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オルフェノクの使い魔

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オルフェノクの使い魔4

笑いながら自分を殴り蹴りする人間たち…
必死に裏路地から表通りに逃げ、助けを求めても、その手を取ろうとせず、冷ややかに離れて見ていただけの人間たち…
店先に倒れていた瀕死の自分をゴミのように裏路地に放り捨てた人間…
怖い…恐い…こわい…コワイ……

「ッ!!」

「起きましたか。うなされていましたよ。それと社長室のソファーでねるのは止めていただけますか?」

「ッ!?ッ!?!」

「また、人間恐怖症の症状が出ていたみたいですね」

嘔吐する様子がないことから今回は軽いもののようだ。そういえば、この間、大事な会議で使う書類にやってくれたなぁ、などと思い出しつつ、頭をおさえてもがくサイトを村上は眺めていた。

“人間恐怖症”…オルフェノクの中でも、オリジナルオルフェノクだけがかかることのある心の病、人間に殺されたことが原因で自分たちのほうが圧倒的に強い力を持っているにも関わらず、人間に対して恐怖心を抱いてしまうのだ。
症状は人それぞれであり、幻覚、幻聴、吐き気、頭痛など、さまざまである。
サイトは軽度であるため、特定の人間にしかその発作は起こらない。

(まったく、本当はとてもいい子だというのに、あんな傲慢なフリをして人を遠ざけて…まぁ、信じられる相手だと優しいのですが。
なるほど、これが噂のツンデレですか、いや、彼は心を病んでいるわけだからヤンデレ?)


******************


「常に最悪に備えよ」

サイトがフーケに向かってカイザドギアを投げた。フーケの視線がカイザギアに集中した瞬間、サイトの顔に灰色の模様が浮かび上がり、続いて光と共にサイトの姿が変化した。細い身体、古い中国の鎧をまとい、その上からマントを羽織り、胸の前で金具のようなもので止めている。頭は龍の仮面を被っているミズチオルフェノクとなった。
ミズチオルフェノクの影がサイトに変化し、その影がしゃべる。

「そして、自分が有利だからと言って過信するな」

ミズチオルフェノクはいつの間にか手にしたトライデントで三人を拘束していた土を吹き飛ばす。自由になった三人をウィンドラゴンが素早く確保し、フーケの手の届かない空へと逃げる。

「これで人質はなしになったな。さぁ、パーティの第二幕だ」

「ッ!!」

悠然と迫るミズチオルフェノクにフーケの顔が引きつり、自分の抱くように腕を動かしたとき、『呪われし衣』が手の中にあることを思い出した。
サイトがさっきやったように腰に装着し、カイザフォンを外す。そして、高らかと叫んだ。

「変身!」

カイザフォンをカイザドライバーにセットしたが、何も起こらない。当然だ。スタートアップコードを打ち込んでいないのだから。フーケがそれに気づけなかったのはサイトの鋭利な感覚が、監視の目に気づき、スタートアップコードを打ち込むときだけ隠していたのだ。
姿が変わらないことに焦る。顔を真っ青にしてゆっくりと近づいてくるミズチオルフェノクへ自慢のゴーレムをぶつける。
ミズチオルフェノクはトライデントを地面に突き刺した。すると、次の瞬間、大量の水が噴出す。

(ん? なんだ? これだけ自然の広がっているのに、地下水を引っ張り出すのに木の根以外の遮蔽物があった? でも、結構簡単に引くことができた…どうなっているんだ?)

その水が意志を持ったかのようにゴーレムを粉砕する。

「こんなのがパーティの第二幕じゃ、興醒めだぞ」
(殺しちゃだめなんだよな)

ミズチオルフェノクのマントの金具外れ、ばさりと広がる。それは翼だった。続いて龍の仮面が吼え、首が伸びる。五本あった指は鋭い三本に代わり、足も鋭い爪が生える。
オリジナルオルフェノクのみが許された第二の形態、飛龍形態へと変化したのだ。

「さぁ、もっと楽しませろ。さぁ!」

「あ、ああ…」

フーケは呆然と尻餅をついた。目の前にいるのは紛れもなく龍。サイトは知らないことだが、この世界ではしゃべる龍は韻龍と呼ばれ、その高い能力から恐れられていたドラゴンの中でも最強の種族なのである。
それが、目の前にいる。彼女は、恐怖で身動きが取れなくなっていた。

「抵抗しないのか? なら、パーティの幕を閉じよう。その紅き血を持って」

ミズチオルフェノクが牙を剥き出しにしてゆっくりとフーケに近づいていく。

「……ッ!!」

ついにフーケは恐怖に絶えかね、意識を手放した。アンモニア臭が広がる。どうやら気絶すると同時に失禁したらしい。

「気絶して逃げたか」

ミズチオルフェノクは光を放ちサイトへと戻った。
サイトがもとの姿にもどると、ウィンドラゴンが降りてきた。ウィンドラゴンの背に乗っている三人はサイトを警戒している。

