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許されない罪、救われる心

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34部分:第三話 歪んでいく心その十二


第三話 歪んでいく心その十二

「それじゃあね。お金は?」
「はい」
 如月も早速出してきた。五百円であった。
「これだけあればいいよね」
「うん、充分よ」
 弥生は優しい微笑みで彼女のその言葉に応えた。いつもの笑顔だ。
 そしてだった。五百円を受け取った。それからまた話すのだった。
「おつりは帰って来るから」
「五百円で充分なの」
「アイスよ。そんなに高い筈ないじゃない」
 如月にこうも言ってきた。
「だから安心して」
「わかったわ。じゃあおつりでね」
「どうするの?」
「おつりは取っておいていて」
 そうしてからというのだった。
「後でそのお店の場所とか教えて欲しいけれど」
「お豆腐屋さんの?」
「弟にも買ってあげたいから」
「ああ、睦月君に」
「そう、美味しいものは一人で食べるものじゃないじゃない」
 これは彼女の考えだ。美味しいものは自分で独占しては駄目だというのだ。皆で食べてこそいいものだと。昔からこう考えているのである。
「だからね」
「昔からそうよね」
「そうかしら」
「如月のいいところよ」
 褒め言葉であった。それを今言うのだった。
「そこはね」
「私の、なのね」
「だって。いつも弟さんとか私達のことを気にかけてるじゃない」
 これは本当のことだ。如月は弟思いで友達思いの女の子なのだ。だから弥生もいつも彼女の傍にいてそのうえで笑顔を向けているのである。
 その彼女にだ。弥生はまた声をかけた。
「それじゃあね」
「後で教えてね」
「うん、それで弟さんになのね」
「買ってあげるわ。けれど」
 ふとだ。気付いたのだった。
「お豆腐屋さんよね」
「ええ」
「じゃあ。朝早くでないと駄目よね」
 気付いたのはこのことだった。豆腐屋である。豆腐屋はとにかく朝が早い。如月は今このことに気付いたのである。思い出したと言ってもいい。
「やっぱり」
「そうよ、だから私も今から行くのよ」
「それじゃあ。放課後とかは」
「お店開いてないと思うわ」
「そうよね、やっぱり」
 このことにまた話すのだった。
「それって」
「けれど土曜とか日曜もお店は開いてるから」
「そうなの」
「だから安心していいわ」
 買うことについてはというのだ。
「ちゃんと買えるから」
「それじゃあ」
「さて、じゃあ今から行くから」
 弥生は微笑んで如月に述べた。
「また教室でね」
「うん、それじゃあね」
「またね」
 こう話してであった。如月は今は弥生と別れた。そのうえで部活の朝の練習に参加する。本来の彼女の顔に戻っていた。一時であっても。


第三話   完


               2010・7・28
 
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