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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica16-F犯罪者狩り~Eroberung Flotte~

 
前書き
Eroberung Flotte/エアオーベルング・フロッテ/征服艦隊 

 
†††Sideはやて†††

とあるニュースが流れてるモニターを、私が任されてるLS級艦船ヴォルフラムの艦長執務室で眺める。曰く、現役の管理局員が、最後の大隊の一員として殺人事件を起こしてる、ってゆうもんや。逮捕者の中にはミッド地上本部や本局の捜査官や結構な役職持ちが多い感じや。けど、それらよりもっと私を悩ませてるんは、かつての部下の名前が挙がってるってことや。

「スバル・・・なんでや。それにティアナも・・・」

逮捕されたんは今のところスバルだけやけど、ティアナが大隊の一員として活動してた様子がキッチリ映像に残ってて、公にはまだ出てへんけど局内部で問題になってる。なのはちゃんやヴィータからも実際に見て話もしたって話やし。

「き、きっと洗脳とか偽者とかですよ、はやてちゃん!」

そう言うて私を気遣ってくれたのは、司令補の1人であるリインや。本来の手の平サイズの姿は久しく見てへんな。そしてもう1人の司令補であるアインスが「偽者はないな」って断言。スバルに関しては私も同じ意見や。

「どうしてです、アインス?」

「ティアナは偽者でも洗脳でも説明できるが、スバルはスバルにだけしか扱えない振動破砕を使ったのだろう? あれを再現できるとは思えないんだよ」

「そうやな。でも洗脳でなんであれ、スバルが殺人に手を貸したってことが、すごい辛いわ・・・」

「・・・です」「はい・・・」

お通夜みたく沈みきった雰囲気の執務室に鳴り響く、通信が入ったことを知らせるコール音。私は一度深呼吸をして意識を切り替え、「こちらヴォルフラム艦長執務室」って応じた。展開したモニターに映るんは1人の女性。

『こちらリュッチェンス、ハルトマンです。本作戦の再確認を、と思いまして』

海上警備部の捜査司令を若干28歳で任されてるエリート、アルピナ・ハルトマン一等空佐や。

「了解です。艦内全域に流します。・・・ヴォルフラム艦長、八神です。これよりハルトマン捜査司令より、本件の作戦の再確認をしていただきます。傾注するように!」

『アルピナ・ハルトマンです。本局よりお借りした航空武装隊と共に我われ海上警備部は、確認された艦船の予測針路に従い、クルーソー無人列島へと向かいます』

ヴォルフラムとリュッチェンス、2隻の艦内全体通信を用いて、ハルトマン司令が簡単に作戦を伝えてく。“プライソンの遺産”と呼ばれる巨大兵器の1つである戦艦を、ミッドへ降下中やった本局の管理局艦船が捉えたってゆう報告がミッド地上本部に入った。その連絡はすぐに海上警備部の私らに入って、すぐに動けるヴォルフラムとリュッチェンスにスクランブルが掛かったわけや。
クルーソー無人列島は、ある私企業が社員旅行の避暑地として購入したそうなんやけど、その私企業ってゆうのを調べた結果、いくつかのマフィアが共同で使うアジトやったってことが判明。すぐに捜索令状を発布してもらい、強制捜査ってことになった。

『――では、高高度からの降下による奇襲攻撃は、30分後の1300時からとなります。各自、準備を整え終えていてください』

各自の降下地点などの再確認なども行って通信は終了。目的の島の周囲20kmには小さな島が点在するだけで、一番小さいLS級とはいえその艦艇を隠すことは出来ひんからな。奇襲するなら自然と高高度からってことになる。

「・・・そろそろですね。はやてちゃん」

「ん。行こか、リイン、アインス」

「はいです!」「はい!」

3人で執務室を出て、艦隊下部にある降下ハッチのある部屋へと向かう。そこには警備部ヴォルフラム付きの警備隊員15名、それに本局武装隊の15名、計30名が整列して待っててくれてた。私ら3人は彼らの前に並んで、「では、これより降下を始める!」って号令を掛けて、全員を防護服へと変身させる。次いでブリッジに降下ハッチを開放するように指示を出そうとしたところで、けたたましく鳴り響く警報・・・レッドアラートや。

