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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔12

シエスタの故郷、タルブの村に着き、宝物を見に行ったサイトは、目の前にあるものを見て何と言っていいか分からなかった。
昔、落ち目だった飛行機博物館を復興するため、ということで視察に行く村上に同行したときに見たことあったなぁ。などと考えながら、目の前にある『竜の羽衣』を調べ始めた。触れた瞬間に左手のルーンが輝き、『竜の羽衣』に関する情報が脳に刻まれる。

(まぁ、これも武器だな…)

キュルケたちも興味を示し、見入っていたが、やがて今回も外れだったとため息を漏らした。

「まったく、こんなものが飛ぶわけないじゃないの」

「これはカヌーかなにかだろう? それに鳥のおもちゃのように、こんな羽をくっつけたインチさ。大体、あの翼を見たまえ、どう見たって羽ばたけそうにないじゃないか」

キュルケの言葉にギーシュは頷き、もう、興味がなくなったらしく、タバサも読書を始めてしまった。

「シエスタ」

「は、はい!」

サイトに真剣な目で見つめられ、シエスタは思わず姿勢を正した。

「これ以外におまえの曽祖父が残したものってあるか?」

「えっと、あとは…お墓と遺品が少し…」

「見せてくれ」


――――――――――――――――――――――――


シエスタの曽祖父の墓は、村の共同墓地の一角に合った。他とは趣を異もしており、すぐに見つかった。

「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくって。なんて書いてあるんでしょうね」

「怪軍少尉佐々木武雄、異国ニ眠ル……“怪”軍?」
(“海”と“怪”を間違えた? いや、ありえないだろ…じゃあ、なんでだ?)

「はい?」

すらすらとサイトが読み上げたので、シエスタは目を丸くした。
それから、サイトは、シエスタを見つめた。シエスタは思わず頬を染める。

「その髪と瞳、曽祖父に似ているって言われてないか?」

「え? どうしてそれを?」

シエスタが驚きの声を上げた。

「なんとなくだ。で、遺品は?」

「あ、はい。ひいおじいちゃんの日記があったので、持ってきました」

そう言って差し出された古そうな書を受け取り、破けないよう細心の注意を払って開いた。

―――×月×日
この異国での生活に慣れ、ようやく落ち着いたため、お国に帰れたときのため、日々をここに書す。
我々、怪人異形部隊、通称怪軍の任務、ゼロ戦にて神風作戦に出撃する。我は二度目の出撃だったが、突如、不思議な光が我を包み、気がつくとこの異国の地のにいた。―――

(……怪人異形部隊? …オルフェノクによる特殊部隊があったってことか?)
「シエスタ? おまえの曽祖父と直接かかわりを持った人で生きている人、誰かいないか?」

「え~っと…うちのおじいちゃんは、今遠くに出かけてていないから……あ、おばあさんなら、知っていると思います。何せ、村一番の長寿ですから」

「案内してくれ」


――――――――――――――――――――――――


疲れたということで、ギーシュは一足先に本日の宿であるシエスタの家に行ってしまったため、サイトたちはシエスタの案内で、老婆の家を訪ねた。

「タケオさんのことぉ?」

「そうだ。その人だが、死体がなかったんじゃないか?」

幼い曾孫の相手をしていた老婆に、時間を取ってもらい、話を聞くことができた。
サイトの質問に老婆は目を見開いた。

「ええ、ええ、タケオさんは突然いなくなってしまって。みんなで探し回って部屋の中に遺書を見つけたの。あのころ、読み書きができたのは、タケオさんだけで、貴族様にお願いして読んでいただいたから、よく覚えているわぁ」

「……」

「そうそう、そういえば、タケオさんが現れてから、豚のバケモノが現れだしてねぇ。最初はみんな、怯えていたんだけど、そのバケモノ、みんなを助けてくれて、最後には神さまの使いじゃないかって崇められていたんだけど、タケオさんがいなくなると一緒にいなくなってしまったの。もしかしたら、タケオさんが神さまの使いだったかもしれないねぇ」

懐かしそうに語る老婆に礼をいい、その家を出た。


―――――――――――――――――――――――――


サイトは、寺院で『竜の羽衣』を見上げていた。

「ダーリン、なんでこの娘のひいおじいさんの、遺体がないって分かったの?」

「俺と、同じだからだ」

「うちのひいおじいちゃんが、サイトさんと同じ?」

質問の答えがよく分からないらしく、シエスタは首をかしげた。
サイトは、薄く笑みを浮かべてから、ミズチオルフェノクへと変化した。

「おまえの曽祖父、俺と同じオルフェノクだったみたいだな。なるほど、シエスタから俺と似た気配を感じるわけだ」
(祖先返りというヤツか)

