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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第7話 囚人目線って言うモノ

 
前書き
レンside

初囚人視点は、レンくんでした!! 

 
 朝。それは俺にとって、とても憂鬱な時間だった。
 俺は、朝起きたら"原因不明の"頭痛や熱があることがあって、その度に琴葉に医務室に運ばれている。
 誰よりも時間や予定を守る琴葉の時間を朝から奪い、予定を狂わせる。それは嫌だ。

 今日は起きられるかな。


「起床! 点呼を取る」

 何時も通り、琴葉が起こしに来てくれる。
 グレースは、"肌のケアをする"と言って早く起きているため、すぐに鉄格子の前に来る―――訳は無く、暫くして琴葉が催促して、ようやく来る。
 シンは、早く起きて脱獄し、看守に秘密で魔法の鍛錬をしているらしく、毎朝琴葉に首根っこを掴まれて、起床時間前に房に戻される。
 ハクは、琴葉が来ると大抵の場合起きる。が、起きない時もあり、その時はグレースとシンが叩き起こしている。

 俺は―――今日も起きられない。
 意識はある。けど、体が動かなかった。でも、全くと言う訳では無いから、金縛り等では無い。

「九〇四番」
「はーい」

「八九番」
「ふぁ~い」

「四番……はいいや」
「僕を呼ばないとは良い度胸をしているな?」

「レン。……レン?」

 声が出せなかった。辛い。苦しい。嫌だ。

「レン、起きてる? ……ちょっと九〇四番、確認して」

 グレースが近付いてくるのが分かる。
 まだ体が動かせない。声が出ない。


「……やっぱいい。ちょっと入る」


 鉄格子が開く音が聞こえる。
 視界の横に琴葉の姿が見える。……房内に琴葉が入っている?

 すると、布団が剥がされ、冬の冷たい空気が肌に伝わってくる。が、次にはごわごわとした布と、温かい手に体を支えられ、ひょいと持ち上げられる。


 ―――また迷惑を掛けた。


 鉄格子に再度鍵が掛けられ、俺は琴葉の背中で縮こまる。琴葉の黒いサラサラの髪がとてもくすぐったい。
 俺に負担を掛けないようにか、ゆっくりと医務室まで向かっているのが分かる。


「レン。反応しなくて良いから、聞いてくれる? ……あんまり溜め込まない様にしてよね? 体調崩しやすいんだからさ。沢山会う時間だってあるんだからさ、何でも私に言って? 嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと……何でもいい。私は、お前ら囚人を守る事も仕事なんだよ。私を利用して生きても良い。とにかく、一人で抱え込まないで。私じゃなくてもいいから、九〇四番、八九番、四番とかに相談して?」


 ……………………。
 顔をグリグリと琴葉の首に押し付ける。照れ隠し……と言うモノだろうか。久し振りに顔が熱くなった。

「なに。レン、照れてんの?」
「……ぅ、るさい」
「はいはい」

 小さく笑う声がして、何故か悔しくなる。馬鹿にされたようで、でもくすぐったい。よく分からない感情が、心の中をグルグルと渦巻く。

「琴葉……今相談して良いか?」
「ん? いーけど」


「琴葉は……俺の事、どう思ってる?」


 すると、琴葉がピタリと脚を止める。…………おかしな事を聞いた事は自覚している。が、答えてくれるのが琴葉だ。
 数十秒の静寂の後、琴葉は小さく言った。


「守らないといけない人、かな」


 その言葉の意味が分からず、医務室までの間、その言葉の意味を悩み続けた。


  ◆琴葉side◆


 一瞬、耳を疑った。

"琴葉は……俺の事、どう思ってる?"

 どの様な答えを求めていて、どう答えればいいのか、分からなかったからだ。

 レンは恋愛感情を、実験によって失っている。だから、恋愛系の答えを返すべきでは無いとは思った。違う答えを返してあげるのが正解で、望んでいる事なんだ。

 だから、"守らないといけない人"と答えた。

 私にとって、彼は"彼の実験"の被害に遭った、守るべき者だったから。


「…………い、おい! 聞いてんのか琴葉!」
「ん、おあっ!? って、翁か。驚かすな」

 顔を上げた目の前に、翁の顔があった。額に青筋を浮かべていて、かなり苛立っている事が分かる。

「"驚かすな"じゃねぇ! 何回も呼んだわボケ! 御前さんも一度診察してやろうか!?」
「おいぃぃぃい、止めろー? 翁よ、落ち着けー?」
「落ち着いとるわボケ!!」

 何処が落ち着いてんだよ、ボケ。
 レンを医務室の奥に置いて来て寝かせてから数分。私は翁と相談をしていたのだが、ぼーっとしてた様だ。それが翁の癪に障ったらしい。

「……御前、最近感情が薄くなってきてないか?」
 翁の不審そうな言葉に、
「な訳ないでしょ。私が感情薄れてきてるとなったら、今頃此の刑務所は既に木っ端微塵だ」
 と、冗談交じりに言葉を返す。

「……御前だって、"奴等"と同じなんだ。少しは休め、仕事馬鹿」
「仕事馬鹿? なぁにそぉれ」
「御前にピッタリなあだ名だろ。つーか、ピシッと話しやがれ」

 …………返事がしにくい。
 これで肯定したら、私は「仕事に熱心なの! 真面目で良い子でしょ?」みたいな事を言ってるのと一緒。だが否定したら、翁が怒る。
 如何すれば良い…………


「あ、そっすね…………」


 翁の眼力に負けて、言ってしまった。

 そりゃ、能面みたいな顔されたらねぇ? 笑う前に答えなきゃだしねぇ?

 これで私は、自分で"いい子ちゃんぶってる子"認定した事となってしまった……のかな。


 
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