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戦国異伝供書

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第三話 万石取りその十一

「そしてです」
「育てて下さったからですか」
「孝行は忘れまいと考えています」
「そうですな、やはり親は大事ですな」
 羽柴も明智のその言葉を聞いて頷いた。
「やはり」
「羽柴殿もそう思われますな」
「はい」
 羽柴は明智にすぐに答えた。
「親を大事にせねば」
「なりませんな」
「何といっても。ですからそれがしも母上は」
 大事にしているというのだ。
「そうしています」
「左様ですか」
「はい、それでは母親を大事にしている者同士で」
「これからもですな」
「親しくさせて頂いて宜しいでしょうか」
「是非共」
 これが明智の返事だった。
「こちらこそです」
「そう言って下さいますか」
「それがしは新参者です」
 明智は羽柴にこのことを言った。
「ですから羽柴殿にも教えて頂きたいのです」
「それがしにですか」
「はい、何かと」
「いやいや、それがしは百姓の出ですぞ」
 羽柴は明智の今の言葉に畏まって返した。
「そうしたことはとても」
「教えて頂くことはですか」
「はい、とてもです」
 それこそと返すのだった。
「そうしたことは」
「左様ですか、しかし」
「それでもですか」
「教えて頂きたいのです」
「当家のことも」
「左様です」
「そうですか、ではそれがしも教えさせて頂きますが」
 それでもとだ、羽柴は明智に話した。
「やはり織田家のことでしたら」
「他の方ですか」
「やはり平手殿かと」
「織田家の筆頭家老であられる」
「はい、あの方は教えて欲しいと言えば何でも労苦を惜しまずに教えてくれますし公平な方ですし」
「そうした方ですか」
「確かに厳しい方ですが」
 主である信長にも厳しい謹言と厭わない、このことについてはまさに織田家のご意見番と言ってもいい。とはいっても織田家には柴田や林と口煩い者が多い。
「それでもです」
「何でもですか」
「教えて下さるので」
「織田家のこともですか」
「平手殿に聞かれれば」
「そうですか、それでは」
「はい、平手殿に会われて」
 そうしてというのだ。
「そうしてお聞きになられればいいです」
「それでは」
「はい、明智殿も今回のことで手柄を立てられましたので必ずです」
「それが認められますか」
「そうなりますので」
 身も立てられるとだ、羽柴は明智に確かな声で言った。そして実際にまずはこの度の上洛のことで彼は驚く程の禄を貰いそれからすぐの三好家が都を襲ってからの戦と長曾我部家との戦での功も認められ彼も万石取りになった。だがそれで彼も羽柴も終わりではなかった。


第三話   完


                   2018・5・23 
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