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真田十勇士

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巻ノ百五十三 戦の終わりその四

「あるというのか」
「はい、ですから」
「わしに最後の一仕事をしてもらう為にも」
「御首を貰う訳にはいきませぬ」
「そこまで考えてのことか」
「左様です」
 その通りという返事だった。
「それがしはそう考えています」
「わかった、ではな」
「その様にですか」
「するがいい。この首くれてやるつもりだったが」
 ここでは笑って言った家康だった。
「思わぬ形でつながったな」
「それも運命かと」
「わしの運命か」
「そうも思いまする」
「運命とは面白いな、しかしな」
「しかし?」
「いや、わしは最後までお主が嫌いではなかった」
 幸村、彼をというのだ。
「出来れば召し抱えたかったが」
「それがしも大御所様は決してです」
「嫌いではないか」
「見事な方だと思っています」
 今もというのだ。
「その様に。ですが」
「わしの下につくことはか」
「はい、どうもです」
「お主の進むべき道ではないか」
「そうも思いましたし」
「そして運命か」
「我等は敵味方になる運命だったのでしょう」
 幸村は達観した顔で家康に述べた。
「やはり」
「そういうことか。ではわしは最後にお主に頼む」
「右大臣様のことですか」
「宜しく頼むぞ。幕府は国松殿は切った」
 そういうことにしたというのだ。
「木下家から分家で誰が出てもな」
「木下家の方としてですか」
「扱う」
 その様にするというのだ。
「だからよいが」
「右大臣様は」
「うむ、お主達に頼みたい」
「では薩摩で」
「宜しくな」
「わかり申した」
 幸村は家康の言葉に素直な声で応えた。
「それではです」
「その様にしてくれるな」
「約束致します」
「わしは約束を守れなかった」
 家康はこのことは今も残念に思っていた、天下一の律儀殿と言われ彼自身それが誇りであったからだ。
「太閤殿とのそれをな」
「右大臣様を頼むと」
「天下人にはなった、しかしな」
 それでもというのだ。
「約束を守りたかった」
「だから常にですか」
「国持大名にしようとしたのじゃ」
 大坂から出てもらってだ。
「そうしておったが」
「しかしそれは」
「果たせなかった」
「いえ、右大臣様が薩摩まで逃れられたのは」
「わしが約束を守ったからか」
「だからこそです」
 秀吉とのそれをしかとそうしたからだというのだ。
「薩摩まで逃れられました」
「そうであればいいがな」
「ですからそのことは気に病まれることなく」
「果たすべき最後のことをか」
「そうされて下さい」
 こう家康に言うのだった。
「是非」
「そうか、ではな」
「はい、そして右大臣様は」
「くれぐれもな」
「そうさせて頂きまする」
「その様にな、ではお主達はこれより」
「薩摩に戻ります」
 彼等の今の居場所であるそこにというのだ。 
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