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戦国異伝供書

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第八話 浅井家の内その一

                第八話  浅井家の内
 浅井長政は信長の妹婿として近江の北を治め信長からの信任も篤いものだった。それで家臣達にも言っていた。
「天下のことを考えるとな」
「はい、織田殿と共にあることですな」
「当家のあり方は」
「それがよいですな」
「徳川殿と共にな」
 家康も話に出してだ、長政は己の家臣達に話した。
「そうしていこう、近江一国ではないが」
「四十万石を預けられています」
「これまで通りの石高です」
「しかも身分も保証してくれております」
「ならばですな」
「これ以上のものはないですな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
 長政は今自分の前にいるのが自身の腹心と言っていい者達ばかりであることからあえてこのことを話した。
「朝倉殿はな」
「仕方ありませぬな」
「あそこまで織田殿に逆らえば」
「攻められますな」
「そうなってしまいますな」
「仲介もしておるが」
 長政なりにだ、朝倉家にも気を使ってそうしているのだ。
「しかしな」
「はい、朝倉殿はです」
「聞かれませぬ」
「織田家の風下にはつかぬと」
「そう言われてばかりですな」
「あれはやがて攻められる」
 長政もそう見ていた。
「ならばな」
「当家としましては」
「仲介はこれまでしておりますし」
「務めは果たしておりますし」
「これ以上のことは」
「出来ぬ、しかし義兄上と朝倉家の戦になれば」
 その場合のこともだ、長政は既に考えて話した。
「その時は当家はな」
「兵を動かさぬ」
「そうしますか」
「どちらにもつかずですな」
「朝倉殿に兵を向ければ不義理」
 彼から見て祖父浅井家の初代である亮政の頃から助けてもらっている、それで朝倉家に兵を向ければそれになるというのだ。
「そしてそれ以上にな」
「織田殿に兵を向けるなぞ」
「考えられませぬな」
「今の当家にとっては」
「天下は定まろうとしておる」
 長政もこう見ていた、それもはっきりと。
「ならばな」
「はい、織田家に弓を引けば」
「それだけで戦乱がまた激しくなりまする」
「まして織田家に弓を引いても不義理」
「そちらもですな」
「裏切りは今の常なれど」
 戦国の世のこともだ、長政は述べた。
「しかしな」
「殿としては」
「不義理は」
「したくない」
 これは紛れもない長政の本音だった。
「決してな」
「ですな、当家は義理を重んじる家です」
「他家に対しても民に対しても」
「それではです」
「両家に対して」
「どちらつかずではない」
 このことは断った長政だった。
「双方に義理を果たす、朝倉殿のお命は絶対にじゃ」
「はい、お護りしましょうぞ」
「そのこともしかとしましょうぞ」
「朝倉家が勝つとは思えぬ」
 これは長政だけでなく浅井家の誰もが思っていた、それは両家の力の差があまりにも歴然としているからだ。 
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