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戦国異伝供書

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第九話 天守その七

「今川家じゃが」
「はい、桶狭間で滅びましたな」
「当家の攻めによって」
「今は治部殿も出家され」
 義元のことである。
「そうしてですな」
「ご子息の四位殿も徳川殿のところに入られ」
「そして客分となっておられますな」
「それじゃ、まあ治部殿はそれでいいとしてな」
 出家で、というのだ。
「問題は四位殿じゃ」
「あの御仁ですな」
「あのまま徳川家の客分にしていても」
「それもどうかですな」
「そうじゃ、家の格がある」
 信長は世間ではそれを気にしないと言われている、だが天下の評判もあり考慮しているのは事実である。
「あの家は公方様になれる」
「足利家、吉良家と並んで」
「そこまでの家の格ですな」
「まさに源氏の名門です」
「同じ源氏であっても武田家よりも上です」
「だからあのままではどうもとなろう」
 家康の客分のままではというのだ。
「それでじゃ」
「はい、あの方をですな」
「それなりの地位に処す」
「そうされますか」
「二万石でも与えてじゃ」
 そしてというのだ。
「一つの城の城主にするか」
「そうされますか」
「四位殿は」
「そうされますか」
「今川家の家臣達も当家と徳川家、武田家にそれぞれ分かれておるが」
 それもというのだ。
「戻りたい者は戻ってもいいとしよう、それでじゃ」
「拙僧もですか」
「うむ、お主にしてもな」
 雪斎にも言うのだった、今川家の重臣であった彼にも。その彼の傍にはかつて今川家の家臣達だった者達がいる。
「そして他の者達もな」
「今川家に戻ってもいいのですか」
「そうしてもよいぞ」
「左様ですか」
「そこはお主達に任せる」
 こうも言うのだった。
「好きな様にせよ」
「有り難きお言葉」
 雪斎はこの時はこう応えた、だが。
 氏真はすぐに信長に実際に二万石程度与えられて国持ではないが城主にもなった、それで雪斎をはじめ織田家にいた今川家の旧臣達がこぞって彼の前に集まったが。
 氏真は彼等にだ、こう言うのだった。
「麿に仕えるよりもじゃ、天下統一を目指す織田殿にじゃ」
「お仕えして」
「そしてですか」
「うむ、そしてじゃ」 
 それでと言うのだった。
「お主はな」
「はい、それではですか」
「これまで通りですか」
「織田殿にお仕えし」
「天下統一の為に励めと言われますか」
「そうじゃ、麿のことよりもな」
 こう雪斎達に言うのだった。
「天下のことを考えて」
「そうしてですか」
「天下の政と戦をしていけ」
「我等にはそうお望みですか」
「そうじゃ、それにそなた達も多くは万石持ちとなった」
 雪斎にしてもだ、僧侶であるがそれでもそれだけの禄は一代限りとはいえそれだけのものを信長から貰っている。 
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