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糸引き娘

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第二章

「そうだよね」
「私は嘘は言いません」
 このことはとだ、紗佳は強い声で答えた。東天下茶屋はまさに下町といった感じで行き交う人々も家々も店も砕けた感じだ、話されている言葉も見事な関西弁だ。
 その街中を二人で歩いてだ、紗佳は町中にある庭のない一軒の借家の前に来てそうして健児に対して言った。
「このお家がです」
「大叔母さん達のお家なんだ」
「はい、大叔母さん達と」
 それにというのだ。
「お祖父さんの末の弟さんとその人の娘さんお二人と暮らしてます」
「五人家族なんだね」
「そうです」
 その通りだとだ、紗佳は健児に答えた。
「こちらに」
「それじゃあ今から」
「はい、もう連絡はしてますから」
 紗佳の二人の大叔母達にというのだ。
「すぐにお会い出来ます」
「緊張するね、それに」
 さらにとだ、健児は心配そうな顔で述べた。
「若し駄目だって言われたら」
「その時はもう既にです」
「紗佳ちゃんのお父さんとお母さんにかな」
「言われていました、ですから今日は許しを得るのではなく」
「挨拶になんだ」
「来たと思って下さい」
 そうしたものだというのだ。
「ご安心を」
「だといいけれど」
「では今から」
「うん、お家の中に入って」
「挨拶をしましょう」
「それじゃあ」
 二人で話してだ、そのうえでだった。
 一緒に家の中に入って二人の穏やかでにこにことした小柄な老婆達と会った。二人共すぐに健児を笑顔で迎えてくれて紗佳と仲良くしてくれと頼んだ、そうしてだった。
 後は紗佳が大叔母達に満面の笑顔で応じて楽しい談笑となった、健児は聞くだけだったが実にいい雰囲気だった。
 それでだ、健児は挨拶が終わって家を後にしてまた東天下茶屋の中を歩きながら紗佳に対して言った。
「まるで紗佳ちゃんの実のお祖母さんみたいだったね」
「おばちゃんとポポちゃんですね」
 これが紗佳が言う二人の大叔母達それぞれの呼び名だった、紗佳は二人と談笑している時に楽しくこう呼んでいたのだ。
「お二人共本当にです」
「紗佳ちゃんにとってはなんだ」
「私はお祖母さんが四人いまして」
「父方の人と母方の人と」
「おばちゃんとポポちゃんです」
 先程の二人だというのだ。
「お二人もです」
「紗佳ちゃんのお祖母さんなんだ」
「そうした方です」
「そうなんだね」
「それだけに大切な人達で」
 紗佳にとってはだ。
「健児君にも是非です」
「会って欲しかったんだね」
「はい、今日は部活もなかったので」
 日曜日のうえにだ。
「丁度いいと思いまして」
「僕をここまで連れて来てくれたんだ」
「そうです、あと」
「あと?」
「実はここに面白い方が住んでいまして」
 この東天下茶屋にというのだ。
「おばちゃんとポポちゃんの何十年来のお友達なんです」
「何十年っていうと」
「前のオリンピック、御堂筋決戦の時ですね」
「ああ、御堂筋っていうと」
「阪神と南海、今のソフトバンクの日本シリーズですね」
「阪神その時も負けたんだったね」
 実は阪神が日本シリーズで勝ったのは一九八五年昭和六十年の時だけだ、他は全て負けている。特に二〇〇五年は伝説にさえなっている。 
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