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ある晴れた日に

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161部分:共に生きその十一


共に生きその十一

「御前とな。俺は音楽オタクだな」
「音楽オタクね」
「オタクがほら、あれだよ」
 今度は世間によくある偏見を述べた。
「何かアニメとかゲームとか漫画とか。そういうのばっかり見てるってイメージあるよな。暗くて薄気味悪くって」
「実際そういうのも好きだけれどね」
「それでもだよ」
 そのことはまずはいいとするのだった。
「あれだろ?それでも趣味でしかないよな」
「うん」
「趣味なんて人それぞれなんだよ」
 彼は今このことを言いながら心の中で噛み締めていた。
「本当にな。それぞれなんだよ」
「だからいいっていうの?」
「そうじゃないのか?」
 そしてまた言うのである。
「俺の音楽と同じなんだからな」
「趣味だから」
「それで生き方な」
 また言った。
「生き方だからな。やっぱりな」
「そう。それだからいいんだ」
「いや、御前とこうして話すまでは俺だってオタクとかって嫌いだったぜ」
 自分で述べるのだった。以前の非を述べる告白だったがそれでも彼の言葉は澄んでいて思いきりのいいものだった。少なくともそこに迷いはなかった。
「それでもな。今はな」
「違うんだね」
「ああ。何かオタクって普通なんだな」
「何かにずっと熱中していたらね」
「だよな。生き方にまでしてな」
「何か僕自身の自己弁護にもなってるけれどね」
「ああ、それはなってねえから」
 そのことについては気にするなというのだった。
「別にな。いいからな」
「だったらいいけれどね」
「で、俺が音楽オタクで」
「うん」
 また話を続ける。
「御前がオールマイティなオタクで」
「クラスの皆もそれぞれあるみたいだね」
「はっきり言って阪神オタクの巣窟だろ、うちのクラス」
 今度は野球の話になる。しかしわかり易い話であった。
「北乃はベイスターズだけれどな」
「他にもそれぞれだけれどまあ大体は阪神だよね」
「そうだよ。阪神オタク」
 これがこのクラスの主流なのだった。どうしてもこれだけは外せないのだった。
「そうなるよな」
「まあ俗に虎キチっていうけれどね」
「阪神は特別なんだよ」
 少なくとも普通のスポーツチームではない。
「何かな、どんな勝ちでもどんな負けでもな」
「絵になるよね」
「それが不思議なんだよ」
 これが阪神なのである。
「あの縦縞のユニフォームは誰が着ても似合うしな」
「そうだよね」
「不思議なチームだよ」
 また言う正道だった。
「お家騒動は嫌だけれどな」
「けれどそれまで絵になって」
「本当にな。何かオタクになるのもな」
「わかるよね」
「あそこは特別だよ」
 また特別と言うのだった。
「巨人は無様に負けてこそ巨人だけれどな」
「そうだよね」
 これは全く以ってその通りである。巨人は負けてこそ日本国民を心から喜ばせ元気を与える存在なのだ。言うならば悪である。無様に負けるべき悪である。だからこそあえてこう言われるのである。巨人には無様な負けがよく似合うと。まさにその通りである。
「けれど阪神オタクはな」
「最高っていうんだね」
「勝っても負けてもな」
 正道はまたこのことを言う。
 
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