「ブリッジ、状況は!?」

『列島の方角より捕捉信号(ロックオン)を受けています!』

見つからへんように息を殺して隠れるんやなくて先制攻撃に切り替えたか。私らの捜索から逃れられへんって観念したわけやな。それやったら大人しく投降すれば良かったのに・・・。そうすれば痛い目に遭わずに済んだのにな~。

「一応、艦船防御は働いてるゆうても、どんな攻撃が来るか判らへん。多少手荒でもええから回避行動を取ってな」

『了解で・・・、あっ! 司令、目標の艦船を確認できました!』

私らの前に大きなモニターが展開。クルーソー無人列島の映像が映し出されて、特に大きな島から1隻の戦艦が出航してる様子が見て取れた。私は「これまでに確認された艦体との照合!」を指示。

『・・・出ました! およそ1年半前に特務零課が交戦、そして破壊した艦船と同じものです!』

シャルちゃん達がまだ特騎隊として活躍してた頃やね。データを見せてもらうとそれは以前ルシル君に教わった、ビスマルク級ってゆう戦艦であることが判った。4基ある2連装主砲の計8門がヴォルフラムとリュッチェンスに向けられたようや。

「回避後、降下ハッチを開放! 私とアインスで戦艦を押さえる! 武装隊、警備隊は島内に突入し、マフィアの逮捕!」

回避行動に若干揺れるヴォルフラム。私からの指示に各隊員は「了解!」と敬礼。とここでハッチが開いて、眼下に広がる海を臨めるようになった。

「まずは私とリインフォースⅡ司令補、リインフォース・アインス司令補の3人で降下。戦艦への攻撃を開始する。その間に両隊に降下するように! じゃあリイン、アインス、行くよ!」

「はいです!」「はい!」

3人一緒に大空へと飛び立って、重力に従って急速降下。戦艦を視界に収められるほど降下したとことで「リイン! ユニゾンや!」って、リインとのユニゾンを果たす。

「アインス、兵装を真っ先に潰すよ!」

「はい、主はやて!」

高高度を飛ぶヴォルフラムとリュッチェンスを狙って放たれるのは主砲レールガン。副砲や機関砲台は稼動してへん。まぁ2隻の居る高度にまで届くとは思えへんしな。とりあえず最優先は、二連装機関砲8基の制圧やね。アレの直撃は錬度の高い航空魔導師でも確実に撃墜・・・死ぬわ。

「ハウリングスフィア!」

私は大きめな魔力スフィアを周囲に6基と配置。降下を続ける中でアインスが「妙な力場を感じます」って言うて、背中から展開されてる6枚の黒翼の中から羽根を1枚、右手の親指と人差し指で摘み取ってフッと振ると、羽根は5m近い槍と化した。

「主はやて。おそらく障壁です」

『一気に貫くです?』

「そうやな~・・・。試しに私から行くわ。アインスはよう見てて」

「はい」

“シュベルトクロイツ”の先端を戦艦へと向けて、「ナイトメアハウル!」って、杖の先端と周囲のスフィア6基から直射砲を発射。左舷の機関砲台の稼動を確認。放たれてくるんは実弾やなくて「エネルギー弾・・・!」やった。1発1発の威力は低いようやけど、さすがに何百発も撃たれたら私の砲撃も粉砕されるわ。

「さすがの私も直撃は避けたい物量です。主はやてはこの高度で待機を。ここまでは届かないようですし」

アインスの言うように主砲のレールガンの射程は尋常やないけど、エネルギー弾はそんなに長ないようや。

「次は私は仕掛けます。主はやて達は遠距離からの攻撃をお願いします」

「ん。了解や」

『判りました!』

そう言うてアインスは単独で再降下しつつ、「その身に刻め! ビーネン・シュティッヒ!」魔力槍を投擲。エネルギー弾の弾幕が迎撃に入るけど、アインスにも魔力槍にも掠ることが出来ひん。そんで魔力槍が弾幕の中を突っ切って、もうちょいで主砲に直撃ってところで艦体全体を覆うバリアに拒まれて消失した。

「っ! なんや、あの尋常やあらへんバリアは!」

『アインスのシュティッヒを防御したですか!?』

アインスの数ある魔法の中でも結構な貫通力を有するビーネン・シュティッヒ。アレを防ぐバリアとなると、私の魔法やとヘイムダルや螺旋槍レベルの質量か、集束砲くらいしか突破できひんやろな。

