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Re:ゼロから始める士郎の生活

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七話 渦巻く心と螺旋の輪廻

 
前書き
⚠︎今回のお話は原作であるRe:ゼロから始める異世界生活の登場人物 ラインハルトの回想です。剣聖になった経緯は原作と違いますのでご了承ください⚠︎

久々の投稿です。読んで頂けると嬉しいです。 

 
この世界でたった一人。

夢や希望に憧れて、友人達と語り合った日々を僕は忘れない。

僕の見てきた景色と彼等の見ていた世界は太陽と月くらい違って、僕は月を見上げていた。
彼等は、太陽を見上げ…そして消えていった。
燃え尽き。跡形もなく────消え去った。

僕を残し彼等は居なくなった。
おかしいな。悲しくて苦しい筈なのに、僕は今も平然と生きている。
あの頃の事は、今もよく覚えている。
恵まれた家庭で、裕福な家庭で、何不自由なく生きていた。あの頃は楽しかったな。
おじいちゃん…お爺様の剣技に憧れて僕も剣を振るっていた。
素振りして、お爺様の稽古を受けて強くなっていく自分を感じていた。
前だけ見て全力疾走の日々だった。
後の事なんて考えない。先の事なんて考えない。剣だけを振るって前だけを見て生きていた。

だが、そんな日々は突如…終わりを迎える。

あの一瞬、あの刹那を僕は忘れる事は無いだろう。
いつものように友人達と剣を振るっていた────その時、僕の中にソレは現れた。
いや、継承されたと言うべきかな。
その瞬間から僕の体感時間は、世界の常識から掛け離れたものになった。
「───────────────────────────────────────」
振り下ろされた木刀。
とてもゆっくりで、止まって見えた。これは態と遅く剣を振るっているのか?
そう錯覚するくらい遅く…止まっているように見えた。
どうする?これは罠かも知れない。ギリギリまで様子を見よう。急に振り下ろす速度が速くなっても対応できるようにしておこう。
考えるよりも感じるよりも念じるよりも先に身体が動いた。
振り落とされる木刀を最小限の動きと力でいなし、相手の動きに無理矢理、隙を与えた。
これで相手は次の行動に動くのに余計な時間を掛ける事になる。あの時の僕は、その隙を好機と見て木刀を振り上げた。
そして、相手の…友達の頭部に当たる寸前で寸止めし。
「僕の勝ちだ!」
と自信満々の笑顔で勝利する筈だったんだ。
「……え?」
その一撃は重過ぎた。
寸前で寸止めした。木刀は友達に触れてはいない。
なのに友達は後方に思いっ切り吹き飛んでいった。
悲鳴と断末魔…友達は、僕の屋敷の扉に激突し貫通した。
そして屋敷の壁にぶち当たりめり込む形で、なんとか友達は助かった。
いや、助かった…というのは語弊かも知れないね。あの時の僕は勝ちたくて勝ちたくて仕方なかった。今の僕にとって勝ち負けなんてどうでもいい事だけど、昔の僕は違った。
突然の覚醒に僕は違和感を感じながらも勝利を優先したんだ。
肉体と精神の変化なんて、あの時の僕にとってはとても些細な事で、誰よりも強くなってこの街の皆を守護する騎士になりたい。そんな子供じみた安易な発送と憧れ…あの事件は起こったんだ。
それから…あの友人とはまともな会話していない。
なんとか一命を取り留めた後に、僕はお見舞いに行った。だけど…友達は、僕の顔を見て恐怖した。あの時の僕は、友達からすれば恐怖の対象でしかなく、話し掛けても目を逸らされ、道端ですれ違っても、まるで視界に映る背景と同化した障害物を避けるように去って行く。
それは、とても辛かった。
自分が傷付くより辛かった。
だから…あの頃から僕は勝負の勝ち負けに拘るのはやめた。
勝っても誰かを傷付け、負けても誰かを傷付ける僕に…存在価値なんてあるのだろうか?
あぁ、昔の僕の方がよっぽど人間らしい考えと思考をしている。
自分の存在意義を自問自答し、自分の存在する明確な答えを導き出そうとしていた。
そして…それから数ヶ月後に僕は今の僕になる要因────キッカケを手に入れてしまった。
そのキッカケを僕に与えてくれたのは『エミヤ』という男だった。
なんでも遥か遠くの大陸からやってきた異邦人で、初めて会った時は、その外見に違和感を覚えたものだ。