ミズチオルフェノクの姿にシエスタは目を見開いた。

「怖いか?」

「い、いえ! 夜にたまに見かけていましたし、明るいところで見るのが初めてで、驚いただけです」

シエスタは首がもげるんじゃないかというくらい首を横に振った。

「質問の答えになってない」

じっとタバサは、ウソを見逃さないように話を濁されないようにサイトを見ていた。

「ん?」

「なんで、オルフェノクだと遺体がないの?」

「……俺たちオルフェノクは、死ぬと灰になる。骨なんて一つも残らないただの灰にな。
まぁ、急激な進化の代償だ」
(もう一つ、寿命って対価も払っているんだが…これは言わないほうがよさそうだな)

自嘲気味にサイトは笑った。
その姿は、普段の何があっても揺るがない強者の姿ではなく、どこか、寂しげに見えた。
そして、女の直感なのだろうか、サイトがウソをついていないけどウソをついている、そう三人は感じた。

「サイトさん!」

「どうした?」

シエスタは、思わず大きな声を上げ、サイトの手を取った。少し恥ずかしかったが、そうしなければサイトがいなくなってしまいそうに思えた。

「父が言っていたんですけど、遺言があるそうです」

「遺言?」

「はい。遺言って言っても、死ぬ間際に言ったんじゃなくて、ひいおじいちゃんに毎日のように言っていたのをおじいちゃんから父が受け継いだらしいんですけどね。
あの墓石の銘を読めるものがあらわれたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにって」

「いいのか? 形見だろ?」

「管理も面倒だし、大きいし、拝んでいる人がいるみたいだけど、今じゃ村のお荷物だそうです」

サイトはもう一度、『竜の羽衣』を見上げた。

「このゼロ戦、ありがたく、頂戴する」

「ぜろせん? 何それ?」

「こいつの本当の名前だ」

そう言ってから、サイトは再び手元にある日記を開き、ペラペラと破けないよう細心の注意をはらいつつ、凄い速さでめくっていく。そして、ある部分で手が止まった。

―――×月×日
我が生きている間にこの異国の地から脱することができないかもしれない。そう思うと不安を覚える。
我が力にて、仲間を増やそうとするも、この異人たちには怪の力に耐える力があるらしく、平民、そして貴族、どちらにも効果がなかった。

(…確かに、ウェールズはオルフェノクのエネルギーを受け付けなかった……だが、何故だ?)


――――――――――――――――――――――


キュルケはサイトを見て、あることに気がついた。あまりに自然であるため、気づくものはそうそういないであろうことだが、彼に興味を持ち、ずっと見ていたキュルケだから気がついた。
今、目の前でタルブの村の人々から歓迎されているが、サイトは相手が近づく気配をみせると、さり気なくとても自然な動作でその相手から距離をとる。そのため、注意深く見ていなければ、気づけない。実際、気がついているのは、キュルケだけのようだ。
サイトには壁がある。
特定の人間を絶対に入れることのない壁。その特定の人間が近づくと、サイトはとてもさり気なく離れる。その動きはとても自然で、とても慣れた動きだった。
その壁を超えることの許される人間がいる。
その人間にも、近づくことのできる距離がある。キュルケから見て一番近くまで近づけているのは、タバサだ。おしらく、自分とシエスタはその次くらいだろうか? ルイズは壁の中に入れてはいるようだが、自分ほど彼に近づけてはいないようだ。
そう、キュルケは考えているが、一つ間違いがある。タバサとシエスタには同族意識を持っており、人間としてみていない。つまり、実は、キュルケは人間で一番、サイトの近くにいるのだった。


―――――――――――――――――――――――――


ミズチオルフェノクが、ゼロ戦を水で下から持ち上げて学院に戻ってきた。
終始ミズチオルフェノクと一緒に飛ぶことができてシルフィードがご機嫌だった。
学院につくと、早々にキュルケやタバサ、ギーシュは先生に捕まり、現在説教を受けている。
使い魔であるサイトは一切お咎めなしだ。
シエスタは、一週間早い休暇に入ったため、タルブの村においてきた。

