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許されない罪、救われる心

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126部分:第十一話 迎えその十五


第十一話 迎えその十五

「他の誰も」
「ううん、これは参ったね」
 師走もこれには難しい顔になった。
「せめて。退院の時位は」
「私もそう思いますけれど」
「誰か来て欲しいね」
 師走は難しい顔のままで言った。
「本当に」
「呼べればいいんですけれど」
「全くだよ」
 こんな話を二人でしていた。そしてその時だった。
 師走が座っている席にある電話がだ。鳴った。
「はい」
「あの」
 その声は少女の声だった。そうしてであった。
 如月の退院は真夜中であった。岩清水達の抗議行動に襲われることを警戒してだ。師走があえてその時間にさせたのである。
 真っ暗な病院の中でだ。三人は進む。荷物は師走と水無が持っている。
 非常灯が照らすその中を出入り口まで進む。その中でだった。
 師走はだ。如月に対して声をかけた。
「それで」
「はい」
「もうこんなことにならないようにね」
 こう声をかけるのだった。
「こんなことは招かないように」
「はい・・・・・・」
 俯いた顔で頷く如月だった。
「絶対に」
「そうしてね。それで」
「それで」
「外に出ても。安心してね」
 こう話すのだった。
「きっといいことがあるから」
「いいことがですか」
「そう、あるよ」
 如月に穏やかな声で話す。
「だから。絶望とかしないで」
「そうなんですか」
「そう、それに何時でもここに来ていいし」
 如月にこうも言うのだった。そしてだ。
 水無もだ。こう如月に言ってきた。
「私達がいるから」
「先生や看護士さんが」
「うん、いるよ」
「だから何時でも来て」
 如月を気遣っての言葉であるのは言うまでもない。それを今彼女に告げるのである。
「それでいいね」
「私達もいるから」
「有り難うございます」
 暗い病院の廊下を歩きながら応える。
「それなら」
「うん、だからね」
「外に出ても元気でね」
「やっていきたいです」
 やっていけるかどうかはわからない。しかしそれでもだった。
 言った。外には岩清水達がいる。もう友人もいない。家族も守ってはくれない。そうした状況だがだ。それでも行くしかなくなっていたのだ。
 それでだった。如月はこう言ったのだ。
 そのうえでだ。また二人に対して言う。荷物は二人が持っていてくれている。そのことに感謝しながらそのうえで言ったのである。
「それで」
「うん、それで」
「どうしたのかしら」
「私、何とか歩いていきますから」
 だからだというのだった。
「どうなるかわかりませんけれど」
「うん、頑張ってね」
「本当にね。何があっても」
「はい、絶対に」
 そんな話をしているうちに出口に来た。ガラスの自動扉である。
 足を踏み入れると左右に開く。そうしてその中を潜る。
 するとだった。そこにだ。
 弥生がいた。彼女は学校の制服、冬服の上にコートとマフラーを着てそのうえでだ。病院を出たそこに一人で立っていたのである。
 その彼女を見てだ。如月はまず声を失った。
 そうして目を丸くさせてだ。言うのだった。
「どうして・・・・・・」
「友達だから」
 如月のその驚いた顔を見ながらの言葉だった。
 
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