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fate/vacant zero

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使い魔生活も楽じゃない





 時間は、タバサがイザベラの侍女たちによって着せ替え人形と化していた頃まで戻る。



 中天に差し掛かりつつある日差しをたっぷりとまぶたに感じ、才人は短く呻うめきを上げた。



「……ぅあ?」


 目を薄く開けてみると、日光が直撃していてものすごく眩しかった。

 いったん目を閉じ、体を起こしてからもう一度目を開ける。

 視界の下の方が久しぶりの光で真っ白に染まっているが、薄目になって耐える。



 ……あれ、なんで俺は寝てたんだ?



 はて、と体を眺めようとして、何か首周りの感覚がおかしいことに気付いた。

 うまく首が回らない。

 あごも引けない。

 仕方が無いので、視線だけを下方向に向けて……、目が点になった。


 さきほど、視界半分が白に染まっているといったが、比喩でもなんでもなかったらしい。


 才人の体は、包帯でギッチリがっちりと固められていた。

 ギプスかよとツッコみたかった。

 だが、ミイラ状態の体を見ることで、思い出せたこともあった。


 そう、確かあのギーシュとか言う奴と戦って、動く銅像ゴーレム……、えーと、確かヴァルキリーだっけ?


 ……なんか違う気がするけど、まあいいか。

 ともあれ、アレにフルボッコにされて。

 それから剣を握って、なんだかわからん力で動く銅像ゴーレムを解体バラしたんだっけ。


 で、ギーシュに勝ったと。



 多分大筋はこれであってるはず。

 うん、いまいち信用できない辺りが実に俺っぽい。


 しかし、勝った後ってどうなったんだっけ?

 なんか、おもしれえ! って思ってたような気はするんだけど。

 あと、ルイズが走ってきてたような気もする。


 でも、その次に覚えてるものがわけわからん。

 なんで視界一面の地面なんだ。


 その次の記憶はもう、ついさっきの目を焦やかれたかと思うくらい眩まぶしい光なワケで。


 つまり、それって……、気絶したってことか?



 体力の限界でも気絶って出来るんだな、と初めての体験を才人は脳みそにすりこんだ。







 で。


 どこだ、ここ?

 ゆっくりと辺りを見回す。


 体の乗っかっているのは見覚えがあるベッド。

 向こうに見えるは見覚えがある窓に見覚えのあるクローゼット。

 そして、見覚えのある椅子に座って見覚えのあるテーブルに突っ伏した、見覚えのあるルイズ。


 うん、どうみてもここはルイズの部屋だ。

 ということは、いま俺が寝てるのってルイズのベッドか。


 つい、と右手を眺めてみる。

 そこにあるのは、いつもの俺の手だった。

 たしか、砕けてたような気がするんだが。


 ……そういえば、あばらも普通に折れてたような。


 右手で拳を作り、軽く胸を叩いてみた。

 こつりと、体の中にいい感じの響きがして――



 前かがみに蹲うずくまってずきずきと痛む右手を左手で押さえるバカ一人。



 いてぇ。


 いてぇんだけど、折れたり砕けたりはしてないらしい。

 まだズキズキはしてるけど、息苦しくなったり動かせなかったりはしなかった。


 これも魔法なんだろうか。

 そうだとしたらすっげぇな。医者、いらねえんじゃねえか?


 そんなことを考えていたら、左手のルーンが目に止まった。

 コレがあの不思議パワーの時、なんだか光っていたことを思い出す。


 こいつも魔法みたいなもんなんだろうか?

 あのとき、体の痛みを無くしてくれたり、ギーシュの野郎の銅像を遅くしたり、ぶった切らせてくれたりしたのは、こいつの力なんだろうか?

 こいつは、あの時の力以外にも何か出来るんだろうか?


 興味は尽きない。実に面白い。

 才人は痛みも忘れて、その力をもう一度試してやろうと跳ね起きる。



 起き上がった拍子にあちこち痛んで、秒単位以下でベッドへ逆戻りさせられた。


 重力の手で、今度はうつぶせに。鳥頭の所業だった。

 柔らかいベッドとはいえ、鼻と胸を打ちつけたのでものすごく痛い。


 そのまましばらくもだえていると、ノックが聞こえて誰かが部屋に入ってきた。

 ドアへ体ごと目をやると、あの時才人に厨房でシチューをくれた、平民の少女がいた。

 相変わらずのメイド姿である。


「きゃ!
 何やってるんですかサイトさん! 動いちゃダメですわ!
 あれだけの大怪我では、『治癒ヒール』の魔法でも完璧には治せないんですよ! ちゃんと寝てないと!」

 彼女は才人を見ると目を丸くし、手に持った銀のトレイをテーブルに置くと慌てて駆け寄ってきた。


 悶絶していて動けなかったので、とりあえず裏返してもらった。

 ころりと。


「えっと……、シエスタ?」

「なんですか?」


「あの、だな
 俺、なんでルイズの部屋で寝てたんだ?
 ぶっ倒れたところまでは覚えてるんだけど」


「あれから、ミス・ヴァリエールがここまであなたを運んできたんですよ。
 途中で遇ったわたしに、『水』系統の先生を呼んでくるよう言って。
 それで連れてきた先生に、『治癒ヒール』をかけてもらったんです。大変でした」


