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真田十勇士

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巻ノ百四十四 脱出その五

「今見た通りな」
「確かに」
 秀忠は父のその言葉に頷いて応えた。
「見事でした」
「では後はじゃ」
「戦の後始末ですな」
「うむ、それをするとしよう」
「それが終わってからですな」
「わしは駿府に戻る、それで江戸じゃが」
 家康は秀忠がいる幕府のあるその街のことをここで尋ねた。
「そろそろよい街並みになってきておろう」
「はい、ようやく。城の方も」
「それは何よりじゃ。あの地から天下を治めていくからのう」
 幕府としてはというのだ。
「あの街は栄えねばならぬ」
「ですな、しかし最初はです」
 秀忠にしてもだった、最初江戸を見て思ったことは家康と同じだった。それで今はその時のことを懐かしんで話した。
「今の様になるとは」
「とてもじゃな」
「思いませんでした」
「もう何もない草原だったからのう」
「それが今はそれなり以上の街並みになっており」
「城もじゃな」
「見事な城になろうとしています」
 こう家康に言うのだった。
「大坂の城に勝るとも劣らぬ位の」
「それは何よりじゃ、ではな」
「その江戸城からですな」
「天下を治めよ、よいな」
「はい、それでは」
「天下泰平がようやくはじまる」
 まさに今からというのだ。
「戦の世はこれで完全に終わるからな」
「この度の戦で」
「そうじゃ、もう大坂城もなくなる」
 天守閣は今も燃え盛っている、その天守閣がどうなるのかは言うまでもなかった。
「そして幕府を脅かす者もな」
「後は民の信頼を繋ぎ止めていれば」
「幕府は長く続くぞ」
「ではそのうえで」
「泰平を守っていくのじゃ、よいな」
「畏まりました」
 秀忠は家康に確かな顔で応えた、そうして戦の後始末の後彼は江戸への帰路についた。だがその途中にだ。
 己に親しい者達にだ、こう漏らした。
「天下はこれより泰平になるな」
「この度の戦も終わり」
「そうして遂にですな」
「泰平の世となりますか」
「いよいよ」
「そうじゃ、しかし泰平になれば政も変わる」
 それの在り方もというのだ。
「泰平の政はやはり王道じゃな」
「正しい政ですな」
「民や国と向かい合いそうして治める」
「異朝の尭や瞬の様な」
「そうした政ですな」
「そうした政では謀はいらぬ」
 秀忠はこう言うのだった。
「謀ではなくな、国や民と向かい合って治め」
「そして安らかにし豊かにする」
「そうした政が必要ですな」
「そこに謀はいらぬ、だからじゃ」
 秀忠は自身の周りにいる者達が皆彼にとっては心から信頼出来る者達であることを確認してからまた言った。
「本多上総介はな」
「やがてですか」
「遠ざけられますか」
「そうされますか」
「あの者は謀が多過ぎる」
 それで幕府でも辣腕を振るっている、父の本多正信と共にこと謀においてはお家芸と言えるまでだ。 
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