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ムーサー

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第一章

               ムーサー
 ムーサーはこの時激怒した、彼にとってはそうせずを得なかったからだ。
 この時ユダヤの者達はフィルアウン、エジプトを治める王の下で奴隷となっていた。それは彼も同じだった。
 だが口下手ながら誠実な彼は人々から慕われていた。大柄で筋肉質である彼は力持ちでも知られていた。
 その彼が宮尾kでエジプト人とユダヤ人の喧嘩にばったり出会ったのだ。するとユダヤ人はムーサ―の姿を認めるとすぐに彼に頼み込んだ。
「ムーサーさん、お願いです」
「喧嘩の助太刀にか」
「はい、このエジプト人から言いがかりをつけてきて」
 そうしてというのだ。
「棒でしこたま殴りつけてきます」
「奴隷が偉そうにするな」
 そのエジプト人が言ってきた、如何にも傲慢そうな男だ。
「だから懲らしめてやっているのだ」
「懲らしめるだと?」
 ムーサーはエジプト人のその言葉にカチンときた。
「それはまた酷い言葉だな」
「酷いも何も御前達は奴隷だろうが」
「奴隷でも人間だ、しかもあんたは彼の主か」
「違う、だがそれがどうした」
 エジプト人はムーサーに言い返した。
「御前達は奴隷なんだぞ」
「奴隷なら何をしてもいいのか」
「身分を考えろ」
「人はアッラーの下に等しいのだ」
 ムーサーはコーランを出して反論した。
「ならばだ」
「ふん、コーランが何だ」
 これがエジプト人の運の尽きだった、もともと口下手で言うのに苦労していたムーサーだがその苦労のところにコーランを軽く言われてだった。
 かっとなって男を殴り飛ばした、男は遥か彼方に吹き飛ばされナイル川に放り込まれてしまった。そしてだった。
 ここでムーサーは我に返って言った。
「これはまずいぞ」
「死んでません?あのエジプト人」
 助けてもらったユダヤ人も仰天していた。
「助けてもらって嬉しいですが」
「むっ、生きている」 
 ナイル川の方を見れば男は泳いでいた、そうして何とか岸辺に向かっている。
「案外丈夫な奴だ」
「それはいいですが」
「エジプト人を殴り飛ばしたからには」
「罪に問われるな」
「はい、そうなりますよ」
「わしは罪に問われるつもりはない」
 決してとだ、ムーサーは同胞に話した。
「問われる位なら戦う」
「それは余計にまずいですよ、多勢に無勢です」
 幾らムーサーが強力の持ち主でもというのだ。
「捕まって余計に重い罪に問われますよ」
「下手をすれば死罪か」
「そうなります、ここは逃げましょう」
「そうだな」
 ムーサーは同胞の言葉に頷いた、そうして彼は同胞と共にすぐに都を後にした。案の定殴り飛ばされナイル川に叩き込まれたエジプト人は激怒してユダヤ人嫌いの宰相に言って軍隊を出してもらったがその頃にはもうムーサーは都を後にしていた。
 ムーサーは同胞と共にエジプトを出た、そのうえでマドヤンという荒野の水場に出た。そこで彼は羊の群れに水をやっていた娘を見て同胞に言った。
「あの娘達を助けよう」
「羊達は多いですしね」
「二人だけでは大変だ」
 だからだというのだ。
「ここはそうしよう」
「それがいいですね」
「困っている者、大変な者を助ける」
「例え相手が誰であっても」
「ムスリムはそうでないとな」
「その通りですね」
 同胞も頷いてだった、そのうえで。
 二人で娘達を助けた、すると娘達は二人に仕事の後でお礼を言ってだった。そうしてこう言うのだった。 
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