 あぁ、やっぱり魔法だったのか、あの怪我を治したの。

 すげぇなぁ。


「その『治癒ヒール』の呪文って、どれぐらいまでなら普通に治せるの?
 っていうか、病気とかでも治せたりするのか?」

「え? ええ、病気も治せちゃうみたいです。
 どれぐらいまでかは、その方の精神力次第ですわ……あの、ご存知ではないんですか?」

「いや、あいにく」


 なぜ知らないかについては話さない。

 病み上がりであんな面倒な説明させられたら、また寝込んじまいそうだ。


「あの、もう少し勉強なさった方がよろしいのでは……。
 じゃあ、呪文に秘薬が必要なことも、ご存知でないので?」


 失礼な。じゃなくて……、へ? 秘薬?


「そうなの?」

「ええ。あ、秘薬の代金の方は、ミス・ヴァリエールが出してましたから心配ないです」


 心配て。


「なあ。……心配する必要があるほどお金かかるの? その秘薬って」


 気になる。

 かなり。


「まあ、平民のお給料では一年間飲まず食わずで溜め込んでも出せる額ではありませんね」


 そりゃあまた、べらぼうに高そうだ。



 ……はぁ。

「ルイズに、借りが出来ちまったなぁ」


 そうですね、とくすくす笑いながら、シエスタがテーブルに置いたお盆を持ってきてくれた。


「お腹すいてませんか?
 お食事です、食べちゃってください」

「あ、ありがとう」


 そう言われてみると、ちょっと。



 もとい、けっこう。



 いやいや、すごく。



 ……正直言おう。とんでもなく腹が減ってる。

 ぐぅぐぅきゅるきゅると痛いぐらいに。



「……なぁ、俺、どのぐらい寝てたの?」

 そう言ったところで腕が耐え切れなくなり、切られたパンを攫み被る。


 あぁ、柔らかくて実にうまい。

 あの朝に食ったパンって、こんなうまかったんだな。

 これまた新発見だ。


「三日三晩、ずっと眠り続けてました。
 目が覚めないんじゃないかって、皆で心配してたんですよ」


 三日かぁ。

 道理で、やたらと腹が減ってるわけだ。


「皆って?」


「厨房の、皆です。
 噂になっちゃってますよ? 貴族に勝った平民がいる、って」


 おお。……っても、やっぱ“平民”なんだな、俺の呼称よびかた。


 いや、なんも説明してないんだから当然っちゃ当然なんだけどさ。

 なんだかなぁ、と思っていたら、いきなりシエスタが頭を下げてきた。


「あの……、すいません。
 あの時、一人で逃げ出してしまって」


 はて、あの時?

 ……逃げたって言うと、食堂で、だよなぁ。


「気にしないでいいって。シエスタの謝ることじゃないよ」


「ほんとに、貴族は怖かったんです。
 私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては」


 そうかもしれない、と思う。

 あれほど重い拳を遊びで容易たやすく繰り出してくるような相手なのだ。

 女の子では、怖いと思うのが普通のことだろう。



 ……でも、それならなんで顔を上げたシエスタの目は、こんなキラキラ輝いてるんだ?


「でも今はもう、前ほど怖くないんです!
 わたし、サイトさんを見て感激しました!
 平民でも、貴族に勝てるんだって!」


「そ、そう……、ははは」


 かなりボロボロだったんだけどなぁ……。

 まぁ、悪い気はしないからいいんだけど。


 ほんとに、この左手の模様は、どんな力を持ってるんだろう。



 ………………あぁっ、はやく試してみてぇええええ!



 と。

 気持ちだけは強いのだけれど、体が治ってないので下手に動くとえらい目にあう。


 実にもどかしかったので、才人は意識話題を逸らそうと試みた。


「そういえばさ。ひょっとして、シエスタってずっと看病してくれてたりする?」

「いえ、違います。私じゃなくて、そこで寝てるミス・ヴァリエールが……」


 あいつが?


「サイトさんの包帯を取り替えたり、顔を拭いてあげたり……。
 ずっと寝ないでやってたから、お疲れになったみたいですね」

 そっか。……ますます、借りがでかくなっちまってるなぁ。

 ぼんやりとルイズを眺めながら、召喚された日の夜、こいつが言っていたことを思い返す。


『使い魔は、主人の護衛でもあるのよ。その能力で、主人を敵から守るのが役目!』


 これが出来るようになった、というのは大きいか。

 なら俺は、ルイズを守ることにしよう。

 金なんぞは欠片もないが、これなら、借りくらい返すことが出来るかもしれない。


 そのためにも、早いとこ模様の力は試しとかねえと!