彼との出逢いは、お祖母様からの紹介だった。
かつていつかの戦場で知り合い、そして刃を交えた仲だとお祖母様は言っていた。
剣聖である、お祖母様と刃を交えた…?
幼かった僕でも分かる。この人はイカれていると。
そして、その時の戦いでエミヤは右腕を失い。お祖母様は手傷を負わされたそうだ。
お祖母様に傷を付けた剣士…?
大陸最強の騎士である剣聖に傷を負わせた剣士?
「ふん。アレはまぐれ、偶然に過ぎない」
苦笑しエミヤという男は言った。
「右腕を代償に与えられ痛手は過擦り傷。実力差は圧倒的で経験の差でも負けていた。
勝つ事は最初から不可能だと分かっていながらも諦めなかった男のささやかな抵抗だよ」
あの時の私はガキだった。
エミヤは最後にそう付け加え、右腕が有ったであろう空間に手をやる。
やはり…剣聖に、お祖母様に腕を切り落とされた事を後悔しているのだろうか?
「だが、今もこうして刃を交えた剣聖とこうやって面と向かって会話している。人生というものは解らないものだな…」
エミヤは左手で茶の注がれたティーカップを取り一口。
「やはり、ここのお茶は葉の味がする」
葉の味?
余りにも意味不明な発言だったのでオウム返しをしてしまった。
「いや、なに。私は見ての通り、遠い土地の人間でね。ここに来てかなりの時が経つが…何故か、お茶の味だけ馴染めないんだ。故郷の味は…なんだろうな。口で例えると難しいが、深みがあって口の中を洗い流してくれるような…」
お祖母様はクスクスと笑った。
するとエミヤは「ごほんっ」と態と咳をし。
「とまぁ、ここのお茶とは違う味なんだよ」
少し気恥ずかしそうにエミヤは言うとお祖母様は更に笑い始めた。

そう。これが、僕と『アラヤ』の出逢いだった。















それからエミヤは頻繁に顔を出すようになり、僕に色々な話を聞かせてくれた。
エミヤの故郷。
エミヤの友人。
エミヤの大切な人。
エミヤの話はどれも面白くてワクワクした。
でも、少しだけ伝わってくるこの悲しさは故郷の事を想うエミヤの心なのだろうか?
そして、僕はエミヤの意外な一面を知った。
エミヤは、感情を表情に出さない。でも、それは単に臆病だからで、表情では強がってて冷静に見えるけど…心は硝子みたいに繊細で壊れやすい事をボクはその時、初めて知った。
まぁ、臆病と言うほど臆病でも無いと思うが…外見では想像出来ない悩みやを抱えているのは確かだ。

ある時、エミヤは僕に剣術を教えてやると言ってきた。
お爺様は猛反対しエミヤと決闘寸前の所まできてたけどお祖母様が仲介してなんとかなった。あの時のお爺様は本当に凄かった。いつもは無口で何を考えてるのかよく分からないお爺様だけど僕の事を想って怒ってくれたのは子供の頃の僕でも理解出来た。
そして話し合いの末に、エミヤは僕に剣術を教えてくれる事となった。
そこ時のお爺様の表情はよく覚えている。
とても悲しそうだが…心の何処か片隅では喜んでいる。そんな複雑な心境だったのだと今なら分かる。
でも…お父様は…余り、喜んではくれなかった。
どうやらエミヤとお父様は仲が悪いらしい。
でも、その割にはエミヤが僕に剣術を教えると決まった時、反対することもなく了承していた。

