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徒然草

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106部分:百六.高野証空上人


百六.高野証空上人

                  百六.高野証空上人
 高野山の証空上人が京の都に上られる時に小道で馬に乗った女の人とすれ違いました。女の人が乗っている馬を引く男の人が手元を狂わせて上人の乗っている馬を小道の横にあった溝にやってしまいました。
 上人はこのことにかなり怒ってしまいこの乱暴者が、仏の弟子には四つの位があるものだ、出家した尼は出家した男の僧よりも劣り在家信者の男はその尼にも劣っている、在家信者の女に至ってはそれ以下だ。貴様の様な在家信者の女ごときが高僧である自分を溝に蹴落とすとは万死に値すると言いましたのでそうした位のことには全く興味のない馬引きの男は何を言っているのかさっぱりわからないと呟きました。上人は男の人のその言葉をさらに逆上してしまい何を言うのか、この愚か者がと沸点に達してしまいましたがそこでようやく罵倒が過ぎたと我に返ってしまいその恥ずかしさに馬を引き返してそこから逃げてしまいました。
 こんな口論は滅多に見られるものではありません。こうしたことをしているとどうにも困ったことになってしまいます。上人は怒ってからやっとそのことに気付きました。しかし本当に高僧ならば最初の溝に落ちたところで思い止まってもらいたいものです。怒ってしまっては本当に何にもなりません。この人も怒ってからそのことに気付いたのでしょうが。それを思うと残念であります。後悔先に立たずと言います。過ぎてしまったことはもう戻ることはありません。だからこそ普段から己の心を律していきたいものであります。


高野証空上人   完


                   2009・8・28
 
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