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真の学者

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第二章

「大学の先生やのにわからんのや」
「おかしな話やね」
「学者なんてそんなもんや」
「普通の人がわかることがわからんの」
「本ばっかり読んでるかも知れんが」
 それでもというのだ。
「当たり前のことがわからん学舎もおるんや」
「当たり前のことがわからんて」
「そんなアホもおるんや」
 こう言うのだった、忌々し気に。
 北村はやがてテレビを観るのを止めてビデオでトラック野郎のシリーズを観だした。愛衣は受験生なので受験勉強に入った。
 愛衣は父とは違う大阪でも公立でかなりレベルの高い高校に入りそこから公立の大学にストレートで入った、北村は妻と共にトンビが鷹を生んだとか言って喜んだ。だがその大学の近現代史の講義を受けてだ。
 その大学教授が従軍慰安婦について日本軍が女性を大々的に拉致して無理矢理慰安婦に仕立てあげたと聞いていた、女性である愛衣は憤って家でも食事中にこのことを話したが。
 父はおかずのコロッケを食べながら娘にすぐに言った。
「御前その話親父に話してみい」
「親父?祖父ちゃんにかいな」
「そや、天下茶屋におる親父のとこに行ってや」
 一家は城東区に住んでいる、だが祖父の幸太は昔から天下茶屋に妻と一緒に暮らしているのだ。そこが北村の実家でもある。
「そうしてや」
「祖父ちゃんにこの話聞いたら」
「ホンマはどうやったかわかるわ」
「そうなん」
「そうや、その大学の先生がどんな本読んどるか知らんが」
 それでもというのだ。
「親父は戦争言ってるんや」
「その日本軍におったから」
「よお知ってるわ」 
 当事者、その時代にその場所にいた人だからだというのだ。
「それでや」
「祖父ちゃんに話を聞いたら」
「よおわかる、たこ焼きでも持って行ってな」
 祖父の好物であるそれをというのだ、北村は皺が目立ってきた痩せた顔で言った。白いシャツと腹巻、そしてステテコという恰好でステテコからは縞模様のトランクスが透けている。
「話を聞いたらええわ」
「ほなそうしてくるわ」
「一つ言うとくけどな」
 北村は今度は味噌汁をすすりつつ娘に話した。
「どんなえらい大学の先生が言うてることでもな」
「正しいとは限らへんねんな」
「そや、そんなことはない」
「大学の先生が間違えることもあるねんな」
「人間は間違えるもんや」
 それ故にというのだ。
「幾ら勉強出来てもや」
「間違えることもあるねんな」
「そして勉強出来るだけのアホもおるんや」
「そうやねんな」
「そや、世の中そんなもんや」
 娘にこうも言うのだった、そして愛衣は実際にたこ焼きを持って天下茶屋にいる祖父の家に行った。そしてだった。
 従軍慰安婦の話を聞くとだ、祖父はたこ焼きを食いつつ孫娘に話した。
「御前も大学生やったな」
「今年からやで」
「ほなもう話してもええな」
「そうなん」
「そや、昔花魁っておったやろ」
「吉原におる」
「そや、吉原とかな」 
 祖父は時代劇のことから話した。
「あったやろ」
「うん、娘が売られてたっていう」
「わし等の頃はまだあったんや」
「そやったん」
「それでそうした場所が結構あちこちにあってな」
「大阪にもあったん?」
「あったわ、というか飛田新地とかあるやろ」
 祖父はそこの話をした。 
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