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真田十勇士

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巻ノ百五十三 戦の終わりその一

               巻ノ百五十三  戦の終わり
 幸村は家康の前で服部と激しい戦を続けていた、服部はその身体から様々な形の炎を出して幸村の槍と忍術にあたっていた。 
 今服部は燃え盛る雀達の形をした炎を出してそれぞれに複雑な動きをさせて幸村を襲っていた。そうして言うのだった。
「これぞ伊賀炎雀陣」
「燃え盛る雀達を出し」
「左様、敵を襲う技であります」
 幸村に技のことを話した。
「そうなのです」
「そうでござるか、しかし」
「この炎雀陣を以ても」
「確かに見事な技です」 
 幸村もこのことは認めた。
「並の者なら勝てませぬ。しかし」
「それでもでござるな」
「以前のそれがしもそうでござった」
 幸村自身もというのだ。
「到底。しかし」
「今の真田殿は」
「この術があります」
 この言葉と共にだ、幸村は。
 己の切り札を出した、これまで一つの身であったのが。
 二つ三つとなっていき七つになった、そのそれぞれの手に二本の槍があり合わせて十四本の槍に炎を宿らせ縦横に振るい。
 襲い来る雀達を全て叩き落した、そうして言うのだった。
「この通りです」
「術を破られましたか」
「はい、服部殿がこれだけの秘術を使われるなら」
 それならばというのだ。
「それがしもです」
「対するに相応しい術を使われた」
「はい」
 その通りだというのだ。
「左様であります」
「そういうことですな」
「しかしですな」
「それがしの術はこれで終わりではありませぬ」
 確かな声であ、幸村は服部に答えた。
「まだありまする」
「左様ですな、服部殿ならば」
 幸村のそのことは察していて言う。
「先程の術だけでなく」
「もう一つです」
 まさにというのだ。
「切り札があります」
「左様ですな」
「今からそれをお見せしましょう」
「待て、半蔵」
 それまで黙っていた家康が服部の今の言葉を受けて眉を動かしそのうえで彼に対して咎める声で言った。
「それはならぬ」
「あの術を使うことは」
「あの術を使えばじゃ」
 家康は服部にさらに言った。
「お主自身も」
「しかしです」
「それでもか」
「はい、それがしはです」
 まさにというのだ。
「真田殿がそれだけの方だからこそ」
「使うか」
「そしてそのうえで」
「勝つというのじゃな」
「はい」
 その通りという返事だった。
「そうさせて頂きます」
「そうか、ではな」
「そしてです」
「真田に勝つか」
「大御所様には指一本触れさせませぬ」
 決してという言葉だった。
「ですから」
「わしの為か」
「はい、そしてそれがし自身も」
「真田にか」
「これだけの方です」
 幸村の武芸者としてのあまりもの見事な姿、強さだけでなく心も備えているそれを見ても思ったのだ。 
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