 どっちかと言うとこっちがメインっぽい叫びを心の中で上げた時、視線の先で、ルイズが目を覚ました。

 大きくあくびをして、伸びをして。

 それからようやく、目を覚ました俺に気付いたらしい。



「あら。起きたの、あんた」

「うん」


 さて。とりあえず、お礼は言っとかねえとな。


「その、な。ルイズ」

「なによ」

「ありがとう。心配かけて、ごめんな」


 心配、と言った辺りで、ルイズは予備動作無く立ち上がった。

 こちらにつかつかと近寄ってくる。


 なんだなんだと思っていたら、被っていた毛布を引っぺがされ、首根っこを掴まれてベッドから引きずりおとされた。


 曰く、「治ったんなら、さっさとベッドから出なさいよ!」だそうだが、とりあえずそれはどうでもいい。



「をぉおをぉおぉをおおぉ」



 ごとりと落とされた衝撃が響いてむっちゃいてぇ。

 痛さで転げまわると、そこは板張りの床だ。

 がんがん痛みは増していく。

 ついでに包帯もはらはらほどけていく。絡まる絡まるのどが絞まる。


 どんな無限地獄だ。というか、殺す気かこら。

「をぉぉおおぉ、をおおをま、な、何しやがる!
 こちとら怪我人だぞ!?」


「それだけ話せりゃ充分よ」


 ぎしぎしと痛む体をとりあえず起こす。

 横になったままだったら、本気で痛みで死ねる。


 もうちょっとくらい寝させてくれてもいいだろうに。


「そ、それじゃ、ごゆっくり……」


 シエスタが苦笑を浮かべながら、部屋を出て行く。

 とばっちりから逃げたらしい。

 ひでえなぁ、もう。と、思った矢先。


 ルイズが、服や下着の小山を投げつけてきた。

 枚数からして、俺が気を失ってから溜め込みっぱなしだったらしい。

 一発で埋もれた。


「あんたが寝ている間に溜まった洗濯物よ。
 あと、部屋の掃除。早くしなさい」

「……お前なぁ」


 なんか、一気にやる気が失せたんだが。

 俺の感謝と感動を返せコノヤロウ。


「なによ。ギーシュに勝ったくらいで待遇が変わると思ってたの?
 おめでたいんじゃないの? バカじゃないの?」


 好き放題いいやがるルイズ。

 ちょっとギーシュが哀れになったのは、きっと気のせいだ。



 やっぱ、こいつに借りだなんて考えたのは無しだ。

 ていうか、そんなもんあってたまるか。

 よくよく考えたら元々俺の貸しばっかじゃねえか畜生。

 憎々しく睨んでいると、人指し指を立てて、勝ち誇った調子で――、つまり、毎度恒例の調子で、ルイズは言った。


「忘れないで! あんたはわたしの使い魔なんだからね!」


 わーってるよ恨蓄生こんちくしょう。

 ていうかほんとにそう思ってるんだったらそのやる気をねこそぎ奪ってくセリフをやめやがれバカヤロウ。











Fate/vacant Zero

第五章 使い魔生活も楽じゃない









・平等マンの月、保護の週ソーン、陽炎ケンの日。

 ルイズが言うには、5月2週目の月曜日、に当たるらしい。

 今日から、日記を付けてみることにした。

 文字? こっちの字が分からないんだから、当然俺の世界の字だ。っていうか日本語だ。

 ついさっき、ていうかたった今、ここまでの文をルイズに覗き見られた時は「なによこの針山みたいな線は? これが文字なの?」とか言われて馬鹿にされた。

 それを言ったらこっちの字はミミズののたくりじゃねえか。

 ほっとけってんだ。

 ホントは昨日から始めたかったんだが、病み上がりで大量の洗濯と掃除をしたら体中ギシギシと痛んで、そのまま崩れるように眠った。床にな。

 初日も思ったんだけど、板張りの床に寝るのって痛いんだね。

 今回は怪我してるもんだから寝返り打つたびに目が覚めるんだよ。痛みで。

 おかげで、さっぱり寝付けなかった。

 正直今日も日記とかほっぽりだしてとっとと寝たいんだが、まあ言ってたら始まらないしな。

 書きたいとは思ってるんだし。

 で、だ。

 今朝はろくに寝付けなかった分、眠気が一向に減らなかったんだ。

 もっと寝ていたいと思ってもおかしくねえだろ?

