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真田十勇士

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巻ノ百四十四 脱出その十

「ここで動かねばです」
「何が豊臣恩顧の家なのか」
「だからこそです」
「ここはです」
「動いたまでのこと」
「礼には及びませぬ」
 こう言ってだ、彼等は礼はよしとしてだった。
 船は瀬戸内から肥後に向かった、だがその間船は揺れることもあったが秀頼はその揺れについて話した。
「この揺れは何じゃ」
「はい、これは波です」
「波というのか」
「海は大層この波で揺れまして」
 幸村は秀頼に船の中で話した。
「この様になり申す」
「そうなのか」
「何、この程度では何もありませぬので」
「安心してよいか」
「はい」
 秀頼に確かな声で答えた。
「それは。ただ」
「ただというと」
「我等は誰もそうではないですが」
 こう前置きして秀頼に話した。
「問題は酔うかどうかです」
「酒を飲むのか?」
「いえ、船の揺れに酔うかどうか」
「そのことが問題か」
「左様です」
 こう秀頼に話した。
「ここで問題は」
「ううむ、わからぬな。酔うというと」
 秀頼は実は船にも乗ったことがない、それで幸村の今の言葉がわからずそれで彼に対していぶかしむ顔になり言った。
「酒でな」
「酔うとですな」
「余はそちらで何度も酔ったことがあるが」
「それとは別の酔いであります」
「そうなのか」
「酔いは酔いでもです」
「船で酔うのか」
「揺れで」
 幸村は秀頼に確かな声で話した。
「そうしたものです」
「そうなのか」
「はい、左様です」
「ううむ、酔いがあるやも知れぬか」
「その時はお気をつけを」
「わかった」
 秀頼は船酔いについて知らないまま幸村に応えた。
「ではな」
「はい、船酔いのこともですな」
「頭に入れた。それではな」
「これより肥後に向かいますので」
「そこから薩摩に入りな」
「これからの生を過ごされます様」
「そうする」
 幸村に再び答えそうしてだった。
 大坂城を落ち延びた秀頼は九州の南に落ちていった、彼は死んだことになっていたがその実は違っていた。


巻ノ百四十四   完


                  2018・2・21 
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