『戦艦が移動を始めたです!』

「アインス、航行を妨害する! 巻き込まへんようにするけど、念のために気を付けてな!」

『了解です。存分にどうぞ』

“夜天の書”のページを開いて、あるページを開けたままにする。

「仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ・・・!」

呪文を詠唱して、私の周囲に立方体タイプの魔力スフィアを4つと展開。

「来よ、氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)!!」

放射するのは4本の砲撃。狙うは戦艦・・・やなくて周囲の海。この魔法は、圧縮した気化氷結魔法を撃ち込むことで、その着弾点の周囲の熱を奪って凍結させるってゆう効果を持ってる。そやからどれだけのバリアを持ってても、足元――海を凍結されてはどうすることも出来んやろ。

「戦艦の足は止めた! リイン、今度はレールガンの迎撃や!」

『はいです! フレースヴェルグ、スタンバイ! 精密コントロール、遠距離照準、最終誘導、全部任せてください!』

また“夜天の書”のページを捲って、次に発動したい魔法のページを開きっぱなしにする。そして「来よ、白銀の風。天よりそそぐ矢羽となれ!」と詠唱へと入る。前面にベルカ魔法陣を展開。三方の円い陣から精密狙撃パターンに切り替えた砲撃、「フレースヴェルグ!」を連続発射。

(レールガンの弾速は恐ろしく速い。そやけどどこから発射されて、どこを狙ってるのかが判れば迎撃だって可能や!)

ヴォルフラムとリュッチェンスを狙って放たれ続ける(冷却時間がえらく短い・・・)レールガンを、私の狙撃砲で確実に撃ち落してく。

†††Sideはやて⇒アインス†††

主はやての氷結の息吹で航行を完全に阻害され、フレースヴェルグでレールガンも完封されている。ならば後は私が砲台を潰してしまえばいいだけ。魔力槍では突破できなかった戦艦の障壁だが、ならば障壁貫通専用の魔法を発動するのみだ。

「ラケーテン・ナーゲル・・・!」

私を撃墜するべく機関砲台より放たれてくる無数のエネルギー弾。その弾幕を舞うように躱しつつ、戦艦の左舷に取り付く。私の腕ほどの長さと太さを有する魔力で構築した1本の釘。対バリア効果を有したソレを握り込んだ右拳の前に配置し、広く取った釘の頭部を殴りつけて先端部を障壁へと打ち込む。先端部が僅かに食い込んだのを確認し、即座に「はああああッ!」魔力で打撃力を強化した膝蹴りを釘の頭部へ打ち込んだ。

(入った・・・!)

釘のおよそ半分が障壁内部へ貫通したのを確認した私は、急いでその場より離脱する。弾幕を回避しつつある一定の距離まで離れたところで「アンツュンデン!」トリガーとなる単語を口にした。直後、釘は大爆発を起こし、戦艦のバリアを内と外の両方から破砕させた。元となった魔法は、なのはのエクセリオンバスターA.C.S。高速突撃を敢行し、ストライクフレームという魔力刃でバリアを貫通、そして内側へと零距離砲撃を撃ち込むという、あの捨て身攻撃だ。

(さすがに捨て身は出来ないが・・・)

杭による刺突には一切のダメージはないが、バリア貫通という効果だけは最高レベルのものだ。何はともあれ、『主はやて! バリアの破壊に成功です!』と報告を思念通話で入れる。

『了解や!』

――フレースヴェルグ――

「闇よ、響け!」

――ナイトメアハウル――

今度こそ戦艦の兵装の破壊を行うために砲撃を放つのだが、「っ! さらにバリアだと!?」ということで、私たちの砲撃はまた防がれてしまった。だがバリアを破砕できる手段はもう既知だ。私が再び魔法を使えば、2つ目のバリアを破砕できる。

『主はやて。もう一度バリアを破砕してきます。破砕に合わせて砲撃を撃ってください!』

『判った! 爆風や破片に気を付けてな!』

もう一度接近を試みようとしたところで、『八神司令、アインス司令補! 新たな船影を確認!』とヴォルフラムより通信が入った。戦艦への接近を中止し、エネルギー弾の射程の外――主のお側まで上がる。