 だからルイズに昨日言われたことも忘れて、寝よう寝ようとしてたわけだよ。

 そう、「明日もちゃんと起こしなさいね」ってセリフを忘れて。



 そうしたら、自力で起きたルイズに毛布を剥ぎ取られて、無理やり転がし起こされましたよ。

 朝飯抜きのオマケつきでな。

 「ご主人様に起こされる間抜けな使い魔には罰を」だってさ。

 何様だコノヤロウ。ご主人様ですかそうですか。


 仕方ないからとぼとぼと洗濯に行くフリをして、厨房でこないだみたくシチューと余ったサラダを貰った。

 書くとまずいかな、とも思ったけど……、まあ、どうせ俺以外には読めはしない。

 この感謝を忘れないためにも、遠慮なく書いておこう。

 ちなみに、なぜか俺専用の椅子なるものがあった。まあ、これは後で書くか。

 ちょうどシチューを食べ終わった頃になるとコックたちにも暇が出来たらしく、俺の方によってきた。

 ナニゴトかと思ったら、皆して「すげえなあ坊主!」とか「感心したぜ!」とか口々に褒め称えだした。

 そういえば昨日、シエスタが俺のことが噂になってるって言ってたなぁ、と思い出した時、丸々と太った体に立派なあつらえの服を着込んだ四十過ぎぐらいのおっさん――マルトーの親父さんが、コックとメイドの人垣を割って近づいてきた。

 で、いきなり首根っこにぶっとい腕を巻きつけられて「よくやった『我らの剣』!」と上機嫌に言い放った。

 なんでもこの親父さん、魔法学院のコック長なんかやってるくせに、魔法と貴族が嫌いらしい。


「あいつらはなんだ、確かに魔法を使える。
 土から鍋や城を作ったり、炎の玉なんかを吐き出したり、果てはドラゴンを操ったりでたいしたもんだ!
 だがな、こうやって絶妙の味に料理を仕立て上げるのだって、言ってみれば魔法の一つだと思わないか?」


 というのが親父さんの弁だった。

 確かに、と同意したら「お前はまったくいいやつだな!」とさらに力が強くなった。

 一瞬オチかけたのは秘密だ。

 あと、「お前はどこで剣を習った? どれだけ訓練したら、メイジのゴーレムを切り裂けるぐらいになれるのか、俺にも教えてくれよ」とも尋ねられた。

 剣なんか握ったことも無かったと正直に話したら、謙遜していると思われたらしくて、「達人は誇らない!」という妙な格言まで生まれてしまった。

 その後、ルーンを試したくなったのと、押し付けられた掃除と洗濯をしなければならないのとで、厨房を後にする時なんかは敬礼で見送られた。


 あそこまでいくとかなり気恥ずかしいんだけど、なんだか随分と俺は気に入られてしまったらしかった。


 部屋の掃除(昨日したばっかりだったから、それほど時間はかからなかった)を済ませ、床に纏めたルイズの洗濯物を籠にまとめて、下の水汲み場へ洗濯に。

 で。

 昨日は腰が痛くなってくるほど洗濯したわけだけど、それでも水の冷たさには慣れるもんじゃなかった。

 当然、ポンプ式水道水なんかありゃしない。井戸水だ。

 地下から汲んだ天然水が、すごく冷たいというのは、昨日イヤというほど脳裏に刻まれていたはずなんだが。

 やっぱり書き残しておくことは大事だと思う。


 ……昨日もシエスタにいい方法が無いか尋ねてみようか、と思ったはずなんだけどなぁ。

 完璧に忘れてたよ……。

 昨日に比べたらはるかに早く洗濯は終わった。

 まあ、一日分ならあれぐらいで普通なんだろう。

 そうしたら、ルーンを軽く試してみたくなってきた。


 なんせ、昨日洗濯板を強く握り締めたときにもほのかに光ったのである。

 うっかり力加減を忘れてごしごししたら、キャミソ-ルが一つおじゃんになっていた。

 そんでもって「ご主人様の衣類を台無しにする無礼な使い魔には罰を」と昼飯を抜かれた。

 さっさと発動する条件を探らないと、いつ何が起こるもんだかわかったもんじゃなかった。




 そんなわけで、その辺の木から小枝を一本拝借して、手に持ってみた。

 ルーンに反応は無かった。


 軽く握りこんでみた。

 ルーンがほのかに光った気がした。

 でも、あの時みたいに体が軽くなったりはしなかった。


 アレはギーシュの野郎の剣の能力だったのか?

 それとも、この小枝じゃあダメなんだろうか?


 とりあえず、小枝を強く握りこんでみたらいい感じに光ってくれたので、どうもそういうわけではなさそうだ。


 強く握った状態だったら、あの時ほどじゃないけど体が軽くなっていた。面白かった。


 単純に力を入れたら光るんだろうか、と思い、素手のままで左の拳を強く握り締めてみた。

(右はまだ治りきってないし。包帯は外したけどさ)


