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リング

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45部分:エリザベートの記憶その二十三


エリザベートの記憶その二十三

「ヴェーヌス!?」
 だがすぐにそれはわかった。
「いや、違うな」
 まず髪と目の色が違っていた。顔は全く同じであったがそこが違っていた。そして雰囲気も。ヴェーヌスには何かしら妖しさが漂っていたがこの少女からは清楚なものしか感じられなかった。姿は同じでもそこが全く違っていたのだ。
「私はエリザベートと申します」
 その少女はこう名乗った。
「エリザベート」
「はい、エリザベートです」
 彼女はタンホイザーに憶えてもらえる様にという為だろうか。繰り返した。
「そのエリザベートが何故私の前に」
「貴方にお伝えしたいことがありまして」
「私にか」
「はい」
 エリザベートはこくりと頷いた。タンホイザーはそれを見て心の中で呟いていた。
(あのモンサルヴァートという男が言っていたのはこのことだったのだろうか)
 心の中で考える。
(私の。運命とは)
「お気付きのようですね」
 彼の心の中を読んでいるのだろうか。彼女は声をかけてきた。
「朧ですが」
「私の心は読まれているようだな」
「ある程度は」 
 彼女はそれを認めた。
「貴方のことは。知っていますから」
「そうか。私もそうかもな」
 タンホイザーはそれに応えた。
「私も。知っているかも知れない」
「そうでしょう」
 エリザベートはそれに返した。
「私は貴方に出会う為に生まれたのですから」
「では聞きたい」
 タンホイザーはそこまで聞いてあらためて問うた。
「君は何故私の前に現われたのか」
「貴方を導く為に」
 彼女は答えた。
「それはヴァルハラへか」
「そうです。貴方はそこを目指される方なのです」
「私がか」
「貴方だけではありません」
 エリザベートは言う。
「ジークフリート殿も」
「ヴァンフリート首領も」
「あの方は今ラインゴールドにおられます。貴方をお待ちして」
「何故だ。何故彼もまた」
「あの方もまた。運命に導かれているからです」
「運命に」
「はい。あの方も貴方も。そして他の方々も」
「運命に導かれているのか」
「七人の運命に導かれた人々が」
 エリザベートは言葉を続ける。
「ヴァルハラを目指す運命なのです」
「そのうちの一人が私だというのか」
「はい」
「何の為に」
「呪われし魂を持つ男を止める為に」
「クリングゾル=フォン=ニーベルングを」
 エリザベートは黙ってこくりと頷いた。それが何よりの証であった。
「倒す為にか。それを知らせる為に私の前に現われたのか」
「どう為されますか」
「断ることもできないだろう」
 タンホイザーはこう返した。
「運命にあがらうことはできない。それに」
「それに?」
「私は。あの男に借りがある」
 彼は低いが怒りを含ませた声で言った。
 
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