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連絡は取らない

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第二章

「そんな人?」
「ひょっとして」
「誰なのかしら」
「有名人か悪人か」
「どっちなのか」
「一体」
「何処の誰なのか」
 まさ謎が謎を呼ぶだった、多くの者が芹香の父親が何者なのか疑う様になっていた。それでだった。
 学校でもこのことはよく言われる様になっていた、だが当の芹香は何も語らない。それで余計にだった。
 謎が謎を呼んでいた、それで疑問に思っていたが。
 このことについてだ、芹香は出張先でタクシーに乗った時に運転手に対してこんなことを言ったのだった。
「私には秘密があるの」
「秘密?」
「ええ、お父さんがいるけれど」
 その父のことを言うのだった。
「実は何でもない人なのよ」
「といいますと」
「屋台のラーメン屋よ」
「あっ、そうなんですか」
「ええ、地元のね」
 それをしているというのだ。
「今の時間だと丁度ね」
「屋台出していますか」
「そうしているわ」
 こう彼に話した。
「それでお客さんにラーメン出しているわ」
「そのラーメン美味しいですか?」
「地元じゃ結構評判らしいわね」
「それは何よりですね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「私は食べたことがないわ」
 父が食べたそのラーメンをというのだ。
「本当にね」
「そうですか」
「私はラーメンは味噌ラーメンしか食べないの」
 芹香は偏食家だ、それでラーメンも食べるものは限られているのだ。
「お父さんのラーメンは豚骨だから」
「それで、ですか」
「そう、食べないの」
 そのラーメンはというのだ。
「だからね」
「お父さんのラーメンもですか」
「食べないの」
「そうですか」
「ええ、食べないからね」 
 だからだというのだ。
「仕方ないわ、それでね」
「それで?」
「連絡も取っていないのよ、ラーメンを食べないならね」
 それでと言うのだった。
「連絡を取る必要もないでしょ」
「ラーメンを食べない人のラーメンを」
「そう、だからね」
「連絡も取らずに」
「いるのよ、まあラーメンはね」
 それはというと。
「私は本当に味噌ラーメン以外食べないから」
「醤油ラーメンもいいと思いますけれどね」
「生憎偏食家だから」
 それでというのだ。
「仕方ないわ」
「じゃあお父さんとは」
「まあ何かあったらね」
 タクシーの運転手は知らないがそれでもだった、大学の者達と同じことを言うのだった。
「連絡が来るわよ」
「さばさばしてますね」
「私に何かあっても」
 芹香はその場合についても述べた。
「やっぱりね」
「何かありますか」
「そうなるわ」
「そんなものですか」
「だからね」
「それでいいっていうんですね」
「そう考えてるわ、もうお母さんもいないし」
 母のこともここで話した。
「私が高校卒業してすぐにね」
「そうですか」
「癌でね」
 芹香はこのことは項垂れて話した。
「そうなったわ、あとはお父さんだけれど」
「そのお父さんもですね」
「何かあったらだから」
「連絡つけてないですか」
「ええ、これが私の秘密よ」
 前で運転をしている運転手に話した。
「あくまでね」
「人は誰にも秘密があるってことですね」
「そういうことになるわね」
 芹香はくすりと笑って応えた、そうしてタクシーで自分の宿泊先に戻った。部屋に戻るとシャワーを浴びて一人飲んで休んだ。


連絡は取らない   完


                 2018・6・24 
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