「説明は後で必ずする。とりあえず、コレ持って帰るぞ」

三人は何かをいいたげだったが、サイトの言うことに大人しく従った。
フーケを馬車に乗せ、学院へと戻る。帰りの御者はこの中で最も馬の扱いに長けたルイズが担当した。
行きとは逆に誰も、話そうとしない。


――――――――――――――――――――――――――――


「フム……ミス・ロングビルが土くれのフーケだったとは…」

「そんなことはどうでもいい。それよりもききたいことがある」

近衛士にフーケを引き渡した後、学院長室でオスマンに報告を終え、サイトが一歩前に出た。

「そんなことよりも…」

「分かっている。今、一緒に話す」

なかなか話してくれないサイトに痺れを切らしたルイズが声をかけるが、サイトは見向きもしない。

「訊きたいこと?」

「何故、ここにこれが、カイザギアがここにある?」

「ほぉ、これはカイザギアというのかね」

「で、何故だ?」

さらに一歩踏み出し、眼光を強める。

「これは、ワシの家に代々受け継がれてきた家宝じゃ。もともと貧乏貴族で領地らしい領地も持っておらんかったから、ワシがこの学院の学院長に任命されたとき、屋敷を引き払ってここに持ってきたのじゃ」

「…代、々?」

「ウム。ワシはこれが何なのか、わからんかったが、代々『人超えし者のみに許されし衣、人身につければ呪い殺される』と言い伝えられてきた。名前はつたわっとらんかったから、ワシが勝手に『呪われし衣』と名づけ、宝物庫に封印したのじゃ」

サイトはオスマンをじっと見る。その瞳に嘘はないようだ。

「して、君はさっきの話から推測するに『人超えし者』のようだが?」

「ああ、俺は人間じゃない。オルフェノク…人間の進化体だ」
(進化の代償に短命なんじゃ進化したといえるかどうか怪しいけどな)

「人間の進化体?」

「一度死ぬことで人間という殻を破り捨ててなることの出来る存在だ。しかし、誰もが絶対になれるわけじゃない。かなりの低確率でなれる。俺は偶然当たりだったみたいだ。
オルフェノクは己の心の奥底に眠る本能と言う名の生物を外面に具現化させている…なんて説いた学者もいたらしいけど、本当のところ、ほとんど分かっちゃいない。
とりあえず、オルフェノクは大きく分けて二つ。オリジナルとセカンドがある。オリジナルはさっき言ったように死ぬことでオルフェノクとして覚醒した者のことを言う。セカンドとは、オルフェノクに力を注ぎ込まれて覚醒した者を言う。能力としては圧倒的にオリジナルのほうが強いな」

一瞬だけミズチオルフェノクになり、すぐにサイトへと戻ってみせた。

「…あなたは?」

「俺か? 俺はオリジナルだ」

学院長室にいやな沈黙が流れた。サイトは世間話をするようにいっていたが、つまり、死んだことがあると言うことである。

「死因を聞いてもいいかね?」

今まで黙っていたコルベールが身を乗り出した。研究者としての血が騒いだのかも知れない。

「俺が、スラムのトップをやっていた女のお気に入りになったのが、気に入らないって連中にリンチされた」

学院長室の空気がさらに重くなった。

「…さて、君たちの、シュヴァリエの爵位申請を、宮廷に出しておいた。ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

「ほんとうですか!?」

重たい空気に耐えかね、オスマンは明るい話題を振り、キュルケがそれにくいつく。

「ほんとじゃ。君たちはそれくらいのことをしたのじゃから」

ルイズも嬉しそうにしていたが、サイトの姿が目に入ったとき、さっきの話を思い出し、嬉しさよりもサイトのことが気にかかった。

「……オールド・オスマン。サイトには、何もないんですか?」

「残念ながら、彼は貴族ではないからのぉ。そうじゃなぁ、ワシ個人から何かご褒美をやろう」

サイトは少し考えてから机の上に置かれたままのカイザギアを見つめた。

「これを、俺が使いたいときにいつでも使えるようにして欲しいっていうのは?」

「フム、いいじゃろ」

「オールド・オスマン! そんなに簡単にOK出していいんですか? 仮しも宝物庫に入れていた大事な代物なのですぞ」

二つ返事でOKを出したオスマンにコルベールが声をあげる。

「しかし、これを扱うことが出来るのは彼だけじゃよ。しまっているだけじゃ、本当に宝の持ち腐れじゃよ。
さてと、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『呪われし衣』も戻ってきたし、予定どおり執り行う。今日の主役は君たちじゃ。しっかりと着飾ってくるのじゃぞ!」

オスマンに礼をするとサイト以外の三人がドアに向かう。ルイズがサイトのほうを向くと彼は「先に行っていろ」と言った。
少女三人が出て行き、男三人だけが残った。

「なにか、まだ用かね?」

「おまえたちは、まだ何か俺に関することで話していないことがある」

「…それもオルフェノクとやらの能力かね?」

「いや、俺のカンだ。予想としてはこれのことか?」

そう言って左手の甲にある使い魔のルーンをオスマンに向けた。

「カイザに変身したとき、それからオルフェノクへ変化したとき、感じたことがないほど身体が軽くなった。そんな感覚一度もなかった、これが付く前まではな。普通に考えれば、これに何かあると思うだろう」

