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真田十勇士

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巻ノ百四十三 それぞれの行く先その九

 幕府に使者を送った、使者は家康のところに来て大野の言葉を伝えた。
「その様にされますので」
「そうか、切腹じゃな」
「この度のことは全てご自身に責があるとのことです」
「それでじゃな」
「これより腹を切り首を差し出すので」
 そうするからだというのだ。
「右大臣様、そして茶々様のお命を」
「わかった」
 家康は己の前で話す使者に穏やかな声で答えた。
「わしはそれを了とする」
「では」
「修理殿にすぐに伝えよ」
「腹を切れと」
「そして右大臣殿もすぐにじゃ」
 その秀頼のことも伝えた。
「高野山に入る用意をされよとな」
「そうして頂けますか」
「茶々殿も然るべき場所にお送りする」
 彼女のことも話すのだった。
「そうしてじゃ」
「その地において」
「暫しおられよと伝えよ、そして千は」
 自身の孫娘のことも話した。
「こちらに送ってくれればな」
「それで、ですか」
「何としても助ける」
 幕府の方でというのだ。
「心配は無用じゃ」
「千様のことも」
「全てな、降る者は全て許す」
 豊臣の他の者達のことも言うのだった。
「だからな」
「はい、それでは」
「すぐに伝えよ」
「それでは」
「うむ、そなたはすぐに城に戻ってじゃ」
「そしてですな」
「修理殿にお伝えせよ」
「わかり申した」
 使者は家康に応えた、だが家康はここでその使者に対して鋭い顔になりそのうえでこうも言ったのだった。
「急ぐのじゃ」
「急いで、ですか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「修理殿にお伝えせよ、城はもう危うい」
 あちこちから火が出て来た、もう兵達も攻め入り秀頼達がいると思われる御殿にも迫ろうとしていた。
「修理殿には急いでもらわぬとな」
「何が起こるかですか」
「わからぬ、それでじゃ」
「急いで、ですか」
「修理殿にことの次第を済ませてもらう」
 切腹、そして首を贈ることをというのだ。
「よいな」
「さすれば」
「そのうえでわしが戦を止める」
 家康自身がというのだ。
「天下人の名に賭けて約束を守る」
「有り難きお言葉、それでは」
 使者はすぐに家康の前から退散し大野のところに戻った、そうして大野にその言葉を伝えるとだった。
 すぐにだ、大野は今自分の周りに残っている者達に言った。
「では今すぐにじゃ」
「はい、腹を切られ」
「そしてですな」
「御首を大御所殿にお渡しする」
「そうされますな」
「そうする、一刻の猶予もならん」
 それこそというのだ。
「だからな」
「すぐにですな」
「腹を切られ」
「そうしてですな」
「そのうえで」
「後は任せた」
 己の首を家康に届けそうしてというのだ。 
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