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熊の息子

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第二章

「ですから」
「容易にはか」
「出来ませんが」
「そう言うであろう、しかしだ」
 それでもとだ、声は熊に言うのだった。
「この地に人が必要なのは事実だ」
「そのことはですね」
「若しこの地に人がいなければ」
 声は熊にこの場合についても話した。
「自然の話が乱れてだ」
「そうしてですか」
「まず人がいなくなりそこからだ」
 人がいなくなることに止まらずにというのだ。
「他の獣達、そなた達もな」
「いられなくなりますか」
「この地からな」
「だからですか」
「そなたは身体を養いだ」
 子を養えるまでにというのだ。
「そのうえでだ」
「人の子をですね」
「育てるのだ、その子は時が来ればそなたの前に現れる」
「そしてその時から」
「その子を育てるのだ」
 こう告げてだ、そしてだった。
 声の主は姿を消した、熊は人の子を育てるなぞとても考えられなかった。これまで考えもしなかった通りに。
 それでどうしたものかと思っていた、だがその中でだ。
 熊はこれまで以上にせっせと食べていた、それで友人のイッカクが海の中から彼女に尋ねてきた。
「最近随分食べてるね」
「ええ、何かね」
「何かっていうと?」
「今度私は人間の子供を育てることになるらしいのよ」
「人間の子を?」
「そう、イヌイットの子をね」
 その様に言われたというのだ。
「声、多分凄く偉い神様にね」
「熊の神様にかい?」
「多分もっと偉い神様ね」
 熊はこう感じていた、それでイッカクにも話しあ。
「そうみたいよ」
「じゃあこの北の冷たい場所全体の神様かな」
「そうかも知れないわね。けれどね」
「あんた人間の子供を育てられるの?」
「どうかしら。けれど神様に言われたのよ。その子がいないとね」
 熊はイッカクにこのことも話した。
「この岬全体にとってよくないっていうのよ」
「そうなの」
「まず人がいなくなって」
 声に言われたことをありのまま話していく。
「そしてそこから私達もね」
「いなくなってしまうんだ」
「この場所の話が乱れて」
「そうなって」
「誰もいなくなるらしいのよ」
「それじゃあもう」
「人間の子供を育てるしかないんだね」
 イッカクはここまで聞いて頷いた、その長い一本の牙を海面から出しながら。
「そうなんだね」
「そうなるけれど」
「やっぱり種族が違うとね」
「想像も出来ないわ」
「僕だって他の鯨や海豚の子供を育てるとかはね」
「考えられないわよね」
「ちょっとね」
 こう熊に話した。
「勿論アザラシもセイウチもだよ」
「誰だってそうなるわね」
「想像もしたことがないよ」
 それこそとだ、イッカクは熊に話した。
「本当にね」
「それでもそう言われたから」
「困ってるんだね」
「そのうち私の前にその子が出て来るらしいけれど」
「その時にどうするか」
「本当に想像も出来ないわ、けれど言われたことは事実だし」
 それでと言うのだった。
「子供を育てられる位にね」
「頑張って食べてだね」
「身体を養うわ」
「凄い大変だけれど頑張ってね」
 イッカクは熊の話をここまで聞いてそのうえで彼女を友人として励ました。
「そうしてね」
「ええ、じゃあね」
 熊は友人の励ましを心から感謝して受け取った、そうして身体を養い続けていたが。
 遂にその時が来た、それはというと。 
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