 光らなかった。


 いや、ほんの少しだけ光っているような気はするけど、目をこらさないとわからないのは光っているといっていいんだかどうだか。

 どうも、何かしらは持ってないとダメらしい。興味深い。


 じゃあ、葉っぱでも持ってたら光るんだろうかと思って、小枝に残ってた葉っぱを握り閉めてみたけど、どうもそういうわけでもないらしい。

 模様は完全に無反応だった。


 そのあとしばらく小枝を振り回していたら昼になったので、食堂でルイズと合流した。


 以上、午前中終わり。





 昼からは授業に参加することにした。今日は水からワインを作り出す魔法らしい。

 『錬金アルケミー』とは違うのかと気になって聞いてみたところ。

 どうやら『水』系統の『変性デネトレーション』という魔法であり、『土』系統の『錬金アルケミー』とは違うものらしい。

 やってることは同じだと思うんだけど、何が違うんだろうなぁ……。

 ルイズの説明は分かっているところを飛ばすからか、専門用語が大量に混ざっていてよく分からん。

 授業が終わって夕食を食べたあと、シエスタから藁わらたばを貰った。

 今日も板の床で寝たりなんかしたら、明日こそ死ねる。

 部屋に持って帰り、部屋の一角に敷き詰める。

 ルイズ曰く、『ニワトリの巣』だそうだ。

 まあ、いいんだけどな。



 とりあえず今日までに分かったこと。


・ルーンの発動する条件。

 1.木の枝や洗濯板を強く握り締めたら、発動する。

 2.何も持ってなかったり、葉っぱや小石なんかを持っていても、発動しない。

 3.木の枝、洗濯板とも、"強く"握り締めないと発動しなかった。

 4.剣の場合は、軽く握っただけでも発動していた、気がする。

   ただしギーシュの剣だったので、普通の剣でも発動できるかどうかはまだ分からない。


・ルーンが発動した時の効果。

 1.体が軽くなる。

 2.怪我の痛みが和らぐ。

 3.なんとなく、それをどう使ったらいいかの使い道が分かる。





 こんなもんかね。

 効果の3は剣を振ったとき腕の延長みたいに使えたことと、洗濯板のときに汚れを早く落とす方法なんかがなんとなく理解できたのが理由なんだけど。

 根拠には薄いか?

 ああ後、なんでかわからんが呪文や魔法の名前が日本語になって聞こえるんだけど、こりゃいったいどういうことなんだろうね。

 本来の発音っぽい言葉も一緒に聞こえてるから、連続して聞いてると聖徳太子にでもなった気分だ。

 そもそも、なんで普通にルイズたちと日本語で会話できるのかも不思議だ。文字は読めないのにな。

 これも、ルーンの恩恵なんだろうか。

 まあ、後は手に入れたものでも書き留めて、今日はもう寝よう。

 疲れた。

今日の戦利品

 ・何かの木の小枝(藁わらたばに混入して行方不明。なんか寝てる間に刺さりそうな気がするのは気のせいか?)