「サイトくん! これは一体何かね!?」

「丁度いいところにきたな、コルベール。手伝え」

「いいとも、いいとも!! で、私は何をすればいいのかね!?」

学院まで運んだゼロ戦に損傷がないか調べていたサイトのもとに鼻息を荒くしたコルベールがやってきた。
そのコルベールにこれが空を飛ぶことのできるものだと教えると、子どものように目を輝かせた。

「ガソリンが必要なんだ」

「ガソリン? なんだね、それは」

「ガソリンっていうのは……」

「なるほど、それがあれば、このひこうきは飛ぶということか。
ヨシ! そのガソリンの製作は任された!!」

サイトからガソリンについての説明を受けたコルベールは、そういうと自分の研究室に飛んでいった。

「さてと…」

サイトは、コップに入れてきた水をほんのわずかにある隙間に流し込んだ。外装を外して中を調べるのが面倒なため、水で中の状態の確認を行う。水に触れればアウトな部分もあるため、より精密操作が必要になるので、オルフェノクになる。
中を調べつつ、操縦桿を握ったり、スイッチに触れる。ガンダールヴのルーンが光り、情報を与えてくれる。

「内外ともに異常なし」

そういって人間体に戻ったサイトは、ゼロ戦から降りた。

「問題はこいつか」

そう言って弾倉から、弾を一つ取り出した。
この世界で、機関銃の弾を手に入れることは不可能だ。となると、残る入手法は、

「作るしかないか」

となる。

「なにをつくるの?」

「ん? 弾」

「ふぅ~ん、それってご主人様に戻ってきたことを報告するよりも大事なことなの?」

「さぁ?」

背後からかけられたとげとげしい声に振り返ることなく応える。

「……」

「……」

「これなんなの?」

「飛行機」

「ひこうき? なにそれ?」

「空を飛ぶ乗り物」

「あんた自分で飛べるじゃない」

「自分で飛ぶと疲れるんだよ」

こちらを見ないサイトに痺れを切らして、ルイズは無理やり振り向かせた。

「…戻ってきた報告は?」

「ただいま」

「おかえり」

上機嫌に返したルイズを見てため息をついてからサイトは呟いた。

「で、ミコトノリはできたのか?」

「ッウ……えっと…ほら、私、あんたがいなくなってから体調崩しちゃって……そういう大事なことは、健康を取り戻してからぁ……」

「つまり、適当な理由をつけて、まだ、できてないんだな?」

「それは…その…」

「ったく…」


――――――――――――――――――――――――――


「サイト君」

「ん?」

ガソリンの試作品が完成し、エンジンのテストも成功したため、後はガソリンを必要な量を作るだけとなり、それと平行して弾を作るため、研究室で作業をしているサイトを、コルベールはじっと見据えて声を出した。

「君はあの『竜の羽衣』をどうするつもりかね?」

「アシだな。自力で飛ぶと疲れるし、あとは武器かな」

「君は、これを人殺しの道具にするのか?」

「もともと、そのための道具だし」

水を操作したり、研究室に置いてあった道具を使って火薬の量やサイズなどをきめ細かく書き出しつつ、サイトは答えた

「君はそれについてなんとも思わないのか?」

「いい加減、何が言いたいのか、はっきりしてくれ」

「人を殺すことに何の罪悪感を覚えないのか?」

「…今更だな」

「今更?」

「俺のいた世界じゃ人間は一万人もいないんだ」

「……」

「人類オルフェノク化計画ってプロジェクトがスタートしてな。俺はその最前線にいた。
前にも話しただろ? オルフェノクは、人間をオルフェノクに変える力があるって。オルフェノクになれる人間っていうのは、結構少ない。オルフェノクへと変化させるエネルギーに耐えきれず、死んだ人間が何人いたかなんておぼえてない。
それに、打倒オルフェノクに燃えるレジスタンスになった人間の抹殺も命じられていたからな」

「君は…」

「だから今更だ。知らない人間を殺したところで、なんとも思わない」

そういうと書き出した紙を手に、サイトは立ち上がり、最後に「できたら呼んでくれ」と言って、出ていった。

「知らない人間?」

サイトの言葉の中にあったその一言がコルベールは気になった。
その数日後、ラ・ロシェールにてアルビオンの策にはまり、トリステインは一方的な宣戦布告と侵略を受けることになる。
そして、その戦の火はシエスタの住むタルブの村にまで飛び火するのだった。 
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