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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  17.ギルドホーム

「もうちょっとかな?」
「もうちょっとだな」
「なげぇな」
「長いわね」
「もうええじゃろ?なぁ?」
「もう少しっス、多分」
「・・・長い」
51層に到着してしばらく、俺たちは主街区《キルベルグ》をうろうろと歩き回っている。
三者三様の文句が出るが、ミーシャは何も言わない。それもまぁ、仕方ない話ではある。
51層の主街区は、視界を埋め尽くす桜並木が並んでいたからだ。


「よしっ!」
急にミーシャが叫んだ。やっとか、と全員思った。くるりとメンバーの方を振り返り、満面の笑みを浮かべる。
「ここに、ギルドホームを買おう!」
堂々たる宣言だった。
暫くして、ようやく理解が追いついたメンバーの悲鳴が響いた。一番大きい悲鳴だったのは、このギルドの副リーダー兼会計を務めるシルストだった。


そして、俺たちは今、近くにあったレストランでウインドゥを開いて突き合わせている。理由はもちろん、ギルドホームを買うための予算を捻出するためだ。
「おいアルト、お前結構持ってんな。何でだ?」
「普段買い物しないからな。リヒティはあまり無いな」
「リヒティはちょっと珍しいお菓子を見つけると直ぐに買っちゃうのよ。外れも多いのに」
「止めてくれよ、クリス・・・」
リヒティががくりと項垂れる。因みに、クリスティナの持っているコルの額は勿論リヒティより多かった。アンは紅茶を飲むのが好きなので、よく茶葉を買っている。ミーシャはよく雑貨を買っている。シルストはキラキラしているものが好きだということで、よくミーシャとともに買い物に出かけている。
「シーちゃん、ちょっと買いすぎじゃない?」
「ミーシャに言われたくないわ」
ナツは調味料になりそうな薬草や木の実をよく買う。タクミはほとんど買い物をしない。
「タクミ先輩、凄いっスね。何でそんなに持ってるんですか?」
「倹約家だから」
よって、個人が持っている金額で多いほうから、タクミ、俺、クリスティナ、アン、ナツ、シルスト、ミーシャ、リヒティということになった。
「皆からちょっとずつ出してもらって、ギルド経費もそっくり出すとして・・・そもそも、家ってどれくらいするん?」
「確かにそうだね・・・。よし、先に下見に行こうか!」
「もう夜だが」
「うっ・・・」
それでも行きたいと言うミーシャを全員で引き留め、俺たちは近くにあった宿屋に引き上げた。


次の日、いつもよりずっと早く起きたミーシャにたたき起こされた俺たちは、予定通りギルドホームの下見に出ている。
全員の意見を総合してみたところ、居間、キッチン、男子部屋、女子部屋、そして風呂のあるところがいいという話になった。「ゲームの中なのだから風呂なんかいらない」という野郎共の意見は速攻で女子に却下された。風呂付の家なんてなかなかない、という意見も却下された。
「「探すの!」」
ということだった。よって、俺たちは条件に合うギルドホームを探し求めて朝から主街区銃を歩き回っている。とある物件は風呂がついておらず、とある物件は部屋が少し狭い。
「なかなかいいところはないねぇ」
近場のレストランで昼食をとりながら、ミーシャが呟いた。
「もう、ちょっと妥協するしかないんじゃないかしら」
「そう思う」
「ん~、もうちょっと!ここらへんまだ見てないよね?」
ミーシャが地図のある場所を指差す。少し主街区から遠くはなるが、十分徒歩圏内だ。
「ここで最後にしよう!」


主街区から徒歩15分ほどのその場所は、少し小高い丘になっていた。丘の上には一軒の家。赤い煉瓦で作られたその家はちゃんと売り物件で、まだ買い手もついていない。
キッチンあり、風呂あり。居間も含めて部屋は3部屋で、なんとテラスもついている。裏庭もあって、1本の立派な桜の木が立っていた。
「うわぁ、きれい!」
「広いし収納もたくさんあるわね」
「いい!すごくいい!ここで決めちゃわない!?」
「いや待ってミーシャ。金額見て」
会計担当のシルストがずいっと契約書を突き出す。そこに書かれた金額を見て、一同はウッと呻き声をあげた。
「どう考えても足りん」
「うう~・・・でもでも~」
「確かにここはいい。すごくいい。けど予算が足りんのじゃ。今から狩りに行っても誰かに買われるかもしれんし。なら今別のところを買ったほうがいい」
「どれだけ足りないんだ?」
リヒティの質問にミーシャは難しそうな顔をした。
「う~ん、けっこう・・・」
「稼げばいい」

「え」
「効率の良い狩場を集中して回る。鼠から情報を買ってコルの豊富なモンスターを探す。最速で目標金額を稼ぐプランを立てる。なんなら俺が一人でこの層の最前線を回ってきてもいい」
俺の発言を、しばらくみんなはあんぐりと口を開けていた。まさか俺がこんなことを言うとは思わなかったのだろう。俺もこんなことを言うようになるとは思っていなかった。
俺は別に、住む場所に頓着なんてしない。だが、皆がよいと思った場所を誰かに買われるのはなぜか嫌だった。
「どうせミーシャのことだ。みんなが納得するまでごね続けるぞ」
「うにゃっ、バレた」
ミーシャがばつの悪そうな顔をする。やがて、シルストがやれやれと首を振った。
「・・・ははっ。なんかアルトに言われたらできる気がするわ。ミーシャもこんな奴じゃしなぁ」
シルストはまっすぐ俺を見て、二ッと笑って見せた。
「そこまで言うんじゃ。しっかり稼いでもらうよ?」
「当然だ。皆ならできる」
できない気は全くしなかった。皆の顔に、自信があったからだった。






それから、俺たちは遮二無二になってモンスターを狩りまくった。普段の倍のペースで狩場を回り、何とか目標金額を達成。
こうして俺たちは、念願のギルドホームを手に入れることになったのだった。

 
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