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ある晴れた日に

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122部分:谷に走り山に走りその十八


谷に走り山に走りその十八

「ひょっとしてよ」
「悪質な伝染病じゃねえのか?」
「そんなのかかった記憶ねえよ」
「いや、自覚してなくてもなるからよ」
「病気ってのは」
 だからこそ怖いのである。伝染病はとりわけそうだ。
「天然痘は・・・・・・流石にねえか」
 そう見えるから怖い。そして他の病気の名前も出て来たのだった。
「・・・・・・梅毒?」
 静華が怯えるというかいぶかしむ目でぽつりと呟いた。
「まさかと思うけれど」
「俺はまだそんな経験はねえよ」
 それは全力で否定する野本だった。とはいってもまだ掻き毟りゥ付けているが。
「それでどうしてなるんだよ」
「まあそうだけれどね。今時お風呂とか輸血でなるなんてこともないし」
「お風呂って?」
 茜がそこを尋ねた。
「お風呂でそういう病気かかるの?」
「うちの兄貴が言ってたけれどそういうのかかってる人がお風呂に入ったら菌が残ってね。伝染するんだって」
「えっ、それって危ないじゃない」
「だからお風呂洗うの大事なんだって」
 静華が言うのはそういうことだった。
「それ言われたのよ」
「成程、そうだったの」
 静華のその話を聞いて頷く茜だった。
「やっぱり何でも奇麗にしないと駄目なのね」
「そういうこと。あんたやっぱり」
「だから違うって言ってんだろ」
 いい加減野本も伝染病患者扱いには切れてきた。言葉にもそれが出ている。
「大体入学の時検査受けてるだろうがよ。身体検査で」
「結果は?」
「勿論大丈夫だったよ」
 とのことである。
「そんなのねえからよ」
「じゃあただの蕁麻疹なの」
「ペストとかじゃないわよね」
「今そんな病気あんのかよ」
 流石にペストと聞いて野本も引いた。彼ですらこの病気のことは知っているのだった。
「そりゃ俺の部屋時々ゴキブリどころか鼠だって出るけれどよ」
「あんた、マジでどういう生活してるのよ」
「ちゃんとしなさいよ」
 あらためて呆れ果てる女組だった。バスに向かって歩きながら呆然となっている。
「そんな不潔でいいの?」
「お風呂入ってるの?」
「そりゃ毎日な」
 このことはしっかりとしているようである。
「シャワー浴びてるさ」
「だったらいいけれど」
「それでも鼠って。本当に一回掃除しなさいよ」
「やっぱり駄目か」
「駄目っていうか鼠やゴキブリなんて」
 明日夢は本気で彼を殺しそうな目になっていた。どうやら商売人の家の娘としてそうしたことは絶対に許せないらしい。当然であるが。
「本当に家帰ったらすぐに掃除したら?」
「ちっ、わかったよ」
 その殺人未遂の現行犯そのものの目を前にしては野本といえど頷くしかなかった。
「そうするさ。そうしたら蕁麻疹も治るかね」
「っていうか御前幾ら何でも酷過ぎるぞ」 
 正道も完全に呆れていた。言葉に出ていた。
「そこまではな」
「何だよ、御前まで言うのかよ」
「当たり前だろ。ゴキブリに鼠か」
「ああ」
「蕁麻疹にもなる」
 こう言う正道だった。顔は呆れたままだ。
「それもな」
「なるのかよ」
「清潔にすればそれだけ病気にもならないで済むぞ」
「へえ、そうだったのか」
「そうだったのかって」
「やっぱりこいつ駄目だ」
 皆納得した声を出す野本を見てまたしても呆れ果てるのだった。とにかく何をやってもいい加減としか言いようのない彼であった。
 
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