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徒然草

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26部分:二十六.風も吹き


二十六.風も吹き

二十六.風も吹き
 まだ風も吹ききっていないというのに。恋の花びらがひらひらと散っていく。馴染み深い懐かしい昔の月日を思い出せばかつて胸を高鳴らせながら聞いていた一つ一つの言葉も今では忘れられないものになっている。さよならだけが人生だけれど。それでも生き別れというものは死に別れよりなおも寂しいものだ。
 そんな寂しいことを考えながら白い糸が古くなって黄ばんでいってしまうのを見ては悲しい思いをして、一本道を見ればその道がいずれ別れてしまうことを思い悩んだ人を思い出してもみつ。堀川帝に歌人達がそれぞれ百首ずつ詠進した和歌の一つにこんな歌があった。

昔見し 妹が墻根は 荒れにけり つばなまじりの 菫のみして

 この歌ですが好きであった人を思い出し荒れ果てた景色を眺めながら放心してしまうとはまことに身につまされます。寂しい気持ちがなおも強く深くなっていく、そのことにまた寂しさを募らせていってしまいます。
散っていく花びらも黄色くなっていく糸も見ていて実に悲しく寂しいものです。昔愛していた人もまた変わっていくし美しかった景色も荒れ果てていく。栄華も昔のことになっていく。そのことはわかってはいるつもりですが目に見えているとそれが悲しみに変わっていく。悲しんでもそれは仕方のないことでありますけれど。どうしても悲しんでしまうのもまた人というものであります。何もかもが変わっていくことに対して寂しさと悲しさを感じるのもまた。人だからこそなのです。


風も吹き   完


               2009・5・12
 
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