 ・寝床の藁わらたば

 ・食堂の皆との友情

 ・ルーンを使う方法と、その効果







・平等マンの月、保護の週ソーン、黄金ソエルの日。

 昨日の夜に書き始めたときに教えてもらった暦こよみなんだけど、とりあえずこれについても忘れないうちに書いておこう。

 なんでも、こっちの暦こよみだと、●月1日ついたち、▲月2日ふつか、とかいう数え方はしないらしい。

 各月ごとに一定の日数が決まっていて、週と曜日でその日数に届くまでを数えていく。

 最長で6週まで数えることもたまにあるようだ。

 第2月曜、第3月曜、っていう数え方が俺の世界にもあったが、アレに似ている。

 混ざって間違えないように注意が必要だ。


 なんせ、たとえその月で最初の陽炎ケンの日であったとしても、既にその月の虚無ウィルドの日が一度来ていれば、それは保護の週ソーンの陽炎ケンの日になる。

 各週は、虚無ウィルドの日を最後にして次の週へと変化するのだ。

 つまり『第1月曜』ではなく、『第2週の月曜』というわけだ。


 紛らわしい。その癖、月ごとの日の割り振りは日本と大差ないので、輪を掛けて紛らわしい。


 一応、一週間に使う曜日を忘れないよう順番に書いておく。


 陽炎ケン、黄金ソエル、鉱石ユル、風雅エオー、大樹イング、流水ラーグ、虚無ウィルド。


 虚無ウィルドが休日だ。

 俺の世界と違って、週休は一日制らしい。

 忙しそうだが、まあ貴族たちに取ってみりゃそうでもないんだろう。多分。

 ちなみに昨日書き忘れたけど、俺の朝は結構忙しかったりする。

 まずは日が昇る少し前に起きる。

 ちなみに今朝は予想通り、寝返りをした拍子に藁わらたばに潜んでいた小枝に横っ腹を刺されて目が覚めた。

 それから、まずルイズを起こす。

 起こさないとどうなるかは昨日既に分かっている。


 一応、サラダ付きだったらあのみすぼらしいスープもいい味をしている。

 というか、毎食シチューはさすがにちょっと重いから、朝はあのメニューが欲しい。

 体は野菜を求めている。


 続いて、ルイズを着替えさせる。

 確か今日でまだ三度目だったはずだったんだが、なんでああ色気を感じねえのか。

 ドキドキはしてるんだけど。胸がゼロなせいか。不思議だ。


 で。

 次に井戸まで水を汲みに行って、ルイズの顔を洗う。なんでこんなことまでやらされにゃあならんのか。

 ていうか、他人の顔って洗いにくいんだが。新鮮じゃああるんだけどな。

 今度、炭ででも落書きしてやろうかね。

 厨房にこれでもかって転がってるしな。使用済みの薪たきぎが。

 こいつ、鏡は使わないみてえだし。

 それらを終えてから朝食を済ませ、授業に向かうルイズを見送ってから部屋の掃除を始める。


 掃除の次は洗濯だ。

 朝飯のとき、シエスタを捕まえて聞いておいたから問題ない。


 掃除の前に水汲み場で古い鍋(貰い物)に水をためておいて、日に晒しておいた。

 これを洗濯まで放置しておくことで、氷みたいな温度から、ぬるま湯の手前ぐらいの温度まで暖まってくれる、というわけらしい。


 これが生活の知恵か。



 ……そういえば、ヒモの切れかかってたパンツが昨日あったような気がするんだが。

 アレ、いったいどこに紛れ込んじまったんだろ。困った。

 それから中庭に出て、ルーンの実験を始める。


 今日は、小枝を強く握ってとりあえず振り回してみた。

 なんかすげぇ威力が出てる気がした。

 うっかり木の幹にぶち当てちまったら、ぴしっと2センチぐらいの深さで裂け目が出来ちまったんだが。


 たしかただの小枝だったよなぁ、アレ。不思議だ。

 速さで切ってるのかね。小枝の方も弾けてどっかへ吹っ飛んじまったし。


 それから厨房へ行って、炭と、薪用の小さめの丸太を一本ずつ貰ってきた。

 炭を握って、地面に立てた薪へ振り下ろしてみた。



 炭がばらっばらに砕けた。


 拾い集めるのが実に面倒だった。

 薪の方はというと、殴りつけたところが真っ黒になったぐらいで傷一つぐらいしかついてなかった。

 握ったものの強度が上がる、ってわけじゃないらしい。


 つーことは、さっきの木は純粋に速さで切ってたってことか?

 散らかった炭を集めるのに時間がかかりすぎて、全部拾い終えた時にはもう太陽が真上に来ていた。


 なんだかなあ。

 今日の授業は、秘薬を調合して特殊なポーションを精製するというものだった。

 『錬金アルケミー』と『変性デネトレーション』をばらばらに、でもタイミングよく行う必要があるんだとか。


 まあバラバラにで構わないので、『ドット』メイジでも何とか作り出すことは出来るらしい。

 ああそれから、今日の説明で二つの魔法の違いをどうにかこうにか理解できた……、気がする。


 どうも、『錬金アルケミー』は元素(だっけ?)を弄ってまったく別の元素に作り変える魔法。

 対して『変性デネトレーション』は分子の元素配列を組み替えて別の分子にする魔法、らしい。


 シュヴルーズ先生の談だった。ルイズの説明よりは、数段分かりやすい。



 ちなみにこの違いについては、ギーシュの実演に対するものだった。

 危うく殆どを『錬金アルケミー』で精製するところだったらしい。

 それでは、うまく効果が成立しなくなるんだそうな。


 今日あったことといえば、まあだいたいこれぐらいだろう。

 まとめに入る。


 なんか日記って言うより、レポートって言った方がしっくりくるな。

 ま、いいか。忘れないためのもんだし、俺以外の誰かが読むもんでもないんだから。


 これでいいんだよ。





 ってことで、今日分かったこと。


・ルーン発動中の効果

 1.身体能力が上がる。
   まあ、時間を何かしら弄ってるのかもしれねえけど、どっちでも多分大差はない。はずだ。

 2.持ってるものが強くなったり硬くなったりするわけじゃない。

 3.動体視力が高くなる。




 3は、炭で薪をぶん殴った時に気付いたことだ。

 飛び散ってく炭の一つ一つがはっきり見えた。

 砕ける寸前に全体に入ったヒビとかまで、くっきりとな。


今日の戦利品

・炭のかけら




 こんだけか。小枝なくしちまったし。

 でもまあ、小枝で出来そうなことってもう調べたよなぁ……。


 武器が欲しいかもしれん。

 ギーシュに勝者の権利ってことで頼んでみるか?



