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カー女

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第三章

 それからも玲は販売所で働き続けた、その車を見る目は的確で客へのアドバイスも見事だった。だがある時に。
 店に売りに来られた車、ベンツのそれを見てだ、玲は即座に顔を顰めさせた。そのうえで店長にそっとこう囁いた。
「店長、あの車は」
「何かあるのかな」
「買わない方がいいです」
「えっ、どうしてなんだい?」
「タイヤのところを見ますと」
 玲はそこを見て言うのだった。
「何度か轢いた跡があります」
「えっ、そうなのかい?」
「タイヤは交換していますが」
 それでもというのだ。
「明らかにです」
「その跡があるんだ」
「妙に浮かんでいます」
 タイヤのところがというのだ。
「何かを轢かないと、それに」
「それに?」
「撥ねてもますよ」
 車の前の部分も見て言うのだった。
「かなり巧妙になおしてますけれど」
「その跡があるんだ」
「はい、多分猫や狸を何度も轢いたり人も」
「撥ねたことがあるんだ」
「あれは事故車ですよ」
 間違いなく、という言葉だった。
「そうした車もありますよね」
「うん、事故車はね」
「色々ありますから」
「じゃああの車は」
「それにです、お客さんも」
 売りに来た者も見た、するとその客もだ。
 悪趣味なパーマに細い鋭い目、河豚の様に腫れた顔だ。大柄で太った身体の動作はかなり傲慢な調子である。
「ヤクザみたいですよ」
「学校の先生だって言ってるけれどね」
「それでもです、多分です」
「ヤクザみたいな人間なんだ」
「わざわざ窓もダークミラーにしていて」
 玲は窓も見ていた。
「もう如何にもですから」
「素性のよくない人か」
「学校の先生こそですよ」
 玲は店長にこうも話した。
「変な人多いじゃないですか」
「そういえば学校の先生のセクハラとか暴力事件多いな」
 店長もネット等の記事でこうしたことは知っている、とかく学校の教師絡みのそうした手の犯罪は異常に多いことを。
「そうだな」
「ですから」
「あの車はか」
「買わない方がいいです」
「そうか、しかしな」
「ただ断ってもですね」
「向こうがどう暴れるかわからないぞ」
 店長はこのことを心配して玲に囁いた。
「それこそ」
「はい、ですから」
「何かいい策があるかい?」
「私が細かくチェックしますから」
 その如何にもな輩が持って来た車をというのだ。
「その査定で買うと言えば」
「返るか」
「あの車何万で買えって言ってますか?」
 一応だ、玲は店長にこのことも確認した。
「それで」
「二百万だよ」
「十万ってところですね」
 その車をざっと見てだ、玲は言い切った。
「とても二百万なんて」
「そんな値段はしないか」
「色々変な細工して新品に仕立てていますけれど」
 それでもというのだ、玲の確かな車の鑑識眼から見ればそうした小細工もあっさり見抜けるものだったのだ。 
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