「嘘やろ・・・!」

『あれではまるで・・・』

「艦隊・・・!」

私たちの前に現れたのは13隻からなる艦隊だった。軍艦については私も詳しくは知らないが、ルシルから教わった知識と照らし合わせ、戦艦3隻、空母1隻、駆逐艦4隻、巡洋艦4隻、あと砲台を一切置いておらず、甲板が広々とした謎の艦が1隻という構成なのは判る。

「ヴォルフラム! 現在の状況を本局とミッド地上本部へ送信! 私らだけやと攻略は難しい!」

『りょ、了解です!』

「しかし・・・これほどの遺産を、たかがマフィアに揃えられるのか・・・?」

あの無人列島を所有しているマフィアは4つ。規模はそれなりにあるとは思うが、さすがに13隻も所有となると、本当にマフィアなのか?と首を傾げざるを得ない。主からの「とりあず一旦帰艦するよ!」という指示に、私とリインは「了解!」と応じ、ヴォルフラムへと戻ろうとしたその時、ドォン!と轟音が何度も鳴り響いた。

「艦隊の狙いは私らやない! 戦艦と列島や!」

目の前で起こる艦隊による圧倒的な砲火。私が少々苦労した戦艦のバリアを、有無を言わさぬ強大無比な砲撃で撃ち破り、数秒足らずで撃沈せしめたその光景に私たちは息を呑んだ。さらに種別が謎だった艦の甲板からは何十発というミサイルが放たれ、他の艦からも砲弾、エネルギー弾などなどが間髪入れずに放たれ、列島を焼き尽くしていく。

「この容赦の欠片もないやり方・・・! まさか、この艦隊を所有してるんは・・・!」

「ええ、最後の大隊でしょう・・・!」

あの苛烈さを生み出すことが出来るのは、プライソンか最後の大隊だけだろう。とここで、『八神司令! ハルトマン捜査司令より通信です!』とブリッジより通信が入った。

『八神司令、ハルトマンです! 今、列島内からアドニーファミリー、ウバロパーティ、異端結社、星連会、この4組織の首領より投降するという旨の連絡が入りました。そちらにもモニターを寄越します!』

私たちの前にモニターが展開され、煌びやかな部屋と円卓に腰掛けた老人4人が映り込む。身なりがきっちりした紳士のようだが、管理世界にその名を轟かすマフィアのボスである。そんな彼らは、自分たちを無事にこの場から逃がして身の安全を確保してくれさえすれば、逮捕されてもかまわない、というある種の取引を持ちかけてきた。今彼らの居る場所への隠しルートなどのマップも提供され、行けなくはなくなったが・・・。海上警備部は取引を承諾するようで、『保護しに行きましょう』とハルトマン捜査司令が指示を出した。

『八神司令・・・。海上警備部より応援を出動させたとの連絡が入っています。ですが到着までもうしばらく掛かるようです』

「・・・了解。それでは私とリインとアインスの3人で・・・」

主がそう伝えようとしたところ、ハルトマン捜査司令が自分を指差し、『4人目です♪ それに・・・』と微笑んだ。さらにモニターの外へと視線をやるとカメラが引いて、艦長席の隣に佇んでいた副官を映し出した。ターコイズブルーの長髪をポニーテールにし、桃色の瞳はやる気に満ちている。

『セラティナ・ロードスター司令補を加えた、5人で向かいましょう。すぐに合流しますね♪』と微笑んだ。捜査司令たちとの通信が切れ、そう時間を経ずにリュッチェンスよりハルトマン捜査司令とセラティナが降りてきた。

「お待たせしました」

金色のショートヘアを風に靡かせ、ツリ目気味の翡翠色の瞳は、砲撃を止めた艦隊へ向けられている。漆黒のエンパイアドレス、袖の無いインバネスコート、キューバンヒールという防護服に、先端の球体に羽を畳んだ蝶が数匹と並んだような杖型(私としてはメイスと思える)ストレージデバイス・“シュメッターリング”。

