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55部分:ローゲの試練その九


ローゲの試練その九

「あの星系を攻略するには」
「ですが今が好機だとローゲは述べております」
「何故だ」
「今あの星系にはあまり戦力が残っていないそうです」
「そうなのか」
「はい。今帝国軍はラートボートに戦力を集結させております」
「ラートボートに」
「そこに向かっているトリスタン=フォン=カレオール博士の軍に対処する為の様ですが」
「トリスタン=フォン=カレオール」
 その名を聞いたローエングリンの眉が動いた。
「御存知ですね」
「帝国で知らない者はいないだろう」
 彼はワルターにこう返した。
「帝国きっての天才科学者だ」
「はい」
「確か不老不死の薬も開発していたというが」
「事の次第はわかりませんが」
「だが帝国科学技術院において顧問まで務めたかなりの頭脳の持ち主であることは確かだ。だがその彼が軍を率いているのか」
「何でも助手を追っているということで」
「助手!?誰だ、それは」
「クンドリーです」
 ワルターは答えた。
「あの女はかってはカレオール博士の助手であったそうです」
「そうだったのか」
 これははじめて聞くことであった。
「カレオール博士の助手をしていたのか」
「博士の下から身を消して。それからは行方不明でしたが」
「確かニュルンベルクにもいたのだったな」
「そのようです」
 ヴァルターの下にいた侍女が彼だったのである。これはローエングリンも聞いていた。
「そして我々の艦隊に対してテロを行ないヴェルズングに追わせた」
「その通りです」
「話ではラインゴールドに向かっていたというが」
「実はラートボートにいたということでしょうか」
「わからない。だが話を合わせていくとクンドリーは実に行動範囲が広い」
「はい」
「そして。明かに帝国の為に動いているな」
「そのカレオール博士の下にいた目的がその薬の奪取であったとするなら尚更」
「帝国の。最重要人物の一人なのかも知れない」
「ゼダンを占領したならばそこからラートボートへの道が開けますが」
「それもあるな。ではここは動く時か」
「私もそう思います」
 これはワルターの考えであった。
「後は司令の御決断だけです」
「よし」
 ローエングリンはそこまで聞いて頷いた。
「では行こう、次の攻撃目標はゼダンだ」
「はっ」
「そしてそこを攻略し、ラートボート侵攻への足掛かりとする。五個艦隊全軍で以って先に進むぞ」
「わかりました。では」
 ワルターはその命令に応えた。
「すぐに出撃準備を」
「うむ。だが」
 しかし彼はまだ思うところがあった。
「何か」
「クンドリーという女のことだが」
「はい」
「何者なのか。ニーベルングの手の者にしても」
 彼はそれについても思案を巡らせざるを得なかった。
「あまりにも動きが早く広い。そして不可解な部分も多い」
「言われてみれば」
 その通りである。これにはワルターも同意であった。
「果たして本当に帝国の者なのか。それも気になるな」
「あの帝国には実に謎が多いですから」
「ニーベルング自身もな。何もかもが謎だ」
 はっきりしていることは殆どない。クリングゾルにしろその素性は殆どが謎に包まれているのだ。だからこそ彼等は苛立ちも覚えていたのである。
「だがそれでも戦わなければならない」
「はい」
「情報を集めながらな。ではゼダンに向かおう」
「了解」
 ローエングリンは兵をゼダンに進めた。それまでの進撃は極めて迅速であった。一個艦隊が防衛にあたっていたが哨戒程度の艦隊でありさしたる脅威ではなかった。彼はそれを何なく退けるとそのままゼダンに向かった。だがその入口で敵が待ち受けていた。
 
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