提督はBarにいる。
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やっぱ冬は鍋でしょ!・その2
「おじや出来たぞ~」
テーブル席の方におじやを持っていくと、火鍋に悪戦苦闘中の夕雲型姉妹が目に入る。
「ひ~っ、辛ぇ!」
「でも箸が止まらねぇぜ!」
「夕雲姉さん!汗が止まりません!」
「眼鏡が曇る~」
喧しいなぁ、オイ。そんな風に少し呆れていると、ドアベルがチリンチリンと来客を告げる。
「いらっしゃい」
「やぁ同志提督、飲みに来たよ」
「司令官、駆け付け一杯だ。ウォッカを貰おう」
「出やがったなロシアン飲兵衛コンビ」
タシュケントとヴェールヌイの駆逐艦コンビだ。2人ともソ連に縁深いだけあって気が合うらしく、タシュケントが着任してからこっち2人で毎晩のように飲み歩いているらしい。お陰で何処かの年寄り戦艦が、
『同志ちっこいのが構ってくれなくなった……』
と店の隅でクダを巻くようになって少し迷惑している、ってのは内緒だがな。
「あいよ。ボトルとグラス2つね」
「何を言ってるんだい同志ボトルは1人1本だろ?それにグラスはいらないよ」
「ウォッカらっぱ飲みする気かよこの脳味噌空色駆逐艦」
タシュケントの奴はヴェールヌイに輪をかけて飲兵衛だ。『空色の巡洋艦』なんて昔は呼ばれてたらしいが、脳味噌がウォッカ浸けになってアッパラパーになってるんじゃないかと疑いたくなる。
「アルフォンシーノの方まで届け物をしてきたからね。暫くは休暇だよ……だから飲ませてやってくれ、司令官」
「まぁ休みなら文句はねぇが……急性アル中にはなるなよ?」
艦娘の身体は頑丈だが、万能ではない。怪我もするし病気にもなる。10日近くも仕事で張り詰めていたんなら仕方ねぇか。
「ほらよ」
ドン、とボトルを2本カウンターに乗せる。2人はボトルを打ち付け合うと、グビリ、グビリと喉を鳴らしてウォッカを流し込んでいく。
「相変わらず水みてぇに飲むなぁ……」
一応それ、アルコール度数50゜あるんだが……まぁこいつらには関係ねぇか。
「あぁ司令官、何か摘まめる物も頼む。そうだな……私達も鍋を貰おう」
わいわいと騒がしいテーブル席の方を眺めながら、ヴェールヌイが注文してくる。
「あいよ。あっちの席のも纏めて作るから、少し時間がかかるぜ」
折角だ、ちょいと変わった鍋にすっかね。
《シメはチーズパスタ!おでん風カレー鍋》※分量:4人前
・牛肉(薄切り):400g
・ちくわ:4~5本
・厚揚げ:1枚
・さつま揚げ:4~5枚
・ゴボウ:1~1.5本
・キャベツ:1/2個
・サツマイモ:1/2~1本(ジャガイモなら2~3個)
・長ねぎ:2本
・シメジ:2パック
・ニンジン:1/2本
・チンゲン菜:2~3株
(スープ)
・水:1200cc
・ほんだし:大さじ1と1/3
・カレールー:80g(4かけ位)
・醤油:大さじ4
・みりん:大さじ4
・酒:大さじ2
※スープを作るのが面倒なら、市販のカレー鍋のスープでOK!