「同じ空を飛べるのは何年ぶりかな・・・?」

「そうやね~。特捜課が解散してからやし、もう随分と前やね」

「そっか~。・・・はぁ、特捜隊は解散、特騎隊は無期限活動停止。行くとこ行くとこ無くなっちゃうから、海上警備隊も無くならないように頑張るよ」

「さすがに海上警備隊は無くならへんと思うよ?」

幼少の頃よりデザインの変わらないワンピースにジャケット、コルセットスカートという防護服に身を包んだセラティナと会釈。

『ハルトマン捜査司令。艦隊の砲撃が止むとほぼ同時、列島内にて多数の魔力反応が出現しました。おそらく大隊メンバーによるマフィア掃討かと思われます!』

主とハルトマン捜査司令が顔を見合わせて頷いた。砲撃の心配が無くなりさえすれば、両艦にて待機中の戦力を投入できる。そういうわけで、2人の指示の元に各隊も降下を開始。私たちはマフィアのボス4人の保護(という名目の逮捕)となり、先ほど送られてきた最初の隠しルートへと向かった。そこは崖なのだが・・・。

「ここですね。よっと!」

ハルトマン捜査司令は“シュメッターリング”で大きな石造を打撃して粉砕。うむ、やはり杖ではなく鈍器だな。開いた隠し通路の入り口から岸壁の中へと突入。単に掘り進めただけと言うような洞穴を駆け抜け、中央館、西館、東館からなる大きな屋敷の裏手へと出た。

『あちこちから戦闘音が聞こえるです』

「武装隊も我ら警備隊も信頼に足る実力者ばかりです。今は信じて任務を果たしましょう」

ハルトマン捜査司令の言葉に私たちは頷き、屋敷へと突入しようとしたところで「局員を視認!」という声が聞こえた。こちらに向かって来ていたのは仮面持ち4人。私が迎撃に動こうとすると「私が片付けます」と、セラティナが連中に右手を翳した。

――インディビジュアル・ケース――

セラティナが魔法を発動し、4人の仮面持ちはそれぞれ桃色に輝く四角柱に閉じ込められた。結界内に居る連中が何やら叫び、内側をデバイスなどで叩いているがビクともしない。当然だ。セラティナは今もなお、管理世界最高の結界術士なのだから。
捕らえた仮面持ちは後から来るであろう部下たちに託し、私たちは屋敷内へと突入した。さらなる隠し通路があるのは西館1階にあるダンスホール。そこへ向けて駆ける中、通り過ぎたばかりのドアから「どこだ!?」と叫びながら、仮面持ちが6人と飛び出してきた。

「局員!? 貴様ら! マフィアのボスはどこだ!?」

「ちょっ、待っ、おい、うそだろ! 歩くロストロギア、八神はやてじゃねぇか!」

「ファー! マジじゃんかよ! 逃げなきゃやべぇって!」

「ば、馬鹿野郎! 俺たちの役目を果たすんだよ!」

「こ、怖いっすぅ~・・・」

「貴様! 弱音など吐くな!」

わいわい騒ぐ仮面持ちだがその魔力量はかなり高い。武装隊隊長の平均ランクであるAAかそれ以上は間違いなくある。さすがにこんな狭い場所で攻撃魔法など発動しないだろうが・・・。連中を引き連れたまま隠し通路へ行くわけにはいくまい。

「セラティナ。八神司令とアインス司令補と共に先へ。私が壁役となりましょう」

ハルトマン捜査司令がそう言って私たちの前に躍り出て仮面持ち達と対峙した。主は「了解です!」と迷う素振りすら見せず、踵を返して先へ向かう。私も「御武運を」と告げ駆け出し、残るセラティナは仮面持ちが追って来られないように、「キープアウト!」と結界を発動した。

「ご無理はなさらないように」

「ええ、承知していますよ。さ、早く行きなさい」

私たちはハルトマン捜査司令と別れ、仮面持ちに尾行されていないかを注意しながらダンスホールへと入り、聞いていたとおりにいくつかの蜀台を動かして、隠し通路の入り口を床に出現させる。螺旋状の階段を降り、薄暗い通路を進む。

