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離れ小島の怪

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第一章

               離れ小島の怪
 田中秀一と川端豊は今は田中の神託で日本の天草諸島の島の一つに来ていた。だがその島に来てだった。
 田中は川端にすぐに言った。
「妙ですね」
「そやな、島全体がな」
「田畑は実りが多く」
「果樹園にも果物が一杯実っててな」
「家畜も沢山います」
「豊かな状況やけどな」
「ですが」
 それでもとだ、田中は川端に話した。
「誰も食べていない」
「そんな風やな」
「食べもの屋も売っている店も」
「どれもな」
「お客さんがいませんね」
「何処も開店休業や」
「何かあるとしかです」
「思えんな」
「はい、では」
「ちょっと聞こうか」
 この事態についてとだ、二人で話してだった。
 二人共丁度傍にあったうどん屋に入った、店も開いていたが客は一人もいなかった。それでだった。
 田中は店の親父、蛇人の中年の男に怪訝な顔で尋ねた。
「あの、この島は」
「食いものをだな」
「誰も召し上がっていませんが」
「おかしいやろ」
 このこと自体がとだ、川端も親父に問うた。
「皆米も麦も野菜も果物も食わへんねん」
「家畜もです」
 それこそと言うのだった、田中も。
「召し上がられない理由は」
「実はこの一週間な」
「一週間ですか」
「はい、私達が食べようとすると」
 その時にというのだ。
「これが家の中でもお店の中でもです」
「このお店の中でも」
「食べようとすると」
 その時にというのだ。
「突然鼠の大群が何処からともなく出て来て」
「食べものをですか」
「食べ尽くしまして」
 それでというのだ。
「私共はです」
「食べられないですか」
「そうなのです」
「そうですか、それで」
「この一週間です」
「誰もですか」
「何も食べられず水とかを飲んで」
 そうしてというのだ。
「何とか生きています」
「そうですか、ですが」
「水やそういうものだけではですね」
「やがてです」
 食べねばならないとだ、田中は親父に話した。
「ほんまに」
「ですが鼠が出て来るので」
 それでとだ、親父は田中に力のない声で答えた。どうしてそうした声なのかは一週間食べていないことが理由であるのは明白だった。
「何処からともなく」
「それで食べられず」
「困っています」
「ほな」
 それならとだ、田中は親父に意を決した顔で答えた。
「僕がその鼠達をです」
「何とかしてくれますか」
「わいもおるで」
 田中も名乗り出た。
「そやからな」
「鼠達のことは」
「絶対に何とかします」
 田中は再び答えた。 
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