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許されない罪、救われる心

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86部分:第八話 生徒集会その二


第八話 生徒集会その二

「だから朝遅いの」
「だったらいいけれどね」
 母は娘のその言葉に一応は納得した。
「部活では何もないわよね」
「だから何もないわよ」
 今度も事実を隠したのだった。
「別に何も」
「だといいけれど。それじゃあね」
「食べたらすぐに行くね」
 部活に行くと話したのだった。
「それじゃあね」
「部活もいいけれどな」
 何も知らない父は娘の言うことを完全に信じて話した。
「それでもな」
「それでも?」
「身支度はきちんとするようにな」
 こう言うだけだった。まさか勘付かれたのかと内心びくりとなった如月だが今の父の言葉にだ。心の中で胸を撫で下ろしたのだった。
「それはな」
「うん、そうね」
 如月は微笑みを作って父のその言葉に頷いた。
「じゃあ歯を磨いて顔も洗ってね」
「それは絶対に忘れたら駄目よ」
 母もこのことはよく言ってきた。
「女の子なんだし」
「わかってるわ、お母さん」
「それは忘れないでね。それじゃあね」
「うん、行って来ます」
 こう話してだ。作り笑顔で家を出る。しかし家を出ればだ。すぐに沈みきった顔になった。その重い足取りで学校に向かう。バスに乗るともうそこからだ。地獄がはじまるのだった。
「また乗ってるよ」
「まだ学校来るのね」
「本当に図太い奴だな」
「そうよね」
 こうだ。彼女の学校の生徒達があえて彼女に聞こえるようにして陰口を言う。それはそのまま矢となって彼女に突き刺さる。
 そしてだ。矢は次から次に突き刺さる。
 他の学校の生徒達もだ。岩清水の喧伝から話を知った彼等もまた彼女を見てだ。そうしてそのうえで聞こえるようにして言ってきた。
「あいつがねえ」
「あの最低女の一人か」
「平気な顔してよく外歩けるよ」
「どんな人間なのかしら」
 そんな声と冷たい視線を浴びながら学校に向かう。四人一緒になるがそれでもだ。学校の中に入ると視線はさらに冷たいものになった。声もだ。 
 ラクロス部の前を通ってもだ。練習する彼女達は無視するか聞こえるように陰口を言うかだ。皐月は神無を守りながら言う。
「また何かあったらだけれど」
「は、はい」
「遠慮なく私に言って」
 俯いて生気のない顔で歩く四人を睨み据えながらの言葉であった。
「いいわね」
「今はもう」
「今じゃなくてもいいから」
 時間はそれに止まらなかった。
「これからもよ。何かあったらね」
「その時はですか」
「もう絶対にいじめさせないから」
 正義感が強く生真面目な彼女らしい言葉だった。
「だから。安心して」
「部長がいてくれるから」
「今まで気付かなくて御免なさい」
 その良心のまま謝罪もした。
「お陰で貴女が」
「すいません」
「謝ることはないわ」
 神無の今の言葉はいいとした。
「どうして貴女が謝るの?そんな必要はない筈よ」
「そうなんですか」
「謝るべきなのは」
 そしてだ。まだ目の前にいる四人をまた睨んで言った。
 
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