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エイハブ船長の恋

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第五章

「いつもな」
「聞くだけだよな」
「断っている」
 聞いたうえでというのだ。
「そうしている」
「そうか、しかしな」
「しかし。何だ」
「あんたもそろそろあの娘のことを覚えてきただろ」
「いつも声をかけられているのだ」
 交際して欲しいとだ、今もというのだ。
「それならな」
「そうだよな、じゃあ今日もな」
「あの娘の話をか」
「聞いてやればいいさ」
「聞くだけだがな」
 それでだけだということはだ、船長は不愛想な声で述べた。
「本当にな」
「それでもいいからな」
「今日もか」
「聞けばいいさ」
「わしの何処がいい」
 船長は自分のことを思った。
「一体」
「だから海の男だからだろ」
「それでか」
「海の男独特のよさがあってな」
 船長にはというのだ。
「ゴロツキ共だって何なく蹴散らしただろ」
「だからあれはどうということはない」
「そこでそう言うところもな」
「いいのか」
「いい海の男でな」
「馬鹿を言え、わしの頭の中にあるのはな」
「あの鯨だけだな」
「そうだ、あいつを見付け出し」
 そしてというのだ。
「わしのこの手でだ」
「倒すんだな」
「それだけがわしの願いでだ」
「あんたの全てだな」
「あいつは絶対にいる」
「何処にいるかはわかってるんだな」
「日本の近くだ」
 当時鎖国していて入ることの出来ないこの国だというのだ。
「あの近くにいる、足を食われた時もだ」
「あそこでだったんだな」
「そうだった、だからだ」
「あそこに行くとか」
「あいつがいてだ」
 そうしてというのだ。
「必ずだ」
「見付け出してか」
「その為の備えも幾つも用意している」
「そしてその備えでか」
「あいつを倒す」
 こう言う、だが。
 ここで船長は気付いた、これまで執念と憎悪に燃え盛って言っていた。しかしその声がだったのだ。
 その執念と憎悪が薄まったいた、それもかなり。
 それで船長はこのことに自分自身が驚いて言った。
「いや」
「いや?どうしたんだい?」
「わしは憎くないのか」
「モビィーディッグがかい」
「恨んでいないのか」
「あんたの人生の全てだろ」
「そうだ」 
 親父にはこう返した。
「まさにな」
「それが変わったのかい?」
「そんな筈がない」
 自分のその考えを否定した言葉だった。
「わしは、だが」
「まあな、あれだよ」
 親父は船長の考えはわからない。だがこう言うことは出来た。 
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