 ……それはなんかイヤだなぁ。







・平等マンの月、保護の週ソーン、鉱石ユルの日。

 今朝、朝食に向かう途中でルイズが階段から転落した。


 どうやら例の、ゴムが切れ掛かったパンツを運悪く引き当てちまってたらしい。

 歩いてる真っ最中に唐突に切れて、パンツは足首までずり落ち、猟師の罠みたいにルイズの両足を捕らえやがった。

 そこがよりによって階段だったもんで、まあ、派手に転がり落ちたわけだ。


 辺りに人影が無かったのは、幸いといえるだろう。

 ルイズの名誉は守られた。


 少ししてルイズは息を吹き返したんだが、ゴムの切れ目に気付いたみたいで。

 どうも俺がわざと切り込みを入れたと勘違いされたらしい。


 「あくまで、ゴムの所為にするのね?」って言われても、実際そうなんだから素直に肯定するしかないわけで。

 一つ溜め息をついたルイズは、「今日の食事、ヌキ」と申された。


 明日の朝、見てやがれこんちくしょう。

 そんなわけで今日は賄い食しか食えてない。

 俺は野菜に餓えている。


 運悪く、今日はサラダは残っていなかったのだった。

 俺、こんなに菜食主義者ベジタリアンだった覚えは無いんだが。


 毎日豪勢な食事を見ているせいで、視覚から肉の類たぐいに飽きが来ちまったんだろーか。

 まあ、それにしては肉も食いたいんだけどな。


 どうも、あの苦い苦いサラダを食べないと、栄養のバランスが崩れてる気がしちまうんだ。


 なんでだろうね。

 今日の授業は、『火球ファイヤーボール』の野外訓練だった。


 まあ、読んで字の如くな呪文だったわけで、特筆するような点は、無い。

 ルイズが相変わらず狙った的を火球を出せずに爆破したりしていたのは、まあ、いつものことだ。



 今日はこれといって実験はしていない。

 というのも、今朝の騒動のおかげで午前中の間はパンツのゴムを調査していたからだった。


 そういえばこの調査をしている最中に、三日前に目が覚めてから初めてあの青い髪の女の子を見かけた。

 といっても、こっちに来た日や決闘をした日に見かけた青いドラゴンに乗って、どこかへ出掛けていく後姿だったんだが。


 あのドラゴン、あの子の使い魔だったんだな。

 しかし、あの子を見かけた時間ってたしか授業中じゃなかったか?


