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小雨坊

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第四章

「人と狐の間の子っていうでしょ」
「あれ伝説ですよね」
「伝説でもね」
「そうしたお話があって」
「もう妖怪変化や怪異は」
「文芸ではですね」
「常だから」
 それでと言うのだった。
「驚かないわよ」
「そうですか」
「だからね」
「出てきてもですね」
「驚かないわ」
「その言葉信じさせてもらいますね」
 尊敬する上司だからだとだ、健児は麻耶に答えた。そしてだった。
 二人で地下鉄の最寄り駅まで夕暮れの夜のなろうとする道を歩いていった、すると二人が通っている道の脇にだ。
 托鉢、斎料を求める僧侶がいた。二人はその僧侶にすぐにお布施を入れてお礼をされてあらためて道を進んでだった。 
 地下鉄に入った、そして地下鉄の列車の中で並んで座ったところでだ。
 麻耶は隣に座っている健児に言った。
「さっきの托鉢してるお坊さん人間じゃないわよ」
「そうなんですか?」
「幽霊よ」
 こう健児に話した。
「多分小雨坊ね」
「小雨坊っていう妖怪ですか」
「幽霊って言ってもいいかしら、影なかったでしょ」
「そこまで見ませんでした」
「夜になりかけで見えにくかったしね」
「街の灯りがありましたけれど」
「私はその灯りでわかったけれど」
 それでもと言うのだった。
「あの人はね」
「小雨坊っていう妖怪でしたか」
「何でも托鉢、斎料の途中に行き倒れたお坊さんの幽霊らしいわ」
「そうなんですか」
「修行の場で有名な葛城山に行く途中にね」
「じゃあ葛城山に出る妖怪ですか」
「本来はそうだけれど今日は大阪にいたのね」
 この阿倍野区にというのだ。
「そうみたいね」
「葛城の方からわざわざ来たんですか」
「ええ、ただ妖怪はああしてね」
「ごく普通にですね」
「街に立っていたりもするし」
「それありますね、本当に」 
 健児もここであらためて認識して言った。
「妖怪はいきなり出たりしますね」
「言った傍から出て来たでしょ」
「それもこっちが気付かない様にして出ることもあるんですね」
「そうよ、妖怪や幽霊はね」
「わかりました、じゃあ」
「このことも頭に入れてね」
「仕事やっていきます、けれど主任は」
 健児は自分の隣に座る麻耶の整った顔を観つつ微笑んで言った。
「本当に驚かなかったですね」
「言った通りでしょ」
 麻耶は自分に言う健児に顔を向けて微笑んで言った。
「妖怪や幽霊には慣れているから」
「だからですね」
「驚かないのよ」
「そのことあらためて凄いと思いました」
「そうなの?」
「はい、本当に」
 尊敬の念を込めて答えた健児だった、そのうえで麻耶にあらためて尊敬の念を感じそうしてだった。
 麻耶にこれからもついて行こうと思った、そうして阿倍野から梅田まで地下鉄で帰るのだった。また仕事に戻る為に。


小雨坊   完


                    2018・9・29 
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