その日からエミヤは、僕の師匠となった。

エミヤの教える剣術は剣技では無かった。
というか、どちらかと言うと剣撃に近いものだった。
剣は斬るもの。剣は貫くもの。剣は叩き付けるもの。
剣は斬るだけのものでは無い。斬るだけならナイフで充分だ。
剣は貫くものでは無い。貫くだけならフォークで充分だ。
剣は叩き付けるものでは無い。叩き付けるなら木の実で充分だ。
剣という概念に囚われるな。形に固執するな。用途を考えろ、そして使い分けろ。
剣だから、と剣一本で戦おうとするな。使うのは剣だけではない。
落ちている小石、実った木の実、地面の土さえも利用しろ。
無駄な物など一つもない。全てを活用しろ。無駄だと決め付けるな。
己の肉体だけで勝とうとするな。地形、気候、時間さえも利用しろ。
勝つためなら何でも利用する。
諦める決断をするのはすぐにできる。だが、挑み続けるのは困難な道程だ。
止まるな、歩み続けろ。お前の剣は、武器であって『武器』ではない。
弾かれ、そして木っ端微塵に粉砕された剣。
エミヤの剣は『剣』では無かった。
いや、本質的には剣という分類に入るのだろうが…あんな使い方をするのはエミヤくらいだろうと今でも思う。
「────────────────」
どんな手品を使ったのか、エミヤの右手には大きな弓が握られていた。
その大きさはエミヤの身長と同等…いや、それ以上の大きさを誇る弓だ。
あんな大きな弓を────いつの間に?
先程までエミヤの右手に握られていたのは巨大な大剣だった。それが急に弓に形を変える?いや、変えたのか?
どちらにせよ、エミヤは隻腕の騎士だ。
普通は二本の腕で振り回すのであろう大剣を片腕だけで振りますのは感服するが、弓は片腕だけでは使えない。これを好機と捉えた僕は、身を低くし一気に駆ける。
その時の僕の姿を見てエミヤは「流石は、剣聖の血を受け継ぐ者だ。その歳で、それ程の動き…正に天才と呼ぶべきか。あと数年で基本ステータスだけなら俺すら上回るだろう」と言っていた。
だが、それは数年後の話であり。
圧倒的経験値の差はそう簡単に埋まるものではない。
「────────!?」
勝った。そう確信した直後、僕の体は宙を舞っていた。
突然過ぎる状況の変化に僕は対応出来ず、なんとか受け身を取り着地した。そして、その着地の硬直をエミヤは逃さない。
「チェック、だ」
視線の先、エミヤは弓を構えていた。
有り得ない。エミヤは隻腕の騎士だ。弓を構える事なんて出来やしない。
「いつも言っているだろう。常識に囚われるな、と」
常識に囚われるな。確かに、エミヤの言う通りだが…どんな手品を使えば『左腕』を取り戻し、そうやって平然と弓矢を構えられるのか?
そんなの常識の範囲を逸脱している。
常識に囚われるな、というよりも非常識に囚われるな、だ。
「動きは悪くない。だが、まだまだ動作に無駄が多い。
状況を見極める能力も付きつつあるが、少しの変化に対応出来なければ戦場では真っ先に死ぬぞ?」
あくまでも左腕の件は、少しの変化にしたいのか…。
五歳の子供であった僕は、そんなの普通じゃないと愚痴をこぼした。
だが。剣聖の加護を継承してからの戦いでは、そんなデタラメな能力や魔法を扱う術者が少なからず存在する事を知り、エミヤの言っている事もあながち間違ってない事を知る。
例外は存在する。見た目からは考えれない能力を想定して戦え。
口煩く、何度もしつこくエミヤは言った。

あぁ、本当にその通りだ。

剣聖として戦に出向く時…僕は、戦いを早期に終わらせる事ばかり考えている。
どうすれば被害は減るのか。どうすれば死傷者は減るのか。どうすれば戦いは終わるのかと。
考えても考えても結論は出ないまま、戦いは終わりを迎え、戦場では夥しい程の亡骸で溢れ返っている。
最初は、戦場に漂う異臭と数え切れぬ骸を見て吐きかけた。
でも…なんとかそれを飲み込み、普段の表情を崩さぬように虚勢を張った。剣聖である僕が…弱音を吐けば戦場の士気は下がる。平常心を保て、僕は剣聖なんだ。
そうやって自分を偽り続け、今も生きている。

