 サボりかね。

 ま、今日はそれぐらいだ。

 分かったことは、あのドラゴンはあの子の使い魔だってことと、俺が結構あの苦いサラダを気に入ってるってこと。


 戦利品は、無しだ。

 三食全部がパンとシチューだったのがなぁ。


 米が欲しい。

 野菜が欲しいぜ。







・平等マンの月、中略、風雅エオーの日。

 まあ、ここ略しても分かるよな、この数え方なら。

 いや、今朝はえらい目にあった。


 一昨日手に入れた炭のかけら。

 アレを使って、ルイズの顔を拭いてやる時に、こっそりと顔に落書きしアートを施したんだが。


 食堂で全校生徒に爆笑されたルイズは、その直後、親切なミスタ・コルベールに眼鏡とヒゲの形をした小粋な化粧を指摘された、らしい。

 中から聞こえた大爆笑に、廊下で笑い転げてたら、だいたい2ダースほどぶん殴られて、またまた丸一日食事を抜かれたわけだ。


 まあ一応、今日の夜はサラダがたんまりとあまってくれてたからシチューとサラダを1:3ぐらいの割合でがっついた。


 美味かった。苦かったけどな。



 で、ついさっきルイズに「次にあんなことやったら本塔の屋上から逆さに吊るしてやるわ」と言われた。

 なんでも、『ご主人様の顔を画布に見立てる使い魔は、かつて神々を味方につけたブリミルに逆らいし悪魔も同じであり、悪魔は生かしておいてはいけない』んだそうな。



 要するに“死にさらせ”ということらしい。

 とりあえずこれ以上ことを荒立てるのは拙いと判断し、土下座をかました。

 今日も実験はなし。


 まあ、朝の間は痛みでそれどころじゃなかったし、魔法の授業は面白いから午後からはそれで潰れるわけで。


 一応記しておくと、こっちの授業は午前2、午後1の3時間授業だった。

 専門学校みたいだな。

 で、今日の授業。『空中浮遊レビテーション』の授業だった。

 空中に箱やら棒やらボールやらを浮かべ、ソレを窓の外に飛ばして、使い魔に取らせに行く、というものだった。


 ルイズは朝の鬱憤をぶつけるようにボールに爆発をぶつけて無茶苦茶なスピードで窓の外へ吹っ飛ばしたけどな。

 長髪で黒いローブをまとった冷たい雰囲気のギトー先生は、そんな光景を見やって額に手を宛てて溜め息をついていた。

 苦労が多そうだ。

 第二のコルベール先生にならないことを切に祈る。


 なお、俺がそのボールを探し出して教室に戻るまでには15分ぐらいかかった。

 その辺で拾った小枝を使って、ルーンは発動させたんだけどな。


 学園の敷地の端っこの壁まで飛んでやがった上に、大きな木に突き刺さってやがったから、こんなに時間がかかったわけで。

 断じて、俺の責任じゃねえ。


 と、思う。

 まあ、今日新しくわかったことはこれと言って無い。


 ルイズを怒らせるとヤバイのはいつものことだしな。

 戦利品? あるはずも無かった。


 まあ、野菜は食えたからよしとしよう。

 ……こっち、米ってないのかね。

 パンがあるんだから、あってもよさそうなもんなんだけど。





・前略、中略、大樹イングの日。

 ここまで略しても前後関係でいつだかわかるのはすげえかもしれない。

 なんていうか、いつものように過ごして、いつものように一日が終わって。

 いつもと違って騒動は何も無かった。珍しい。



 そして上の文を書いていて、こっちをもう既に日常だと思ってる俺がいるのにまず驚いた。

 今まで次から次へと新発見が続いていたから、新発見が日常になっちまったのかもしれない。


 俺の適応能力、侮あなどれねえな。

 今日の授業は『水』の『造形クレイド』。

 ……まあ、これも読んで字の如くだよな。

 水を操って、それを形あるものにまで練り上げる。


 まあ、水で作る粘土細工みたいなもんだ。



 今日の授業は説明がメインだったけど、どうも座学は苦手だ。


 専門用語が並ぶと眠くなる。

 一応今日は気合いで起きていられたんだけどな。

 高校生の身では仕方が無い、つーべきか。


 よく周りにいた連中は平然と起きていられるな、と思った。

 ちなみに、これは『水』系統の基本の魔法でもあり、これが出来なければ『治癒ヒール』なんかの魔法は手も足も出せない、らしい。

 あと、今日の昼にコルベール先生がなにやら眼鏡をかけた女の人に熱弁を揮っているのを見かけた。

 なんか、この人は他人と思えねえんだよなぁ。


 ああそういえば、体の匂いがすごいことになってきたので、今日は風呂に入った。

 っても、ここの風呂――大理石造りのでっかいヤツは、貴族専用だそうなので入ることは出来ない。

 平民用の、掘っ立て小屋みたいな風呂サウナだった。

 焼いた石の詰まった暖炉の隣に座り、汗をダラダラ流してから、外に出て水を被る。


 正直、生粋の日本人にサウナは向かないと思った。



 体があったまった余韻の残らねえ風呂なんて風呂じゃねえよ! 絶対!







 しかたがないから今度、親父さんに相談してみようと思う。

 厨房で見かけたアレなら、満足いくもんが出来そうだしな。

 それにしても、ルーンの実験が進まない。


 剣が欲しいぞ、剣が。

 いやもう、このさい武器なら何でもいいから。

 早く試してみたいんだけど、その辺に落ちてたりはしねえよなぁ。

 さすがに。







・略。流水ラーグの日。

 今朝はちょっとばかし、マズった。

 まさか食後のワインを飲みすぎて酔っ払ったあげく、授業に出て寝ちまうとは。もったいねえ。


 でもって、どうもよっぽど妙な夢を見ていたらしい。

 いきなりルイズに叩き起こされて、「笑ってる人たちに説明して。わたしは、夜中自分のベッドから一歩も外に出ないって」なんて言われた。


 ちなみに夢の内容は全くもって覚えていないが、その後のルイズの売り言葉に俺の買い言葉で、どうも調子に乗っちまったらしい。

 何を言ったかも全くもって覚えてないんだがな。


 酔いが醒めたのは、キュルケの火蜥蜴サラマンダーが目の前に迫ってきた時だったし。

 そういやあいつ、っていうかフレイムのやつ、なんで俺に興味を持ってるんだ?


 ときどき擦り寄ってきてるんだけどさ、ここ何日か。

 とまあそういうわけで、何故か出ちまった朝の授業の中身は全く覚えてない。

 午後の授業は、ギトー教授(なんかこの人は先生っていうよりこっちの方が似合う気がする)による『風』の防御魔法、『纏い風ジャミング』の講義だった。


 実演込みの講義だったわけだが、流石に眠気が全部吹っ飛んだ。

 なんせキュルケに飛ばさせたデカい炎を、平然と受け流して自分の周囲に散バらしたのだ。

 勢いと威力ごと。


 あの先生、どんだけレベルが高いんだろうな。

 火傷一つ無かったぜ?

 で。今は夜。


 俺がいる場所は、廊下に放い出された俺のワうたば9上。


 ……ま`め、つまり。

 ノレ入ズに、部屋から追い山されますた。


 「わナこしが忍び込んだ5、困るでしょう?」だっとさ。


 今朝の二て、まだ根にもっとたみたぃね。


 厠下っ>寒むい<だね。ふるそ`ゐよれ。ちおいナる。宀











 正面のドアが、ガチャリと開いた。











 ちなみにその頃のタバサさんはというと。


 一路魔法学院へ、シルフィード便で帰還しているところだった。

 どうやら今回の任務も、無事終わったらしい。


 その腰には"地下水"シェルンノスと、今回の戦利品である、腹の所に穴の開いた小魔法人形アルヴィー『物真似人スキルニル』がぶらさがっていたりする。

 手間の掛かる貴族の少年から開放され、満足げに本を読んでいるタバサだった。



 って、いくら暗いからって"地下水"光源にしてまで本読むんじゃありません。

 おまけに文庫本だ。ちっさいよ、文字。





 しかし彼女、シルフィードの召喚才人召喚の五日ほど前から、片手で数えられるぐらいしか授業に出られていなかったりするのだが。


 一応公欠届けは出ているとはいえ、それでいいのか、魔法学院。







 
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