、それ」
「自分の机の上見てみろよ」
「何だよあれって」
「あれって」
 ここで彼女は気付いた。皆は彼女の机を離れて取り囲んでいる。そのうえで彼女を怪訝な目で見てきているのだ。そのことまで気付いたのだった。
「!?・・・・・・って」
 自分の机の上を見て。唖然としたのだった。
 何とそこに黒とオレンジがあった。黒い帽子にオレンジの字が描かれている。それはYとGの二文字だ。それが何であるのか、わからない人間はこのクラスにはいなかった。
「何であんなの私の机の上にあるのよ」
「って御前が置いたんじゃないのか?」
「言っておくが俺達じゃねえよ」
 坪本と佐々が言ってきた。
「こんな不吉なもの置かないからな」
「御前じゃねえのか?」
「私の筈ないでしょ」
 明日夢はむっとした顔で彼等に言い返した。
「何で私が巨人の帽子なんて。しかもメガホンに半被まで」
「ジャイアンツグッズ一式だからな」
「何て不吉なんだよ」
 皆彼女の机の上にあるそのグッズを汚いものを見る目で見ている。明日夢自身も同じである。
「しかし御前が置いたんじゃねえのか」
「やっぱりそうか」
「当たり前よ」
 怒った声で言い返しながら鞄から何かを取り出してきた。それはベイスターズの青い帽子だ。その星のマークの帽子をここで被ってみせてきたのだ。制服に野球帽である。
「これでわかるでしょ」
「わかるわかる」
「もうそれだけで」
「昨日も確かに負けたわよ」
 続いてこのことを居直ったのだった。
「けれどね。それでもよ」
「巨人は応援しないのね」
「やっぱり」
「当然でしょ。それあんた達が一番知ってるでしょ」
 五人組と茜に対しての言葉である。
「スタープラチナには巨人のグッズはないわよ」
「そうよね。それどころかお店のスコアボードはいつも」
「巨人って書いてないし」
 明日夢のアンチ巨人ぶりはとにかく徹底しているのである。
「極悪金満球団って書いてあるし」
「他には球界の敵とかね」
 自分の字で書き殴っているのである。明日夢の心境をそのまま表している行動だ。
「そういうの書いてるから、少年って」
「違うのね」
「そんなの見たらわかるでしょ」
 むっとした顔でまた五人に言い返した。
「私が何で巨人のグッズなんか」
「大体よ」
 野本が自分の席にだらしなく座りながら言ってきた。
「北乃が巨人のグッズなんか持つか?」
「いや、有り得ないよ」
「だから皆不思議に思ってるじゃない」
 桐生と高山が彼に言葉を返した。
「こんなのってね」
「絶対に有り得ないし」
「そうよね。少年が巨人なんてね」
 咲も腕を組みながら言う。
「有り得ないわよね。何がどうなっても」
「わかってるじゃない。だったらよ」
「ああ」
 皆明日夢の言葉に応えた。
「とりあえず。この不吉極まる忌々しい物体だけれど」
「物体なのね」
「そう、物体よ」
 見れば明日夢が一番巨人グッズを忌まわしい目で見ていた。本当に巨人が嫌いなのがこのことからもよくかる。
 
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