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足を洗った後で

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第二章

「随分と立派なお身体ですね」
「冒険者もやってたさ、職業は闘士でな」
「そうだったのですか」
「それで長い間街でならず者もやってたんだよ」
「この佐和山の街にいる」
「そうさ、金沢の方でな」
 そこでというのだ。
「随分と悪いこともしたさ、揉めている組の連中を一人で倒したこともあるさ」
「お強かったのですね」
「けれど今の女房に会ってな」
 それでとだ、主は鈴子に昔を見る目で話した。
「足を洗ってな」
「金沢からですか」
「この佐和山に移って暮らしてるんだよ」
 酒場を経営してというのだ。
「今じゃカタギさ、息子も出来たしな」
「それは何よりですね」
「ああ、しかしわしは暴れ過ぎた」
 ここでだ、主は目を伏せて暗くさせて述べた。
「それが佐和山を仕切っている堀内組に知られてな」
「それで、ですか」
「仕事を手伝えとしきりに言われてだ」
「ヤクザ屋さんのお仕事を」
「碌なものじゃないさ」
 ヤクザの仕事はというのだ。
「それはわしもわかっている、あとだ」
「もう足を洗ったので」
「絶対に手伝わないって決めたんだよ」
「それはいいお考えです」
 まさにとだ、鈴子は主に述べた。雅も鈴子の横で頷いている。
「もうです」
「ヤクザ者にはならないさ」
「そうされて下さい」
「しかしな」
 決めた、それでもとだ。ここで鈴子と雅に言うのだった。
「それが仇になった」
「そういえば先程息子さんのお話が出ましたね」
 雅は洞察力を発揮して主に問うた。
「では」
「奴等に攫われた」
「その堀内組にですね」
「そうなってな」
「人質ですね」
 鈴子がまた言ってきた。
「そのうえで」
「ああ、仕事を手伝えと言われている」
「やはりそうですか」
「正直困っている」
 うなだれている方にそのことが何鳥も出ていた。
「今はな、それでだ」
「私達にですね」
「息子を救い出して欲しい、ただな」
 それでもとだ、主は二人に話した。
「わしがヤクザ者だったことはな」
「そのことはですね」
「絶対にだ」
 主は顔を上げて鈴子達に真剣な顔で頼んできた。
「秘密にして欲しい」
「やはりヤクザ者だったことは」
「何としてもな」
 絶対にというのだ。
「守って欲しいが」
「わかりました」
 これが鈴子の返事だった。
「その様にします、ではこれからです」
「堀内組をかい」
「退治します、そしてです」
「息子をか」
「助け出してみせます」
 絶対にというのだ。
「お任せ下さい」
「そうか、しかし怖い」
「息子さんの安全が、ですね」
「殺されないか」
「それは絶対にありません」
 確信を以てだ、鈴子は主に答えた。 
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