「ぎゃあああああ!?」

「ひ、ひぃぃーーーー!」

「た、助け――ああああああ!」

「なぜだ! あの戦艦も、元はと言えばお前た――げぼぉ・・・!?」

ようやく見えてきたドアの向こう側から、聞こえてきてはいけなかった断末魔が聞こえてきた。主が「転移スキルか!」と走る速度を上げた。主を先に行かせるわけにはいかず、私は主を追い抜いて「武装を解除しろ!」警告しつつドアを蹴破った。かなり広い部屋の中には般若の仮面を付けた女仮面持ちが1人と4つの遺体。

『ま、間に合わなかったです・・・』

「なんでこの場所が・・・」

「っ!!・・・はやて、あの仮面持ち・・・先程までの連中とは格が違う・・・!」

主は“シュベルトクロイツ”の先端を仮面持ちへ向け、セラティナは仮面持ちの雰囲気から少しばかり及び腰だ。何故この隠し部屋に仮面持ちが居るのか、考えられることはいくつかあるが今は後回しだ。

「シュヴァルツェ・ヴィルクング・・・!」

打撃力強化や様々な効果を破壊する能力を付加する魔法を発動し、一足飛びで再接近した仮面持ちへと殴りかかる。とにかく今は仮面持ちを撃破し、確実に逮捕することを優先しよう。突進からの拳打という威力を倍増させた私の右拳を、彼女はパシン!と片手で受け止めた。

「な・・・!?」

「アインスのパンチを片手で・・・!?」

僅かなりにショックを受けていた私を、仮面持ちは受け流すかのように私を後方へと放り投げた。壁に叩き付けられる前に体勢を立て直し、一旦壁に両足を付き、次いで床に着地した。

「『封縛!』」

一方通行(サンダルフォン)の聖域!」

主とリインのバインドが仮面持ちを簀巻きのように拘束し、さらにセラティナの結界で閉じ込めた。セラティナのサンダルフォンの結界は、閉じ込めた対象の魔力生成を阻害し、一切の魔法が使えないようにする。そのため魔術クラスやスキルでようやく破壊できる魔法だ。あの仮面持ちも終わりだろう。そう思っていた。

「はああああああああッ!」

仮面持ちは機械音声のような声で雄叫びを上げ、主のバインドを引き千切った。純粋な力のみによるバインドブレイク。あのような力技、ザフィーラですらしないぞ。呆気にとられている中、仮面持ちはそのまま結界の内側を殴り始めた。さすがにそれだけは無理だろう、そう考えていた。しかし・・・

「ありえへんやろ・・・」

「そんなまさか・・・」

たった4発で結界にヒビを入れた。完全に私たちの失態だ。新たな結界やバインドを発動するよりも早く、仮面持ちは結界を破壊して自由となった。無傷のままでの拘束は無理だ。魔力ダメージによる昏倒、そして厳重に拘束。これしかあの仮面持ちを抑える方法は無い。身構えたところで、カランと床に何かが転がる音がした。

「「「『ッ!?』」」」

ビクッと体が強張る中、私は音の出所へと視線を移した。床に転がっていたのは「手榴弾!?」という、質量兵器に数えられる爆弾だった。安全ピンは抜かれている。もはや爆発は止められない。手榴弾はカッと強烈な光と音だけを発生させた。私は「くっ・・・!」思わず目を閉じ、片腕で目を覆った。主たちが何かを叫んでいるようだが、甲高い音の所為で聞こえない。

――トランスファーゲート――

「・・・っ!」

仮面持ちの気配が消えるのを感じた。それからすぐに視界が晴れ、耳鳴りはするが主の「大丈夫か!?」という声も聞こえた。私とセラティナが「大丈夫です」と応じていたところ、「八神司令!」とハルトマン捜査司令が入ってきた。

「すみなせん。仮面持ちによる殺害、および逃走を許してしまいました」

主が申し訳なさそうに頭を下げたのを、ハルトマン捜査司令は「それは残念ですが、皆さんが無事で何よりです」と主の肩を優しく叩いた。結局、今回の一件は24名の仮面持ちを逮捕できたが、おそらく幹部クラスであろう般若の仮面持ちや艦隊には逃げられてしまったことで、私たち管理局の敗北という形となった 
 

 
後書き
とりあえず今話で○○狩り編を終わりたいと思います。
次話からは再びヴィヴィオ達こども組にスポットを当て、それから本格的に開戦になる予定です。
ふふふ、1ヶ月以上も猶予を貰ったのに、なおも予定と言い張る私・・・。 
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