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許されない罪、救われる心

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122部分:第十一話 迎えその十一


第十一話 迎えその十一

「私なんかに。誰も」
「卑下したら駄目よ」
 水無がここで止めてきた。
「自分をね」
「卑下はですか」
「そう、それは駄目よ」
 こう如月に言うのである。
「何にもならないから」
「だからですか」
「そうよ。そのことは考えない方がいいわ」
 こう如月に話すのだった。
「それよりもね」
「それよりも」
「テレビ観ましょう」
 ここで病室のテレビのリモコンのスイッチを入れた。白い病室の中に一つだけある黒いテレビだ。その画面が着いて中に昼にいつも出演しているサングラスのタレントが出て来た。
「あっ、タモリ」
「この番組も長いわよね」
「私が生まれる前から放送しているんですよね」
「ええ、そうね」
 水無は如月のその歳を考えたうえで答えた。
「勿論私よりもね」
「看護士さんよりもですか」
「二十三だけれどね、今」
 自分の年齢も如月に話した。
「それよりもね」
「そんなに長く続いてるんですね」
「ごきげんようもそうだったかしら」
 それもではないかというのだ。
「小堺さんのね」
「そういえばあの番組も長いですよね」
「そうよね。ほら、小堺さんって何かいないと寂しいじゃない」
「あっ、そうですね」
「タモリもお昼にいなかったら不安になるし」
 二人共そうしたタレントだというのだ。
「そういう人よね」
「そうですよね。そういえば」
「そういえば?」
「友達いたんですけれど」
 弥生のことだ。ここで彼女のことを思い出したのである。
「その娘がいてくれなかったらいつも」
「不安になったのね」
「幼稚園の頃からずっと一緒でした」
 それだけ深い絆があった。それが永遠に続くと思った。だがそれは。
 本来なら如月が入院していれば彼女と家族が真っ先に来てくれる筈だった。実際に如月が小学校の頃盲腸で入院した時には家族と彼女は毎日来てくれた。そして弥生が怪我で入院した時は彼女が。そんな二人だったのだ。
「ずっと」
「そうだったの」
「それはもう」
 絶交された。このことも思い出してしまった。
「二度と」
「はい、それまでね」
 水無はここでもまた告げたのだった。
「テレビ観ましょう」
「そうですか」
「テレビは番組にもよるけれどいいものよ」
「いいものなんですか」
「観ていれば気が休まったり楽しくなったりするから」
「そうでしたね」
 言われて思い出したのはこのこともだった。やはりテレビも長い間観ていなかった。観られるような心境ではなかった。それでなのだ。
「そういえば」
「忘れていたのね、そのことも」
「はい」
 また暗い顔で頷く。
「そうでした」
「けれどこれで思い出したわね」
「ええ」
 何とかである。それができるようになったのだ。
 
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