あれから様々な出来事の連続だった。
先代剣聖、お祖母様は亡くなり。
僕達、家族は崩壊した。
繋ぎ止めていた鎖は簡単に断ち切られたのだ。

お祖母様が亡くなってからエミヤは自身の名を『アラヤ』に改名した。
なんでもエミヤ…アラヤはお祖母様の最後に立ち会ったらしい。
お爺様はアラヤを問い詰めた。
問い詰めて。問い詰めて。問い詰めて。最後は泣いていた。
お爺様も解ってるんだ。アラヤを問い詰めた所でお祖母様は生き返られない。
でも、それでも…最愛の人を亡くしたのだ。お爺様の気持ちは痛いくらい分かる。
なのに、どうして…。
僕は────。僕は────────。
込み上げる悲しみと苦しみ。
泣きたい。泣いて心の中のぐちゃぐちゃを吐き出したい。
どうして、どうしてなんだ?
こんなにも泣きたくて苦しくて悲しいのに…なんで、僕は…。
「何故…何故なんだ…テレシア……」
お爺様は泣いている。心の底から愛していた最愛の人を亡くし泣いている。
なのに。なんで、どうして。
この時、気付いた。いや…薄々とは気付いていた違和感の正体を知った。
やっぱりそうだ。皆の言ってる通りなんだ。
僕に、個人の自我は必要ない。必要なのは『剣聖』としてのラインハルト・ヴァン・アストレアなんだ。皆の為だけに生きて皆の為だけに戦い、誰かの為にこの身を捧げる。
今もこうして大切な人を失った悲しみを感じても嘆く事も出来ない哀れな僕をお祖母様、貴女は許してくれますか?
「ラインハルト…お前は何も感じないのか?」
お爺様は、僕の顔を見て言った。
「何とも思わないのか?
何も感じないのか?
お前は…お前は!」
怒りに満ちたお爺様の声。
ひしひしと伝わってくる。
お爺様が、どれだけお祖母様の事を愛していたのか、どれだけお祖母様の事を想っていたのか…愛おしくて哀しくて…僕なんかよりもずっと人間らしくて。
「応えろ、ラインハルト!」
剣鬼 ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアは立ち上がった。
悲しみと怒りを身に纏い震え上がった。
迸る程の殺気────殺意だ。
その殺気は孫である僕に向けられている。
「お爺様…僕は、」
息詰まった。それ以上の言葉は出なかった。
こんなにも悲しくて苦しいのに、僕は何も言えなかった。
「やめろ、ヴィルヘルムさん」
アラヤは静かにお爺様の前に立つ。
「貴方の気持ちは分かる。だが、孫であるラインハルトに己の痛みをぶつけてなんになる?」
「うるさい。黙れ、」
「今回の一件は…全て、私の責任だ。その怒りは矛先はラインハルトでは無く、私に向けろ」
「黙れ、と言っている!」
お爺様は腰に携えていた剣を抜き放ち、アラヤを断ち切ろうとした。
「────お爺様!」
その剣は止まらない。
殺気が込められた一撃は勢いが弱まる事はなく、アラヤの顔面を切り裂いた。
「アラヤ!」
避けられた筈の一撃をアラヤは避けなかった。
それどころか自ら当たるように動いていた。
「────────────────」
お爺様は冷静さを取り戻したのか、目の前の惨劇を見て剣を落とした。
「落ち着きましたか?」
アラヤは笑顔でお爺様に言った。
「何故、避けなかった?」
「愚問ですね。逆に何故、避けると思ったのですか?」
ポタポタ…。
その傷は深く、痛みは計り知れない。それなのにアラヤは笑顔なのだ。
「ヴィルヘルムさん、貴方の悲しみは計り知れない。
だが、その悲しみは自分のものだけではない。ラインハルトも…私も同じ悲しみを背負っているんだ」
「…………」
「だから、ラインハルトに当たるのはやめてくれ。怒りをぶつけるのは私だけでいい」
深々と刻まれた斬撃。
それはアラヤの顔に二度と消える事のない傷跡を残した。
あの一件からアラヤは自身の顔を隠すように包帯で顔を覆った。
それ程、傷跡は深く残酷だった。
それ以降、アラヤは睡眠時以外は顔の包帯を外す事は無く、ずっと包帯を巻いたまま生活している。
一度、友人の治癒魔道士を紹介し。
アラヤの顔の傷跡を癒そうとした事もあったが…。
「いや、いい」
アラヤは丁重に断った。
「この傷は、私の罪の証だ。忘れてはならない、大切な思い出なんだ」
包帯で覆われ、アラヤの表情は分からない。
だが、自身の傷跡を悔いてはいない様子だった。
寧ろ…誇りさえ抱いているようにも見える。
ならこれ以上の事は何も言うまい。


お爺様は変わられた。
以前より優しくなられた。
丸くなられたと言うべきか、以前よりも親しみやすい雰囲気になっている。
とても、あの剣鬼と恐れられたヴィルヘルム・ヴァン・アストレアとは思えない。
っと、お爺様の部下であった老兵は言っていた。