俺がチョイスしたのはカレー鍋。最近流行ってるらしいし、そもそもカレーが嫌いだという奴は中々居ない。今回は更に、そこに日本の冬の定番あったかメニュー・おでんの要素を加えた『おでん風カレー鍋』を作ろうと思う。まずは下拵えから。牛肉は食べやすいように3等分位の長さに切り揃え、ちくわは斜めに半分に切る。さつま揚げと厚揚げはお湯を掛けて油抜きした後、食べやすい大きさに切る。厚揚げは三角に切るのがオススメだ。ゴボウはタワシで泥を丁寧に落としたら笹がきにする。キャベツは芯を取り除いたらざく切りにして、サツマイモは泥を落としたら皮付きのまま1cm幅の輪切りに。長ねぎは1cm幅の斜め切り、シメジは石附を落として小房に分ける。チンゲン菜は長さを3等分位にして、根元の部分は6~8つの櫛切りにする。ニンジンは薄い銀杏切りにする。
鍋に水、ほんだし、醤油、みりん、酒を入れて中火にかける。煮立ってきたらカレールーを入れて溶かす。ルウが完全に溶けたら、練り物→根菜→葉物野菜の順に入れ、仕上げに牛肉を全体に広げる。蓋をして強火で5分程煮る。
鍋の具材に火を通している間に、パスタを茹でておく。飯を入れておじやとか、うどんを入れてカレーうどんってのも定番で美味いんだが、何と言ってもコイツのシメは茹でておいたパスタを加えてそこにチーズも入れて絡ませたチーズパスタ!コイツが最高さ。カレーのスパイスに練り物や野菜から出た出汁が加わって、最高のパスタソースに化けてやがるんだ。それを茹でておいたパスタを入れて絡ませて、そこにとろけるチーズを入れてさらにかき混ぜる。カレースープとチーズがパスタに絡んで……やべぇ、想像してたら涎出てきた。
「ホイお待たせ。『おでん風カレー鍋』だ」
出来上がった鍋を分けて、カウンターの2人とテーブル席の一団に持っていく。テーブル席の方はもう大騒ぎだ。
「おでん!?カレー!?鍋!?どれ!?」
だから『おでん風カレー鍋』だっての。別々にすんな。
「うえぇ、カレーに練り物……!?美味しいんですかこれ」
馬鹿野郎、金欠学生の強い味方なんだぞ、練り物は。そのまま食っても美味いし、焼いたり煮たり炒めたりすれば出汁が出るから他の具材に旨味をプラスしてくれる。実際、肉が苦手な知り合いはちくわを肉代わりにカレーを作る。食わせてもらったが、シーフードカレーとは一風違う味わいで美味かった。要するに、だ。
「四の五の言わずにとりあえず食え。文句は食った後で聞いてやる」
出てきたら、だけどな。
「どれ、早速食べてみよう」
ヴェールヌイは何の躊躇いもなく、お玉に手を伸ばして鍋をよそう。
「同志ヴェールヌイ、君には躊躇が無いのか!?」
戸惑うタシュケントに、ヴェールヌイはフッとニヒルに笑ってみせる。
「無いね。司令官の料理の腕を私は『信頼』している。その信頼は伊達じゃないさ」
そう言いながら黄土色に染まったちくわを摘まみ上げ、一口。
「あふっ……」
噛んだ瞬間に溢れ出してきたスパイシーなジュースで口内が火傷しそうになる。が、そんな事は関係ないとばかりにその汁をジュルジュルと啜る。こぼすのが勿体無い……そう思える程に味わい深く、美味しかったからだ。たっぷりと出汁を含んでいたちくわそのものもフワフワで、それ単品でも十分に満足出来る美味しさだが、これは鍋。まだ食べていない具材がわんさかあるのだ。
「どうした?同志タシュケント。呆けていると私が全て食べてしまうぞ?」
その言葉の通り、ヴェールヌイは再びお玉に手を伸ばし、鍋をよそっていく。しかも今度は山盛りだ。その具材1つ1つを噛み締める様に味わい、ウォッカを流し込んでいく。
「幸せだ……」
蕩けたような顔で呟くヴェールヌイ。まさに幸福を表情にしたらこんな顔だろう。そんな様子を見て、ゴクリと生唾を飲み込むタシュケント。
「ほれほれ、遠慮せずに食いな」
そんな様子を見かねて、器に鍋を持って差し出してやる。恐る恐るではあったが、受け取るタシュケント。一口食べてからはもう、凄かった。ハムッ、ハフッ、ハフハフっ、ハフッとがっついていた。そこまで美味そうに食ってもらえれば作りがいもあるってもんだ。
「あ、汁は半分以上残しとけよ?」
「ん?何でさ」
「スープの残りにスパゲティとチーズ入れて、カレーチーズパスタにするからな」
汁をパスタソースにするんだから、汁が無ければそのシメは食べられない。
「は……」
「は?」
「早く言ってよ、危うく飲んじゃう所だったじゃないかぁ!」
タシュケントの逆ギレの叫びが木霊する。いや、別にシメは無理して食うもんじゃねぇがな?
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