「ほぉ、頭まで切れるとは、恐れ入る。そのルーンはそこにいるコルベールくんの調査の結果、ガンダールヴの印らしい」

「ガンダールヴ?」

「ウム、伝説の使い魔の名じゃ。ガンダールヴはありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ」

「なるほど…その伝説の力がカイザに変身したときや、トライデントを使ったとき、俺にブーストをかけたわけか」

「そのようじゃな。まだ、何か聞きたいことがあれば遠慮せずにここへくるといい」

「わかった」

サイトが部屋を出て行き、年長者たちが残った。

「コルベールくん、君はどう思う?」

「どう、と言われますと?」

「彼じゃよ。オルフェノクと名乗とった」

「私は宮廷に報告すべきだと…」

「バカモン!! そのあと彼を実験動物にでもする気かね!?」

「失礼しました。しかし…」

「伝説の使い魔、ガンダールヴのルーンを持ち、その能力がなくとも強い力を持ったオルフェノクの少年。とりあえず、彼のことは我々だけの秘密にするとして、彼はハーフドラゴンの末裔ということにしよう」

「ハーフドラゴン? あの人と龍の間に生まれたといわれる種族ですか?」

「ウム、すでにその血筋は途絶えたといわれておるが、オルフェノクなどという未知の存在よりは現実味がある。下手に騒がれたとしてもすぐに沈静化できよう」

「わかりました…」


―――――――――――――――――――――――――


食堂の上の階にある大きなホールで舞踏会が行われていた。
キュルケが買ってきたブランド物の服を着たサイトは、バルコニーの枠にもたれ、華やかな会場を眺めていた。
SWAT隊の総隊長をやっていたとき、村上に連れられてこういった舞踏会へ無理やり参加させられたとこがあった。

(あのときは、完全に峡児のおもちゃだったよなぁ…「これが私の自慢の息子です」とか言いやがって…
なんか思い出したら、ムカついてきた)

サイトのそばの枠には、シエスタが持ってきた肉料理の皿と、ワインの壜がのっていた。つい先程まではサイトのグラスにかいがいしくお酌していたが、仲間のメイドに呼ばれ、今はホールの中で忙しそうに働いている。

(……変身、できたんだよな…)

ふと外の空を見る。ライダーへ変身するにはスタートアップコードを入力してセットするだけではダメだ。その後、スマートブレイン製人工衛星イーグルサットから電子レベルまで分解されたスーツを電送してもらわなければならない。
つまり、この空にもその人工衛星がいるのだ。

(何故、この世界にベルトがある? しかも、あのジジィ曰くかなり昔から…それに人工衛星が何故ある? 二号機があるなんて話聞いたことないぞ)

何の情報もない今、あれこれ考えても仕方ないと、頭をパーティの方へ移した。
パーティが始まる前に踊る約束を一方的にしてきた、きわどく派手なドレスを着たキュルケはたくさんの男に囲まれ、笑っている。できれば、約束を忘れていてくれると助かるんだが、とサイトは思った。
黒いパーティドレスをきたタバサは、一生懸命にテーブルで魚の骨と格闘していたため、適当にとってやってから、魚料理を盛った皿を抱えて自分のところへやってくるようになった。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~~~!」

主役がそろったことを確認した楽士たちが音楽を奏で始めた。それにあわせて貴族たちが踊り始める。
ルイズの周りには、今までからかってきたノーマークの少女の美貌に気づき、男たちが唾をつけておこうと集まる。が、ルイズは誰の誘いを断り、バルコニーに佇むサイトに気づき、近寄ってきた。サイトがキュルケの買った服を着ていることに眉をひそめたが、すぐもとにもどし、話し掛ける。

「どうかしら?」

「馬子にも衣装」

「なによそれ!」

即答されて不機嫌そうに顔をしかめたが、すぐに気を取り直してサイトの隣りに立った。

「主役がこんなところにいていいのか?」

「だって、踊る相手がいないんだからしかたないでしょ」

「誘われていたじゃないか」

嫌な感じのする人間はいないが、それでも人間と一緒にいるということがストレスになるため、そろそろ引き上げようと考えていたサイトにルイズは手を差し伸べた。

「踊ってあげても、よくってよ」

「……」

黙ってサイトは数秒その手を眺めていたが、そっとその手に手を添えた。

「一曲だけだぞ」

「当たり前でしょ」

「……一曲踊っていただけませんか? レディ」

「よろしくってよ」

サイトは村上に叩き込まれたダンスを思い出しながら、ルイズの手を引き、ホールへと向かった。

(何故だ? こいつらといると怖くない。嫌な感じもおさまる) 
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