そして、お祖母様か亡くなって半年が過ぎた頃。

アラヤは、お爺様にお祖母様の死因である白鯨について語った。
直接的な死因では無いが、お祖母様の死に深く関わっている。そして白鯨を倒せば…直接的な死因の要因に辿り着けるかも知れないと。
何故、このタイミングでアラヤはお爺様に話をしたのか…。
僕は問い詰めた。
「今なら話しても問題ないと判断した」
アラヤはそう言って去っていった。
そして再び────お爺様は剣鬼としての殺意を身に纏い立ち上がったのだ。
もしかしたら結果的には、これで良かったのかも知れない。
それからすぐに。お爺様は、アストレア家から出ていった。
そして白鯨を討ち取る為に、大陸各地を探索し、白鯨に関する情報を少しずつ収集していったそうだ。
僕も、王国での職務の間に白鯨に関しての情報を可能な限り集めたが…どれも不確かなものばかりで、お爺様の役に立つ情報は無かった。
そしてそれから更に数ヶ月後、お爺様は帰ってきた。
だが、帰ってきた直後にお爺様は。
「ラインハルト、ハインケル…私は、この家から出て行く」
お爺様は家を。
家族を捨てた。
いや、捨てたというのは語弊だ。お爺様は、家族を想うからこそ自ら身を引いたのだ。
それからお爺様は、王候補の一人であるクルシュ・カルステン様の元で仕えているそうだ。

あれからお爺様とは会っていない。
お父様ともすれ違う程度で会話もろくにしていない。
寂しいとは感じないが…この違和感は何だろう?
言葉にしようとするともどかしい。

「────────────────」

頭の片隅で、心の中で、僕にいつも考えている。
剣聖として、ラインハルト・ヴァン・アストレアとして…僕は役割を果たせているのかと?
剣聖は、誰よりも強くなくてはならない。
肉体的にも精神でにも強くなくてはならない。
今の僕は強いのか?
剣聖の加護を継承してから一度も敗北をした事はない…でも、勝利してきたとは限らないんだ。
負ける事は無かった。だが、全ての戦いにおて勝ってきたとは言い切れない。
色んな失敗をしてきた。
あともう少し早ければ助かった生命だって沢山あった。
いくら強くなっても…周りの誰かは死んでいくんだ。
じゃあ…僕は、何の為に強くなったんだ?
別に望んで強くなった訳ではない。だが、強くなったのなら…その責務を果たさなければならない。それが、剣聖の一族に産まれてきた者の宿命とも言える。
望まれた力を皆の為に使う。そして皆の為に戦う。

皆の望む強さとは『暴力』

他者を圧倒する力だ。

言葉でも無ければ想いでもない。この力は、ただ人を殺す為だけにある。
結果的に、それが人の命を救うなんてどうかしてる…と昔の僕なら言っただろう。
でも、違う。違うんだ。
戦場では敵軍の兵士をどれだけ殺したかで勝敗が決まる。
無闇に闇雲に人の生命を奪いたくない…殺したくない。
だが、剣聖として僕は役割を果たさなければならない。
敵に、最低限の被害でどれだけ数を減らせるか…そして、どうすれば戦いを早急に終わらせられるか…そんな事ばかり考えてしまうんだ。
敵将を討ち取って早期解決?
ひたすらに敵兵を薙ぎ払って終わらせる?
そもそも敵国を滅ぼせば戦いは終わるのか?
いや、終わらない。敵国との戦争に勝ったとしても人間という生き物は戦いからは逃れられない宿命なのだ。
だから、抑止力に期待してしまう。
もしかしたら、もしかすれば…。
あるかも知れない。有り得たかも知れない可能性にすがってしまう。
「戦いは終わらない。なら、どうすれば最低限の消耗で終わらせられるか考えろ」
アラヤは、戦場に出向く度に言ってきた。
何度も何度も決まり文句のように言ってきた。
解っている。分かっている。判っているんだ。そんな事は剣聖の加護を手に入れた時から分かっていたんだ。でも、そんなの悲し過ぎる。人間は戦う事でしか争いを止める事は出来ないのか?
互いに傷いて痛みを共有する事でしか分かり合えない生き物なのな?
違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。
人間は、そんなに愚かな生き物ではない。
だから僕は信じる。いつか人と『人』が本当の意味で分かり合う、分かり合える事を。
きっと、アラヤもそう信じている。

この先どれだけの憎しみや悲しみが人々を押しつぶしても。

傷付け傷付けられ、互いに嫌悪しあっても。

人が、人である限り────終わらない。

灯された光が消えることはない。例え、それが『シンシアの光』であったとしても。

この世界は、希望と『光』で満ち溢れているんだ。





 
 

 
後書き
読んでくれてありがとナス 
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